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プロローグ 『黒いナニカ』

この作品はフィクションです。実際の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。


その男は森の中を必死に逃げていた。

その原因は逃げている男の背後から、徐々に迫りつつある『黒いナニカ』だった。


(も、もう追い付かれたのか? 他の奴等はどうしたんだ?

……まさか俺が貧乏くじを引いちまったのか!?

あんな化物を俺一人で何とか出来る訳ねーだろが!)


そう思いながら男は後ろから来るモノをチラリ、と肩越しに見遣る。


『それ』は遠くから見ると全身が黒タイツで覆われた怪しい人に見えるのだが、近くで見ると全然別物だった。

目に当たる部分が爛々と輝き、それ以外は真っ黒で質感が一切感じられない。超怖い。

そして常に身体からは湯気のように黒い何かが揺らいでいて、普通の人なら触るのを躊躇うだろう。

強引に何かに例えるなら『闇の塊』とでも言ったところだろうか。


だが、『黒いナニカ』に触らない方がいいと感じたのはどうやら正解のようだ。

何故ならそれは邪魔な木々や大岩を『消しながら(・・・・・)』男を追跡しているのだから。


(俺のスピードに追い付ける奴はウチのギルド内でもそんなにいないのに!

やはり直線で追いかけてくる分だけ、障害物を避けながら逃げている俺より有利ってことかよ!)


そう。『黒いナニカ』に触れた部分は一瞬でごっそりとどこかへ転送されたような感じで消滅し、『それ』が通った後には、直接触れなかったために残されて放置された様々な形をした残骸があちこちにバラ撒かれているのだ。

それはまるで極小かつ強力な竜巻が通った跡のようだった。


(あんなん連れて街に帰って被害が出たら、たとえ助かっても俺等が他のギルドの奴等から吊るし上げを喰らうわ……下手したら殺されるな。

クソ! 奴があんなバケモノだと知ってたら襲わなかったのに!)



時間は今を遡ること数十分前。

男は仲間の盗賊達と一緒に初心者と思しき男性プレイヤーを罠に嵌めて楽しんでいた。


その手法は初心者を助ける優しい高レベルなソロプレイヤーを装い、何回か偶然を装ってフィールド上でピンチだったのを助け、徐々に仲良くなって一緒に行動するようになった───というある意味、王道テンプレな罠。

ただし王道ゆえに成功率自体は高いものの、目的を達成するまで酷く時間がかかる。

正直男にとって時間がかかるのは苦痛以外の何物でもなかったが、状況が状況なので今はただ我慢するしかなかった


(まったく『運営』がちゃんと仕事しねえからこんなヤバい状況になってるんだよな……だから俺みたいに精神を安定させるために他人を平気で犠牲にするゴミクズが増えてるんだよ。

まあ経営陣からして頭の中に『リスクマネジメント』とかいう概念すら存在しなかったみたいだし、それに俺等プレイヤー側もちゃんと事故が起きた場合の緊急脱出方法とかが確立されているかとか、長時間のVRが精神に与える深刻な影響や脳に接続する機器の安全性とか色々確認すべきだったしな……今更か)


男のいう『運営』とは『NARROW運営』を指しており、実は現在進行形で緊急事態というか『デスゲーム』の渦中だった。

それは『このVRMMORPG内での死=リアルでの死』という非情な事実を意味する。

その結果色々あって、ゲーム内に残された大多数の者は心が壊れてしまった。

そして男もその中の一人だっただけの話。


心が壊れてしまったプレイヤー達への影響は色々な形で顕れた。

不眠、食欲不振、不安神経症、統合失調症、etc、etc……

そして男の場合、それが自己愛性人格障害として顕れてしまい、他人を陥れて虐待し自己愛を満足させなくてはいけないためにこんな馬鹿げた行動をしていたりする。


だが『運営』の怠慢から引き起こされた人災ならぬ人災テロ『デスゲーム』が始まって以降、以前とは違ってズブの初心者でも簡単に他人を信用しなくなったために、なかなか獲物が見つからない。

ゆえにこの『王道テンプレ』方法が逆説的に最も成功率が高かったりする。


それでも成功する確率自体がかなり低い。実際に最初はかなり警戒された。

しかし努力のかいあってかなり初心者と仲良くなったのを見計らって、予てからの計画を実行するために今回は街から少し離れた『迷いの森』に連れ出したのがついさっき。

本当はもう少し時間をかけるべきなのだが、もう男も、同じ症状持ちな仲間達も色々と限界だったために計画は前倒しで実行となった。


男は「ちょっと敵がいないか偵察してくる。ここから動かないでね」と言ってフェードアウト。

そして入れ替わるように、先に待ち構えていた仲間の盗賊が初心者に因縁をつけて一通りボコり、持っていたアイテムや金を奪った直後に男が颯爽と現れる。

(助かった)と安堵する初心者の顔を男が殴り、意味が判らなくてぽかーんとした顔をした初心者にネタバレしてやったら泣きながらこう言ってきた。


「貴方をいいひとだと信じてたのに! 何故こんな酷い事をするんだ?」


男と仲間達は爆笑した。まるでテンプレ通りだったから。

そして嗤いも一段落してからこう言い放った。


「そう。その『裏切られて絶望した顔』が見たかっただけだが?」


その時の絶望しきった顔は当然のごとくSSと脳内HDDに保存しといた。

さらに男は(このSSを見てしばらくは楽しめるな)と考えていた。

どうみても人間のクズです、本当にありがとうございました。



しかし、彼等のターンはここで予想外の強制終了となった。


初心者がガクガク震えだし、まるで何かが乗り移ったかのように意味不明な言葉を話し出したと思ったら急に後ろにブッ倒れたのだ。

最初彼等は(やべえ! 何かの病気持ちだったのかよ?)と思って皆が慌てた。

すぐに初心者が立ち上がったので少し安心したのだが……


だがそれは早計だとすぐに判る。


一度倒れた初心者は以前と違って何かしらの迫力があった。

最早『別人だろお前?』と言っても過言ではない変化をしており、少しビビっていた男やその仲間達にこう言い放った。


「お前等は俺の大切なモノを勝手に取ったな? なら俺もお前等の大切なモノを勝手に取らせてもらっても構わないって理屈だよな?」


その直後に一瞬で『黒いナニカ』に変身した初心者はあっという間もなく罠から脱出し、一番近くにいた仲間の盗賊の右腕に触れた途端、何と触れた部分が『掻き消えた』。


「それは……お前等の命だ!」



一瞬の間を置いて落ちる右腕と噴き出す血液のエフェクト、そして仲間の叫び声。

盗賊たちは一瞬硬直したものの、すぐに復活して『黒いナニカ』に反撃したのだが……


結局すべて無駄だった。


武器で斬りつけると、『黒いナニカ』に斬りつけた武器の部分がごっそり消えた。

下手をすれば一回の攻撃で武器が消滅した。

矢や投げナイフを放っても、『黒いナニカ』に当たった鏃の部分や投げナイフの先端部分が消えた。

そして……魔法をぶつけても魔法ごとすぐに消えるのだ。


『何このムリゲー』


それはそこにいた者達の総意。

そうしているうちに右腕をやられた仲間が『黒いナニカ』に抱きつかれ、外装を丸ごと消滅させられた。

『黒いナニカ』は、その身体に触れたモノは武器だろうが魔法だろうが全て掻き消せる。

……そしてそれが『プレイヤーの全身』でも特に変わらなかっただけの簡単なお話。


その惨劇を切っ掛けに彼らは各自バラバラに逃げ、結果的に男は現在進行形で『ソレ』に追われてピンチに陥っていた。

そして話は現在へと戻る。



障害物を物ともせずに向かってくる『黒いナニカ』の恐怖に怯えながら逃げる男は心中で他者をなじっていた。


(ヤバイヤバイ『アレ』はガチでヤバイ! 全然スピードとか落ちねえし……

でもさ、何で俺ばかりががこんな目に遭うんだよ! 他にも悪い事を平気でやってる奴なんかいくらでもいるだろが! 例えばウチのギルマスとか、ゴミクズ伊蔵いくらとかよ!)


確かに盗賊ギルド『ブルトニウム』のギルドマスター・王国ハム太郎は正しく人間のクズだし、同じく盗賊ギルド『白理パクリ』のギルドマスター・伊蔵いくらも某掲示板でも『腐ってやがる……』と言われるほどに濁り腐った性格をしているが、男も自分の性格を棚にあげて批判できるような高尚な性格をしていない時点で同じ穴の狢だったりする。

伊蔵いくらだけは『同じ穴』という単語に過剰反応して喜びそうなのは全力で無視だッ!



そうしている間にも『黒いナニカ』は逃げている男との距離をジリジリと詰めてきている。

しかし男にはアレに有効と思える反撃の手段がない。

男は今、予備の武器しか持っていない。メインで使っていた槍はとっくに『黒いナニカ』によって『掻き消され』てしまっていた。


(何かないか? 考えろ考えろ考えろよ俺! あんな化物に真正面から勝てる奴なんかゲーム内でも片手いるかいないかだ。だったら力以外の何かで───あるじゃん! 『アレ』を倒せそうな奴が!)


男の脳裏にはある場所が浮かんでいた。『そこ』で『アレ』を倒せなければ、多分どんな手段でも倒せないだろう。それくらいの場所なのだ。

だが準備が全然足りない。『そこ』を『アレ』の墓標にするには最低でも囮役の自分以外に2人は必要なのだ。


(まだ仲間が森の中にいるならば俺が助かる可能性がある! 早く連絡しなくちゃ!)


男は目の前にあるメインステータス画面から《フレンド》を思考操作で呼び出した。

するとウインドウが新たに現れ、そこには男がフレンド登録したプレイヤーの名前が表示された。

だが、そのリストの中から『ブルトニウム』のタグが付いている者だけを再表示させた男は何かに動揺したようで、少しだけ逃げるスピードが落ちた。


そこへ『黒いナニカ』が迫り、ボンッという音とともに男の姿は永遠にゲーム内から消えた。



だが男が出していたウインドウは何故か消えずに空中に残っていた。

『黒いナニカ』は爛々と輝く目でそれを見た。

そこには『ブルトニウム』のギルメンリストが表示されており、さっきまで一緒にいた仲間達の名前の上に横線が引かれていた。

これはゲーム内での死亡を意味し……同時に『リアルでの死亡』も意味する。


つまり『黒いナニカ』はたった数十分で手練だったはずの男の仲間を全員殺していたのだ。

見終わると『ソレ』は腕を振るい、ウインドウを消し去った。





ちなみにその日の記憶を全て失った初心者が街の入り口で保護されたのは全くの余談だったりする。

プロローグを書いてみたw

次回はNARROW ONLINEの説明回っぽい感じです。

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