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浮気夫を捨て、愛人を作ります〜今更、私が好きだって? もう遅い〜  作者: 専業プウタ@コミカライズ準備中


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4.危険な女

彼女の視線の先を追って見ると、シーツについた鮮血。あれは俺と彼女が闘った強者どもの夢の跡。


彼女は頬をピンク色に染めて、俺を上目遣いで見つめてくる。美しいのか可愛いのか分からなくなるくらい魅力的なアドリアーナ。長いまつげに彩られるルビー色の瞳には動揺した俺が映っている。


「その⋯⋯記憶がなくなるくらい、素敵な夜でした。これから、よろしくお願いします。旦那様」


一変して甘い蜂蜜のような声を出すアドリアーナ。先程までの彼女とはまるで別人。


「⋯⋯えっ?!」


「マテオ、怪我をしています。興奮し過ぎてベッドにゴッツンコしてしまいましたか?」


可愛らしく笑いながら、彼女が俺の頬に手を伸ばして来る。眩い光に温かな温もりと共に痛みが消えていくのが分かった。


「聖女の力? 三百年に一人発現するか分からない力を君は持っているのか?」


「この力って、そんなに凄い力なんですね。マテオ、傷が消えましたわ。この力があれば大切な人を守れそうです」


彼女の柔らかな指先が俺の身体中に触れて来る。温もりと光と共に傷跡がどんどん消えていく。身体中から力が湧き起こって来るようだ。


「あら? もしかして、マテオは私を抱きたりないですか?」


彼女が俺から視線を逸らしながら照れている。

鎮めようにも鎮まりきらなかった彼女への気持ちが露見してしまったようだ。


今、俺は混乱の渦の中にいた。純粋で美しい者に与えられる聖女の力がアドリアーナには宿っている。


昨晩寝ずに彼女と戦闘した筈だ。


高笑いをしながら、俺を殴って、蹴り倒して来た彼女が聖女?


それとも、昨晩は悪魔に取り憑かれていただけ?


兎にも角にも、彼女の戦闘能力は並ではなく一つ間違えれば俺は死んでいた。


眼前の彼女は演技しているようには見えない。ロランド公爵は俺を引き摺り下すために、実の娘の中に悪魔を召喚したようだ。


皇帝になった俺が今死ねば、アドリアーナが皇帝代行としてペレスナ帝国で権力を持つ。今まで表舞台に姿を現さなかったアドリアーナには後見人を付けるべきと貴族達の意見が出るのは必然。もちろん後見人は、彼女の父親メルチョル・ロランドになるだろう。


気がつけば俺は傷を治癒され、血だらけの夜着からグリーンの礼服に着替えさせられている。


「私の旦那様は世界一カッコいいですね。美しいエメラルドの瞳に今日のお召し物がとてもお似合いです」


天使のような笑顔を向けて来るアドリアーナ。皇帝暗殺未遂で彼女を罰する事もできたはずなのに、証拠を消されてしまった。


「アドリアーナ、君こそ世界一美しい妻だ。君も自分の傷を治すといい」


俺の口は勝手に気持ち悪いくらいの甘い言葉を紡いでいた。自分が吐いたとは思えぬ臭いセリフに寒気がする。


アドリアーナが自分の体を包み込むように抱きしめると、彼女の身体が光った。傷が一瞬で消えていく。光り輝く彼女はまるで天から降りてきた女神のようだ。


「私も興奮し過ぎてしまったみたいですね。今晩からは控えめにしないといけませんね」


「いや、今晩は流石に⋯⋯」


徹夜で命のやり取りをした。昼間は公務が続いていて昼寝はできない。聖女の力により幾分体力は回復しているが、彼女が再び悪魔に憑依されたら命も危ないし二徹確定。


「そうですよね。マテオはお忙しいですから。私にお手伝いできる事があればなんでも言ってください」


眉毛を下げ、明らかに強がっているアドリアーナ。彼女には殴り合った記憶はなさそうだ。


何故か胸が痛くなったが、俺は深呼吸し冷静になった。


⋯⋯この女は危険だ。


天使の微笑みで俺を誘惑し、悪魔のような強さで襲い掛かる。でも、聖女は利用価値があるし、悪魔の戦闘能力も使える。


俺は彼女を自分に惚れさせ、便利なマリオネットにする事にした。


『女はモノ』とロランド公爵は言ったが、実際彼の言う通り自分の美貌を活用し女を利用したら、分が悪かった俺がペレスナ帝国という大帝国の皇帝になれた。


皇帝に即位したとはいえ、俺の権力はまだ盤石ではない。聖女の力を使わせ国民人気を獲得し、武器なしの戦闘能力で邪魔者を抹殺する。そんな俺に都合の良い存在にアドリアーナを変えれば良い。今、目の前の天使は無自覚ながら悪魔の戦闘能力を持っている。


「アドリアーナ、君に出来ることは俺を愛する事だけだ」


跪き彼女の手の甲に口付けをする。目を潤ませて頬を染める彼女が可愛過ぎて、ミイラ取りがミイラにならぬよう目を逸らした。


もう少し彼女を観察したかったのに、彼女がベッドサイドに置いてある鈴を鳴らしてしまった。


扉をノックして、彼女の侍女が部屋に入って来る。


アドリアーナは自分で呼んだくせに、侍女が部屋に入ってきたことに驚いてモジモジし出した。


「ひっ?」

シーツに飛び散る血を見て、侍女が顔を青くする。


すると慌てるように、アドリアーナがシーツを丸めて隠すように抱き抱えた。


「⋯⋯初めてだったから⋯⋯」


どうやら彼女はシーツの血を破瓜の跡だと言い切るつもりのようだ。


俺が侍女を睨みつけると、侍女は黙ってシーツを片づけて部屋を逃げるように出て行った。今日、アドリアーナは貴族令嬢との交流会の後、婚礼の舞踏会に俺と出席する。俺は彼女がまた悪魔に取り憑かれていつ暴れ出すか心配で仕方がなかった。

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