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第一章 5話 『めり込む拳』


「――これはひどいな……」


「わっ私は、悪くないわよ!」


――――どうしてこうなったんだ……


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 



ドアを叩く音で目が覚めた。





「おい、ミノル! 起きてるか?」





「もうちょっと寝かせてくれよ……母さん……」





「誰が母さんだって? 寝ぼけてんじゃないぞ!」


 そう言い彼は、扉を蹴飛ばして入ってきた。


「!?!?……ロベルトか……」


「早く起きて準備しろよ? 俺は訓練場で待ってるから」


「待ってる? 何をするんだ?」


「昨日伝えただろ? お前の実力を見させてもらうってな。 とりあえず早く来いよ」


 そう言い彼はまた昨日のように消えた。

 嫌な予感しかしないが、ひとまずご飯を食べに行くことにする。

 今思うとこの世界に来てから何も食べていないのである。

 長い廊下を歩き、階段を下り、大広間に着く。

 大広間には数人の女性隊員がおり、疎らに座っている。

 彼女らからの冷たい視線を感じる気がするが、気のせいだということにしておこう。


「……あれが予言の人なの? もっとイケメンだと思ったのに……」


「……すごく弱そうじゃない? あんなのを護国隊に入れるなんて恥だわ……」


 ――聞かなかった事にしよう。そう、聞かなかった事に……

 彼女らの冷たい言葉を無視し、食堂へ料理を取りに行く。

 ロベルト曰く、食堂の献立は毎回変わり、毎回の食事は、1種類しか料理が無いらしい。

 だから物足りなさや飽きを感じ、外食をする兵士も少なく無いという。

 しかしこの食堂の良いところは、隊員なら無料だというところである。

 一文無しの俺にとってはとてもありがたい。


「はいよ、兄ちゃん」


 食堂のおっちゃんから料理を受け取る。

 メニューは至ってシンプルで、ロールパンのようなもの2つとスクランブルエッグのようなもの。

 席に座り、料理を食べるが、味も無難に美味しく、特に文句の付け所は無い。

 

 ミノルが料理を頬張っているといきなり――


「あんた……何呑気に飯なんて食ってんのよ! ほんとお気楽な奴ね」


「いきなり何だ?」

 

「ふんっ!」


 そう言いフレナは去って行った。


「本当に何なんだよ……」


 朝から、静かに飯も食わせてもらえない事に悲しみを感じる。

 朝食を済ませ、一息つく。


「実力ねぇ……」


 俺の実力を見る、そうロベルトは言っていたが……多分、ロベルトとの手合わせとかだろう。

 このままだとボロが出てしまう。昨日は威勢よく、天命を受けし者!――などと言っていたが、全く持ってそんな事は無いのである。

 だからといって、ここで嘘でした~なんて言ってしまえば、それこそ打首になりかねない。 

 とりあえずやれることだけやって、何かやらかしたらまたそれっぽい事を言っておけばいい。

 うむ、そうしよう。ロベルト相手ならどうにかなるだろう。

 そう考えたら、気が楽になってきた。


 ミノルは呑気に口笛を吹き、訓練場へと歩いた。


「ロベルト、おまたせ」


「遅いぞ! 呑気に口笛なんて吹きやがって。 よほど余裕があるようだな。」


「ああそうだな。 調子絶好調だぜ! ロベルト、ちゃっちゃと終わらせようぜ!」


「いい心意気だミノル。 よしいいだろう。 フレナ! こっち来い!」


「???」


「フレナ? ロベルトが相手をしてくれるんじゃないのか?」


「? 俺は手加減が苦手でな。 お前相手だと殺してしまいかねないからな」


「……」


「何よロベルト」


「おおフレナ、お前にはこいつの試合相手になってもらいたい」


「え〜私が!? 何でこんな奴の相手をしなきゃいけないのよ!」


「今度甘いもの奢ってやるからさ、頼むよ」


「しょうがないわね、今回だけよ!」


 大丈夫だろうか……。

 でも逆に良かったのかもしれない。

 彼女の事を舐めているわけではないが、あまり強そうな雰囲気は感じない。

 自分が勝てるとは思っていないが、ロベルトとやるよりはマシだろう。


「よし! 早く始めようぜ!」

 

「ふんっ! かかって来なさい」


 ロベルトから渡された木刀を握る。

 しかし、フレナは何も持っていない。


「フレナは何も持たないのか?」


「人の心配より、自分の心配をしたらどう?」


「2人とも準備はできたな? では、よーい……始め!」


 開始の号令がかかった瞬間、ロベルトと初めて会った時の出来事を思い出す。

 無意味に力を込めていたのだと思っていたあの行為、この場でそれをすれば、相手に一瞬の隙が生じるかもしれない。

 勝てるとは思わないが、何もしないよりはマシだろう。


「ふんっっっっ!!!」


「!?!?」


 相手が動揺している、これは理想の展開であ――――


「ぐぼぁっっ!」


「はっ!?」


 フレナに隙ができた、そうミノルが思った瞬間、彼女は突然姿を消した。

 そしてミノルに何かを考える暇も与えず、彼の目の前に現れ、顔に拳をめり込ませた。

 ミノルは数メートル吹き飛ばされ、撃沈した。


「――これはひどいな……」


「わっ私は、悪くないわよ!」


 吹き飛んだミノルの顔は原型を留めておらず、深く陥没している。


「いや、これに関してはよく手加減をできたものだよ、フレナ。あんな魔力を向けられたら、体が勝手に反応してしまうものだ、しょうがない。いやぁ、やはり私がやっていたらミノルは死んでいたな。フレナに任しておいて良かったよ」


「ふんっ! 約束忘れないでよね!」


「分かってるって」


 ロベルトはため息を吐きながら、ミノルの方を見た。


「…………ふむ」


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



「――――ここは……」


 目が覚めると天井が見えた。知らない天井だ。


「目が覚めましたかぁ?」


「!?」


 いきなりの声に驚き横を見ると、白い看護服のようなものを着た見知らぬ女性がいた。


「あっすみません……驚かせてしまいましたねぇ。ここは、医務室ですぅ。ロベルトが運んできてくれたんですよぉ」


「医務室……」


 たしかフレアと試合をしていたはず……


「ミノル君の怪我は酷いものでしたよぉ? それはもう顔面が深く陥没していて、見るに耐えないものでしたぁ。フレナが手加減できていなければ、頭が空の彼方まで吹き飛んでいたでしょうねぇ」


 フレナにやられたのか……

 分かってはいたが、こうもあっさりと負けてしまうものなのか。

 手加減して顔面陥没とは、恐ろしいものである。

 そう考えると血の気が引いてくる……

 

 それにしても目の前にいる女性、目鼻立ちが整っており、大きくきれいな形の胸、黒くつややかな髪に青のインナーカラー、長い髪は左肩に流しており、身長もそこそこある、とても自分好みの美人である。


「あなたは誰なんですか?」


「あぁ申し訳ないです、まだ名乗っていませんでしたねぇ。私は護国隊の隊員、イングリット・フィーフィル。よろしくねぇ」


「隊員!? てっきり医者とか看護師らへんの人かと……」


「まぁその認識でも間違ってはいませんよぉ。基本的には味方の回復やサポートに回ることが多いのでぇ」


「なるほど……」


「おっ、ミノル目が覚めたか」


 ロベルトが扉から入ってきた。

 何だか顔色が悪いように感じるが……。


「ロベルト、何か顔色悪くないか?」


「いやなに、フレナを喫茶店に連れてってたんだがな? あいつが遠慮なく頼み続けるから――って、そんな事はいいんだよ。それよりイングリットに感謝しろよ? あの怪我は並の魔法使いじゃ、上手く直せなかっただろうからな。流石イングリットって感じだな」


「隊長は褒め上手ですねぇ」


 今の話を聞いて、1つの疑問が生まれた。


「――『上手く』直せない? 直せないんじゃなくて? 並の魔法使いが、俺を治そうとしたらどうなるんだ?」


 ミノルが質問をすると、ロベルトとイングリットが顔を合わせて首を傾げた。


「ミノル、お前本当に何も知らないんだな。 学校で習っただろ?」


「ミノル君の質問に答えるとぉ、回復魔法っていうのは、あくまで傷や損傷の周りの細胞を増殖させて埋めて治すっていう仕組みなんですぅ。なので身体が歪んだり欠損したりしているものは、単純な回復魔法では治せない。だから、そういう場合は術者の技術や経験で補って、上手いこと術式を書き換えなきゃいけないんですよぉ」


「つまり、並の魔法使いがミノルの顔面を治していたとしたら、顔面が凹んだまま傷だけ治ってたってことだ。その場合は傷が治ってても、潰れた目とかは治せてないからまともに生活できなくなってただろうな」


「……」


 いや怖すぎだろ。

 てっきり、回復魔法ってのは万能なものだと思っていた。

 案外魔法っていうのは不便なものなのだな。


「イングリットさん……ありがとうございます……」


「いえいえ、それが私の仕事ですからぁ。治って良かったですぅ」


「ミノル、落ち着いたら隊長室に来てくれ。さっきの試合の批評をするから」


「……わかった」


 正直何を言われるかわからない。とにかく追い出されるのだけは勘弁である。

 今のうちに言い訳を考えておくか――


「はぁ……」



6/29 ロベルトのセリフ追加

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