ゲームから『デスゲーム』への軌跡
この作品はフィクションです。実際の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
『NARROW ONLINE-ナロウ・オンライン-』。
最大総プレイヤー数が19万人近かった日本最大のVRMMORPGの正式名称である。
ゲームの内容を簡単に説明すると、ジャンルとしては『剣と魔法のファンタジー世界を舞台にしたロールプレイングゲーム』に分類される。
中高生の若年層をメインターゲットとした低料金VRMMORPGというのが『NARROW運営』(以下、NO運営)の狙いであったのだが、実際に蓋を開けてみると意外や意外。
老若男女問わず様々な年代の人々が大勢参加するという一大ブームを巻き起こした。
NO運営からすれば嬉しい悲鳴であった……この時はまだ。
それでは世界設定から説明を始めよう。
ゲームの舞台となる世界の名前は『NARROW』と呼ばれており、まだ神々が肉体を持っていた頃に彼等によって四つに分けられた世界のうちの一つという設定があったりする。
ちなみに他の三つのうち『NICHE FAN』『KNOCK DOWN』は存在が確認できているが、互いの行き来等はそう簡単には出来ないという設定である。
何でも各世界間に相互侵入不可能な『多重複層型結界』が神々によって直々に設置されており、常人には>>>超えられない壁>>>として立ち塞がっているから基本的に行き来は無理との事。
あとは残るひとつの世界についてだが……残念ながらゲーム内でも『語るに値しない世界』とか『腐敗した世界』とか呼ばれておらず、詳しいことは判っていない。
だがNPCからは『何だかベーコンレタス臭い感じがする!』と忌避されているという設定らしく、多分だが魔界とか地獄とかが一番イメージに近いのだろう。
どうやら設定にある創世神話によると、本来はこの忌まわしい世界だけを大本の世界から切り離すつもりだったが、どうしても単体では切り離せずに他の世界も巻き込まれる形で切り離されてしまい、今の状態になっているらしい。
しかし現在でもこの世界だけが観測不可能となっており、本当に存在するのかすら疑わしいとか。
将来的に続編を出す時に舞台となる可能性があるんですね、判ります。
あと噂では神々から認められて『トリップ』という形で各世界間移動が出来るようになるらしいが、あくまで噂に過ぎない。
ちなみに今の神々は遥か過去に起きた大戦の際に肉体を失っているが、その原因が実は『NARROW』世界にあったりするとか。
隠しボスですね、判り(ry
次にゲームのシステム面の説明をしよう。
この『NARROW』世界の最大の特徴は、世界各地に点在する様々な『遺跡』群であろうか?
しかし一見したところ巨大な森や草原しか見えず、一体どこに遺跡なんかあるのか? という長閑な風景だが、実は遺跡の多くは巨大な森の中に存在している。
というよりもNARROW世界では遺跡の上に樹木が生い茂った結果、その辺り一面が深い森になっていたりするので、『世界中にある巨大な森≒遺跡』と考えてもいい。
遺跡を巡り繰り広げられる諸国同士の軋轢や、遺跡内やフィールドを徘徊する魔物を倒しつつ素材をゲットしたり、様々な『オーパーツ』と呼ばれるレアアイテムを発見して店やオークションで売却したり、その利益で更なる発掘用品や武具や回復アイテムを手に入れたりするやり込み系のゲーム……のはずだったのだが、そこで想定外の問題が発生してしまった。
今考えるとここが全ての運命の分かれ道だったのかも知れない。
後に出てくるする『ギルド』のシステム自体がNO運営がゲームとして想定していた以上の進化を遂げてしまい、その結果NO運営の作った規約やシステムの穴を突くことでいくつかの遺跡がギルドの所有物となってしまったのがそもそもの発端である。
そうなるとその遺跡を所有するギルドに所属するプレイヤーしか遺跡の内部には立ち入れなくなり、他のギルドに所属するプレイヤーはその遺跡を一切探索できなくなってしまったのだ。
そのため特定の遺跡でしか出現しない魔物から得られる素材が当該遺跡所有のギルドによって独占される事態が各地で多発。不満を抱いた他のギルドやソロプレイヤーが運営に通報するが何故か対応されずじまい。
その結果、ギルド側の市場操作もあって需要と供給のバランスが大きく傾いたために一気に供給不足となった素材の価格は暴騰し、他のギルドやソロプレイヤーに多大な損害を与えることになった。
遺跡所有ギルドの勝利であった。
だが一方的にやられた側も黙ってはいなかった。
その内容は、遺跡所有ギルドに対して武具やアイテム等を販売する際に、意図的な値上げを行ったのだ。
彼等は『目には目を。歯には歯を。』を実践したのである。
ちなみに遺跡所有ギルドはこの際に『独占禁止法がどうこうだからルール違反だ!』とNO運営に対して通報したらしいが、あまりに大きすぎるブーメランだったためにスルーされた。
だがお互いに意地を張り続けた結果、あるアイテムの品薄が他のアイテムの価格を高騰させ、それがさらに他のアイテムの価格を……という風に、インフレが有機的反応が加速した結果、ゲーム内で予期せぬハイパーインフレが発生してしまったのである。
もはやプレイヤー同士では収拾するためのハードルが半端ないレベルにまで至ってしまったのに加え、止めとばかりに遺跡所有ギルド側がこのタイミングでRMT(リアル マネー トレード)を行い、ゲーム内の経済は完全に破壊されてしまった。
まさに『運営ちゃんと仕事しろ!』という最悪の一歩手前の状態である。
当然の話だが、以前から他のプレイヤーはNO運営に何度も通報し続けていた。
しかしNO運営の対応は非常に遅く、ようやく為された対応もギルド側に有利な内容だった。
実は最初に遺跡の所有権がギルドに乗っ取られた際にもNO運営側はほとんど監視らしい監視をしていなかったことが全ての始まりであり、後から知った社員が必死に隠蔽工作をしていたためでもある。
さらに悪い事にその社員はRMTにも深く関与していたため、NO運営上層部は今回の不祥事を隠蔽するとともに当社員を内々に処分し、遺跡所有ギルド側へは口止めの代償として『規約を改定した以降の同行為の禁止』という甘い処分で済ませてしまったのだ。
つまり既にギルドが所持している遺跡の所有権はギルドのものと公式に認めてしまったのである。
この処分に反発したプレイヤーもいたが、批判的なプレイヤーに対してNO運営はあろうことかアカウント削除を強行。
その結果見切りをつけたプレイヤーの大多数が『NARROW ONLINE』を後にした。
しかし事態はそこで終わらなかった。
反発した一部の馬鹿プレイヤーがアカウント削除の逆恨みから、京都府F区にあるNO運営会社を襲撃。
NO運営社員から多数の死傷者を出したのち、『NARROW ONLINE』内にいるプレイヤー約3万人・そして生き残ったNO運営社員を人質に占拠・掌握してしまうという一大テロ事件へと発展してしまったのだ。
それから襲撃犯と京都府警との長きに渡る交渉戦が始まるのだが、それはまた別のお話。
そして……その事件の裏では密かにある事件がゲーム内で起こりつつあった。
だがその時点で気づいた者は現実世界では誰もいなかった……それを実行した犯人以外には。
その事件とは、後に『ナロウ事件』とも『デスゲーム事件』とも呼ばれる大量殺人事件である。
次話はデスゲーム開始以降のゲーム内の描写予定です。