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嘘つきは異世界譚の始まり 〜チート能力の無い俺が英雄となるに至るまで〜  作者: 伊達眼鏡
第二章 商都ベンザル行方不明事件

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第二章 18話 『典型的チート能力』

今回の話で、区切りの10万字を迎えます。そしてキリよく第二章商都ベルザル行方不明事件も終わりを迎えます。


 テオニアがその聖紋の名前を口にした途端、ロベルトは不意を突かれたかのように目を丸くし、机に手をついて椅子から腰を浮かせた。

 シリウスどころかヴェルディスでさえも、驚きを隠しきれないようで、動揺が顔から滲み出ている。


「――これはいきなりの有望株だな……。いやぁ、やっば俺の目に狂いは無かった!」


「なんと……あの娘が『姿写』を持っていたとは。テオニア殿、ちなみに濃さの方はいかほどか」


「まさかの真っ黒です! 濃さも申し分ないと思いますよ」


「うむ、そうか……」


 皆の驚いている理由を知りたかったが、俺が質問を投げかけられるような雰囲気ではなかった。

 姿写というと鏡などが連想されるが……一体どんな能力なのだろうか。


「ミョルンは今どこにいる?」


「おそらく、今は広間にいると思いますよぉ」


「よしわかった! とりあえずみんな、解散だ」


 そう言ってロベルトは早々に報告会お開きにし、どこかへ行ってしまった。

 周りの面々にミョルンの聖紋のことを聞こうかとも思ったが、溜まっていた疲れがここで一気に来てそれどころではなくなってしまった。聖紋について聞くのは明日にして、今日は早く寝ることにする。

 廊下へ出てみると、外はもう暗くなっていた。

 足もおぼつかないミノルは、力なく自室へ歩いていき、ベットに飛び込んだ。

 そして特に思考を巡らすこともなく、すぐにミノルは寝落ちた。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 皆が寝静まった後、ロベルトはテオニアと共にセシメアのいる王の間まで向かった。

 王の間には玉座に座るセシメア、そしてその隣にはヴェルディスが一切の疲れも感じさせずに立っていた。


「あら、ロベルト、それにテオニアまで。報告に来てくれたのね。テオニアに関してはご苦労だったわね」


「えぇ、お気遣いありがとうございます。報告の方はヴェルディスさんからある程度お聞きになっていると思いますが、改めて私と隊長からさせてもらいますね――」


 テオニアは、淡々と商都で起きた出来事を事細かに説明していった。


「――なるほど、報告ありがとう。はぁ、色々と考えなければならない事は多そうね……」


 セシメアは憂鬱といった感じで、天を仰いで項垂れた。


「いやぁ俺も忙しくなりそうです、俺もまたヴァンダル達と話し合わなきゃいけないですし……」


 ロベルトは首に手を当てながら、面倒くさそうに言った。

 そのような態度に、ヴェルディスはロベルトに睨みを効かせ、低いトーンで注意をした。


「……ロベルト、こういう場での言動には気を遣え」


「おっと、これは失敬……」


 ロベルトも元上司であるヴェルディスには頭が上がらないようで、言われるとすぐに姿勢を正した。


「あと、ミノルはどうだったかしら。役に立った?」


「えぇ、思いの外役に立ってくれました。最初会った時は……これが未来の英雄だなんて何の冗談かと思いましたが、実力はともかく精神面では目を見張るものがありそうです」


「やはり予言書は当たっているようね。『――人消えし街にて、事を解決に導く。それは紅き夜明けをもたらす』それが予言書の一節よ」


「なる……ほど、確かに……今回の出来事に当てはまっているように思えますね」


 テオニアは少し言葉を詰まらせながら、一言一言確かめるようにしてセシメアに同意した。


「それにしても曖昧な書き方してるな、正直どうとでも取れそうな感じというか――」


「ロベルト」


「はい……」


 ロベルトは本日2回目の注意を受け、少し肩をすくめた。そんなロベルトの様子に、セシメアは少しばかり失笑しながらも続けた。


「やはりミノルは、例の英雄だとみて間違いなさそうね。これからもしっかりと面倒を見てあげなさい、いいわね? ロベルト」


「了解しました……って、言われなくてもちゃんと面倒ぐらい見ますよ」


 ロベルトは少し微笑みながら、当然のことだと言わんばかりに答えた。


「これからのミノルに期待してしまうわね」



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 次の日ミノルは、意外なことに普段通りに目が覚めた。やはりこの世界での生活リズムが身体に染みついているのだろう。

 ミノルはベットから降り、日頃のルーティンをこなし始めた。


 今となっては見慣れた食堂のおっちゃんに、普段通り注文をする。


「おっちゃん、よろしく」


「はいよっ」


 今日はシンプルなたまごサンド。正直コンビニのふわふわなたまごサンドが恋しいが、これはこれでありだ。

 近頃は他隊員からの目線が少し和らいだ気はする。しかし未だに煙たく思っている人もいるらしく、度々冷たい視線を感じることもある。でも今日はやけに視線が多いような……それに向けられているものは、冷たい視線とはまた違う物のような気がする。


 食事を終えたミノルは、朝の訓練のために外へと出た。するとすぐに、ロベルトが視界の中に飛び込んできた。そして近くにはいつもの面々に加え、ヴェルディスとテオニア、それにミョルンもいる。


「みんな集まってどうしたんだ?」


「あぁ、ミョルンのポテンシャルを見たくて、色々見せていたところだ」


 それを聞き改めて見てみると、剣を持ったミョルンの目の前でヴェルディスが華麗な剣技を見せていた。

 帰りの馬車で聞いた話では、ヴェルディスは『剣神(けんしん)』の聖紋というものを持っているらしく、剣の技術だけでいえば王国内トップだという。正直剣のことはまだまだわからないが、目の前のものは確かに洗練されたもののように感じられた。

 しかしミョルンは、ポカンとそれを眺めているだけで、何ら意味はなさそうに思える。というかそもそも王国トップの剣技を、いきなり見せられてもどうしようもないだろう。


「ミョルンにいきなりそんなもの見せても、どうにもならないんじゃないのか?」


「ん? ……そういえば、お前に聖紋の話を全然してこなかったな。ミノル、聖紋については知ってるか?


「テオニアさんからある程度のことは聞いたよ、俺の聖紋のこともな。何でこんな重要な要素を、今まで話してくれなかったんだよ」


「いや、まぁ……知ってるもんだと思ってたんだよ。自分で聖紋持ってるんだから流石にってな」


「はぁ、まぁいいけど……って、何でいきなり聖紋の話になったんだ?」


「その様子だと、ミョルンの聖紋のことは知らないな?」


「あぁ、知らないから早く教えてくれ」


 そう急かすミノルに対して、ロベルトは少し怪訝な表情を浮かべた。


「説明するよりも、見たほうが早い。ミョルン、このおじさんの真似をしてみてくれないか?」


「うん、わかった」


 ミョルンはこくりと頷き、剣を構えてみせた。そして動き始めたかと思うと、先程ヴェルディスが見せていた剣技と遜色ない動きをし出した。ヴェルディスのような凄みこそないものの、一つ一つの動きにキレがあり、初めて剣を握ったのだとは思えない。


「これが『姿写』。自分の目で見た動作や技術を鏡写しのように自分のものにできるとかいうイかれた聖紋だ。完璧にコピーとまではいかないし、筋肉量や魔素量などの個人の能力に依存してしまうが、それも何回も見て定着させたり、本人の能力を伸ばせばカバーすることができる。まぁそれでも、経験がものを言う事に関してはコピーしきれないがな。ほら、昨日言った通り将来有望だろ?」


「いやいや、有望どころの話じゃないだろ!」


 コピー能力なんて、強いに決まっている。まさしく異世界系の話で出てくるようなチート能力だ。

 このままではただでさえ影の薄い俺が、もっと薄れ立場がなくなってしまう。

 少し青くなった顔でミョルンの方を見ると、当の本人はこちらに気づき嬉しそうに手を振ってきた。なんと純粋無垢な顔なのだろうか。まぁミョルンは俺のことをとても慕ってくれているようだし、立場が脅かされるようなことはないだろう……たぶん。


「それにしても、こんな能力があったなら俺が助けるまでもなかったんじゃないか……? 話によると獣化って能力もあるんだろ?」


「自分の聖紋を自覚していなかったのだから、聖能を引き出すのは難しかったのだろう。まぁ獣化については、なぜ使わなかったのかはわからんがな」


 自覚しないと聖能を引き出すのは難しい……か。俺は最初から使えていたと思うのだが……まぁそういうものなのだろうか。

 剣技を終えたミョルンに対し、皆は褒めちぎっていた。我が物顔で自慢げにするものや、本人に抱きつく者など様々だ。いやぁ、実に騒がしい。




「はぁ、それにしてもそろそろ競技大会のことも見据えないとな……」


 ぼーっと目の前の光景を眺めるミノルを尻目に、ロベルトはボソッとそう呟いた。






第二章はどうだったでしょうか。護国隊に新しい仲間も増え、取り巻く環境が刻一刻と変化しています。ミノル君には、この先もしぶとく頑張ってほしいものです。


前書きでも書いた通り、この作品は10万字を突破しました。これからもしっかりと物語を進めてまいりますので、ブックマークや評価、感想等をいただけると幸いです。私の励みにもなります。

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