沈黙
本気でぶつかり合う2人の雄叫びが体育館の中に響く。
龍二と連れのハル高生だけがこのタイマンを見ている。
結末は他に誰も知らない、だがそんな事はどうでもよく
今、このタイマンを見ている龍二の瞳にはある感情が湧き出していた。
それは拓と再び殴り合いたいという怒りと嫉妬。
男はどうしようもない生き物で女には理解できない考えがある。
その中の一つ強い者を見てると挑戦せずにはいられない。
龍二は唇を噛みしめ、拓を見つめた。
拓はそんな龍二をよそに拳を前へ前へと出していた。
しばらく殴り合いが続き、息を切らせた拓が口を開く。
「お前思った以上に強いな!」
「ハル高のトップを務めてるんだ強くて当たり前だろ」
「そっか・・・だよな!俺も東学の頭だ!負ける訳にはいかねぇ~よ」
「嘘つけ・・・東学の頭は村田信二だろ」
「ちげ~よ!!あんなすぐやられる奴と一緒にすんな!」
必死になる拓を見て笑いながら言う。
「お前ほんっと面白いな~」
拓も口元についた血を拭きながら言う。
「お前こそ最高だぜ!そういえばあんたなんて名だ?」
「俺に勝ったら教えてやるよ」
「だったらマジで負けてられないなぁ~」
二人は再びぶつかりあう。
2人の足元には真っ赤な血が落ちている。
この腐った街でごみ扱いされる俺達を少しの時間輝かせてくれる場所、この校舎の上を
無数のカラスが飛び去っていく。
しばらくして体育教師の大橋が体育館に来たときにはすでに誰も居ず、ただ血だけが残されていた。
東学の門を出た所にはハル高の二人がこの場を去る後ろ姿が見える。
「おい・・・」
連れの肩を借りて歩くハル高の頭が小さな声で言う。
それに小さな声で返事をする。「はい?」
「この戦いでハル高の奴らは納得いくと思うか?」
「どうですかね?」
「今の頭の座を取るまでの道のりは面白かったが、このタイマンは何故かな?それ以上に最高だったな」
「そんなにあいつは強いんですか?」
「強さじゃなくて・・・なんだろうな、それが分かればお前もハル高の頭を取れるんじゃないか?」
「冗談はよして下さいよ!」
「はは、卒業までにお前もあいつに挑戦してみろ。きっと分かるはずだからよ」
二人はそのまま一言も交わすことなく去って行った。
一方拓と龍二も東学を出て帰宅していた。
「あ~いてぇ~な、口の中切れてるよ」と拓は騒ぎながら龍二に言っているが、とうの本人は少し下に目線をやり
静かに歩いていた。
「なぁ~どうしたんだよ!?」と拓が龍二の顔を覗き込む。
ニコッと笑顔で龍二を見ている。
龍二は目を見開き、腕を振りかざし拓と間合いをとった。
突然の行動に拓は驚く。
「どうしたんだよ?」
二人の間に亀裂が入り、最高の友が最悪の敵に変わる瞬間はすぐだった。




