第一章 3話 『王の代理と護国隊』
「――――――綺麗だ……」
金髪の彼女を目の前に無意識にこぼした言葉。
好みのタイプというのもあるが、下心抜きにしても、『綺麗』という言葉が自然と出てきてしまうくらいに、彼女は美しかった。
「おい!」
「痛った! いきなり何すん――」
「跪くんだ」
いきなり白髪の男はミノルの頭を掴み、床へ叩きつけた。
そして彼は金髪の彼女の前に跪いた。
「セシメア様。 予言の者らしき男を連れて参りました」
「予言? 何だそれ?」
いきなり聞き覚えの無い単語が出てきて戸惑う。
「ロベルト、彼に説明しなかったのかしら?」
「いえ……まだです。 予言の者と確定したわけではありませんので、セシメア様直々にこの男の見極めてもらいたく連れてきた次第です」
「ふむ、なるほどね」
セシメアと呼ばれていた彼女が、椅子から立ち、段差を降り、ミノルの前に屈んだ。
そしてミノルの頬を掴み、目を覗く。
彼女と目が合うが、その瞳に吸い込まれてしまいそうになる。
「――悪い人ではなさそうね。 あなたの名前は?」
「……セツダ・ミノルです」
「ではミノル、あなたはこの国に尽くしてくれる……それに間違いは無いわね?」
いきなり何の話をしているのだ。
全く話が見えてこないが、ここで否定をしてしまうと良くないことはわかる。
ここは無難に話を合わせるしかないだろう。
「……はい、もちろんです。 その為に俺はここにいるのです。」
彼女を前にすると、上手く喋ることができない。緊張とは違う、なんとも言えない感覚に襲われる。
「いい返事ね。 ロベルト! 彼はとりあえずあなたの配下に置くということでいいかしら?」
「問題ありません」
「はぇ!?」
「よし! ミノル、あなたの活躍に期待しているわね」
「……ミノルと言ったか、俺についてこい」
「???」
とりあえず上手くいった……のか?
この場を乗り切る事はできたが、勝手に話が進んでしまい、頭が追いつかない。
『予言』とはなんだろうか…… それに俺がこいつの配下に……?
そんなことを考える間もなく、白髪の彼に連れられ部屋を出て、城の外へ出た。
そして歩きながら、彼が俺に話しかけてきた。
「さっきは色々失礼な事をしてしまったな。 すまなかった。」
「……えっ、あぁ気にしないでくれ」
「私は、レボニア王国ボルカ護国隊隊長、名前はロベルト。ロベルト・ゼンデスだ。 よろしくな」
「えっと、俺の名前はセツダ・ミノルだ。 よろしく」
「ふむ、珍しい名だな。 この国の出身ではないのか?」
「…………」
ここで彼に異世界から来たと伝えるべきなのだろうか。
下手な嘘をついてもボロが出てしまう。これ以上適当なことを言って、自分で自分の首を絞めるようなことはしたくないが、素直に伝える事が良い判断であるとは思えない。
「まぁ、無理に答えなくていい。 人にはそれぞれ事情があるもんだからな。」
意外と彼、ロベルトはまともな人間なのかもしれない。
先ほどの彼はどこへ行ったのだというくらい、雰囲気も口調も全くの別人である。
「何か聞きたいことがあったら、聞いてくれていいぞ」
「じゃあ聞きたいんだが、さっき言ってた『予言』って何だ?」
「あぁ、確かに君には説明していなかったな。 この国に代々伝わる予言書の中の一節に『王都の水の柱を前に、異様な雰囲気を放つ者あり。その者は神より天命を賜り、王国の英雄となるだろう。』みたいな内容の物があってな、その予言の出来事はここ1年以内に起きるとされているとのことだった」
「その予言の内容と俺が正にピッタシだったってことか」
「そういう事だ。 実は私はこの予言、半信半疑だったのだよ。 まさか本当に予言の通りになるとはな」
「その予言書に書いてあった事って、今まで当たっていたのか?」
「いや、さっき言った内容が予言書に書いてある1番最初の内容なんだ。」
「ほう……」
……その予言書の内容は、俺のことを指しているのだろうか。
普通に考えたら絶対に俺のことではないだろうが、俺が咄嗟についた嘘とあまりにも内容が噛み合っている。その予言書は俺が嘘をつくことを見越した上での内容だという説も……
ひとまず、都合の良いように話が進んでいるので一旦置いておこう。
あと気になる事と言えば……
「さっき、俺がロベルトの配下になる? みたいなこと言ってたよな、それってどういう事だ? あとあのセシメア? って言ってた女性は誰なんだ?」
「彼女はセシメア様。 セシメア・デルテン様だ。 この国の王の代理を努めている。」
「王の代理?」
「あぁそうだ。 先代の国王が2年前に急死してしまってな…… 王族の血を引いていたのが、娘である彼女しかいなかったのだよ。 しかし女性は正式な王にはなれない、そういう決まりなんだ。 なので彼女が伴侶となる方を見つけるまで、王の代理という形でこの国を治められているんだ。」
「あともう1つの質問についてだが、君は私の持つ部隊に所属してもらう。 君がひとまず予言の男だと仮定したとして、怪しい者であることには変わりない。だから、一旦私の元に置いて君という人となりや実力を見定めようということだ。」
「なるほど……」
「よし着いたぞ。 他に知りたい事がなどがあったら、私に聞いてもいいし、ここの1階にある図書館を使ってもいいぞ。」
「ここはどこだ?」
彼につれて来られた場所は、城壁内にある一際立派な白塗りの建物。
その建物の前には、訓練場のような場所があり、たくさんの隊服に身を包んだ人たちが木刀で打ち合ったり、筋トレをしたりしている。
「ここは護国隊本部兼隊員たちの宿所だ。 今日からお前はここに住んでもらう」
住む所の無い一文無しの俺にとってはありがたいことである。
しかし問題は、俺は戦えないということだ。
つい先程まで、呑気にコンビニへ買い物に行くただの高校生だったのだ。しかも転移するにあたって、何か特殊能力を貰ったり、装備を貰えたりしたわけでもない。
こんな俺に戦うことができるとは到底思えない。
「中を案内しよう。 こっちだ」
そう言って建物の中へ入る。
「正面から入ってすぐ、ここが大広間。 自由に休憩したり、談笑したりできる場所だ。 横に食堂もあるから、ここで食事を摂ることもできるぞ。」
「なるほどな」
大広間はとても広く、開放感がある。
長机と椅子が等間隔に並んでおり、奥には暖炉がある。
床や壁はレンガづくりであり、少し温もりを感じる。
そうやって周りを見渡していると、椅子に腰掛ける1人の少女と目が合った。
「――――げっ!」
「ああっっっ!! お前はさっきのナンパ野郎!」