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嘘つきは異世界譚の始まり 〜チート能力の無い俺が英雄となるに至るまで〜  作者: 伊達眼鏡
第二章 商都ベンザル行方不明事件

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第二章 17話 『小さな背中が見せたもの』


 馬車に揺られ、王都へ戻って来た。たった少し離れていただけだったが、全てが懐かしく感じられる。

 馬車での移動は行きとは違ってミョルンが乗っていたため、とても穏やかなものとなった。少し時間はかかったが、絶対こちらの方が良い。


「ほらミョルン、王都に着いたぞ」


「わあぁっ! すごい! 姐さんも見てっ!」


「あぁ、ちゃんと見ているぞ」


 ミョルンは窓から身体を乗り出し、初めて見る王都の景色に目を輝かせた。

 商都の方が整備されて街並みが綺麗だったが、王都は王都で歴史的な街並みが広がっており、趣深さを感じられるような気がする。


「それにしても姐さんって……何か面白いな」


 ミノルは少しニヤつきながら、トーナに目線を送った。それに対してトーナは、ばつが悪そうに顔を背け、鼻で笑った。


「お前も大概だぞ? ボス?」


「ぐ……何も言えない」


 そうこうしているうちに、馬車は城内へと入った。そしてしばらく進み、護国隊本部の前で止まり、一行は馬車から降りた。


「あぁ〜やっとついた! いやぁ本当久しぶりだわ」


 テオニアが身体を伸ばしながら、本部を見つめていた。伸ばし終わると、流れるような動きでこちらへ近づき、ミョルンへと飛びついた。そしてどこか、いやらしく感じられる手つきで、頭に付いた耳を触った。


「副団長さんっ、くすぐったいよ」


 ミョルンは顔を赤くしながら、抵抗しようとしているが、力が入らないようである。


「こらっ、テオニアお姉さんでしょ? ちゃんと呼んでくれないとお姉さん悲しい」


「うぅ、テオニアお姉さん……」


「はぁっ! 可愛いっ!」


 見事にミョルンはテオニアに上手いこと転がされている。テオニアは人が変わったかのように、ミョルンにベタベタだ。まぁ当の本人であるミョルンにとっては、少し煙たそうであるが。


「おっ、やっと着いたか。まぁ、みんな無事なようでなにより」


 本部の中からロベルトが、少し微笑みながら出てきた。そしてみんなの無事を確かめるように、順々に視線を送ると、やがてミョルンを抱くテオニアのところで視線は止まった。


「久しぶりだな、元気にしてたか?」


「元気も何も、私、苦労してたんですからねっ? 隊長があんなところに私を送るから」


 少し拗ねたように、テオニアはそっぽ向いてしまった。ロベルトはそれに対して、少しバツが悪そうに首に手を当てた。


「いや悪かったって、でもまた戻って来てくれて頼もしい限りだ」


 ロベルトはそのまま視線を落とすと、腰を落とし、じっとミョルンのことを見つめた。そしてその視線に臆することなく、ミョルンも静かにロベルトを見つめた。

 しばらく見つめ合ったあとロベルトが突然ニヤつき始め、ゆっくりと腰を上げた。


「よし、気に入った。お前、護国隊に入れ」


「ちょ、ちょっと待て、そんな軽い感じで護国隊に入れちゃっていいのか? というかそもそもミョルンの話を何も――」


「軽いも何も、俺が認めたんだからいいんだよ。それに元々どうせ、こいつを護国隊に入れてやるつもりだったんだろ? 見た感じ可哀想な奴隷ってとこか?」


「……」


「ほれ、当たりだろ?」


 悔しいが何も言い返せない。しかしながら、一見適当なように見えるが、ロベルトなりにちゃんと見て判断しているようである。


「ロベルト、やっぱ流石ねっ!」


 フレナは得意げに腰に手を当てている。

 なぜフレナが得意げにしているのかとツッコみたくなったが、そこはぐっと堪えた。


「よかったな、ミョルン。お前の望み通り護国隊に入れるぞ」


 トーナは優しく微笑みかけ、テオニアに挟まれるミョルンの頭を撫でた。そしてミョルンは嬉しそうに微笑み返した。

 

 この光景を見て少し朗らかな気持ちになっていたところ、いきなりロベルトは鼻をつまんで、手で払うジェスチャーをしてみせた。


「それにしても、お前ら全員汚れてるな。あと臭いも」


「そりゃ戦ってきた後だからな!」


「ほら、まずは風呂に入ってこい! 話はそれからだ」


 みんなそれぞれ返事をして、ぞろぞろと本部の中へ入っていった。しかしヴェルディスはその場に残り、ロベルトと何やら話しているようであった。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



「はぁ、こうやって風呂にゆっくり浸かれるってのは幸せなことなんだな」


「あはは、その通りだね」


 ミノルとシリウスは2人で湯船に浸かっていた。他の隊員たちはおらず、のびのびとできる。

 シリウスと2人きりになるのは、訓練の時を除くと、この世界に来たばかりの時以来かもしれない。


「……それにしても、今回のようなことって頻繁に起きるもんなのか? もしそうなら俺の身が持たないんだが……」


 シリウスは軽く上を向き、少し考えるかのように間を置いた。そして目を瞑り、鼻からため息を吐いた。


「いや、そんなことはないよ。僕だって今回のような経験は初めてさ。街が丸々襲われるなんて、戦争中でもなきゃありえないからね」


「そうなのか? じゃあ少し安心……もできねぇか……」


「まぁミノル君ならどうにかなるよ、何せ未来の英雄だからね」


「そ、そうだな、ははは……」


 俺はシリウスの言葉に対し、ミノルはぎこちなく笑うことしか出来なかった。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 一方女子風呂は、フレナ、テオニア、イングリット、そしてミョルンが浴室に入ろうとしていた。


「ほらミョルンちゃん? 服を脱ごうか? 何なら私が脱がせて――」


「副隊長?」


「冗談よ冗談」


 睨みを利かせるトーナを上手く躱すように、はぐらかしてみせるが、顔からはテオニアの下心が滲み出していた。


「そういえばぁミョルンちゃん、聖紋って持ってたりするぅ?」


「……聖紋?」


「身体のどこかにできる、紋章のようなあざのことだ」


 ミョルンは顎に指を当てながら、考える仕草をした。しかしすぐに首を傾げ、横に振った。


「うーん、わからないな。服を脱げばわかる?」


 そう言いながら、ミョルンは服を脱いだ。するとミョルンの背中に刻まれた聖紋が、皆の目に入ってきた。


「これって! 凄い聖紋なんじゃないっ?!」


「しかもしっかりと濃いですねぇ」


「こっ、これは隊長に報告だな」


「やっぱミョルンちゃん凄い! さっすが〜」


 皆の反応に対して、ミョルンは目を点にして、首を傾げた。


「報告とかは後にして、ひとまず風呂に入ろ! 話はそれからそれから〜」

 


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 風呂から上がったみんなは、ロベルトに会議室へと集められた。

 長机に皆が座り、誕生日席にはロベルトが腕を組みながら座っている。


 それにしても、先程から女性陣が興奮したような様子を見せているが、何かあったのだろうか。


「まず、みんなご苦労だった。ベンザルでの状況は隊……ヴェルディスからある程度聞いたが、ひとまず誰一人欠けることがなくてよかった。特にミノル、入隊したばかりのお前にとってはかなり厳しい状況だっただろうが、よく生還したな」


「あぁ、死ぬかと思ったぞ。というか半分死んでたようなもんだがな」


「そしてもう本題に入るが、今回遭遇した敵に関して、何か情報を得られた奴はいるか? 何でもいい、些細なことでもいいぞ?」


 するとテオニアはヴェルディスに目配せをして、反応を見た。そして目を瞑り、さっと手を挙げた。


「ではまず私代表して――」


 それからテオニアは、ヴェルディスのところに現れた『獣愛』とテオニアが戦った『神脚』のこと、いきなり現れミノルを襲った謎の男のこと、そして転送魔法らしきものを使っていたことをロベルトに伝えた。


「……それはまた珍しい聖紋が勢揃いだな。それに転送魔法か……それは確かなのか?」


「はい、この目でしっかりと見ましたし、ヴェルディスさんや他の団員も目撃したそうです」


「はぁ……とりあえず分かった。他に何かあるか?」


 ヴェルディスが控えめに手を挙げ、テオニアの説明に補足した。


「補足ですが、『獣愛』の男は、先日あったセシメア様襲撃事件の輩との関係を仄めかしました。おそらく『神脚』も同じものと見ていいでしょう」


 ロベルトは椅子にもたれかかり、額に手を当て、弱々しくため息を吐いた。


「これだけ面々でトドメをさせなかった様な奴らが関わっているとなると、さらに警戒を強めなきゃならんな……。はぁ……報告はこんなもんか?」


「そういえば隊長――」


「まだあるのか?」


 ロベルトはあからさまに嫌そうな顔をした。自ら報告させるために呼び出したというのに、もう何も聞きたくないといった様子である。


「いや、ミョルンのことです。ミョルンの聖紋について」


 それを聞くなり、いきなりロベルトは身体を起こし、テオニアの話に喰いかかった。


「ミョルンは聖紋持ちだったか! で、何の聖紋だったんだ?」


 ロベルトの反応にテオニアはニヤッとし、誇らしげに口を開いた。


「それはですね〜、なんと! 『姿写(すがたうつし)』の聖紋です」


 


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