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空も飛べない

作者: 絹野帽子

 


 私の嫌いなもの。青い空、背中の翼、それからアイツ。



 私の名前は、マリエ・ルゥ・クレティアン。名前と家名の間に「ルゥ」とつくのは、私が“賜り者たまわりもの”であることを示す。


 “賜り者”は、普通の人とは違う容姿や能力を持って生まれた人のことだ。

 昔は普通の人と違うことから差別の対象となり、ひどい扱われ方をしていた、と歴史の授業で学んだ。


 最近では“賜り者の父”と呼ばれている100年前の国王の勅命ちょくめいによって、“賜り者”である人も“賜り者”でない人も平等に生きる権利を持つと法にしるされ、徐々にその扱いは改善されてきたらしい。


 私は“翼の賜り者”だ。背中には左右で一対となる乳白色の翼が生えている。



 青い空を見上げていると、そのまま落っこちてしまいそうになるのが怖い。

 そのくせ、青い空はいつでも悠然ゆうぜんと美しく、私の手が決して届かない場所にある。だから、嫌いだ。



 私の背中にある翼は、足の小指を動かすのと同じくらいにしか自由に動かせず。

 空を飛ぶことはもちろん、自分ひとりでは上手く洗うこともできない。

 お母さんは、昔から翼を「可愛い」とほめてくれる。ただそれだけでしかない翼が嫌いだ。



 差別は法の上ではなくなったけれど、人の心の中からはなくなっていないと思う。


 子供は一番親の影響を受けるし、親だって、その親からの影響を受けて育っている。

 もちろん、そうやって受け継いでいくうちに徐々に変わっていくのだろう。

 100年というのは何かが変化するには十分な長さがあって、完全に変わりきるには少し足りない。そんな微妙な時間だ。



 小さい頃、私はよくイジメられていた。

 翼の羽を引っ張っられたり、「トリ女」とか呼ばれていた。

 私の羽には血も神経も通っていないから抜かれても大丈夫だけど、羽を引っ張ると翼の付け根である背中が少しだけ痛くなる。

 気がつくと、なぜか皆は私をイジメなくなっていた。そんな中、アイツだけは私をイジメてきた。


 お互いに成長していくにつれて、段々とアイツからもイジメられることはなくなった。けれど、アイツの私に対する態度は、他の女の子に対するものとまるで違った。

 他の女の子がいる前では、ニコニコとバカみたいに笑っているのに、私しかいないとまったく笑顔を見せない。


 時々、アイツは思い出したかのように私の翼を触ってくる。私が自分の翼を嫌っているのを知っていてわざとだ。

 そのくせ、アイツ以外の誰かが私の翼に触ると、男女関係なく途端とたんに機嫌が悪くなる。

 そのことに気づいた私は、アイツが近くにいる時を見計らって、友人達によく翼を触らせた。



 私が成人した日に、アイツは私に向かってこう言った。


 クレティアンの名を捨ててくれないか、と。



 そんな彼が世界で一番大嫌いだ。


 

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