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嘘つきは異世界譚の始まり 〜チート能力の無い俺が英雄となるに至るまで〜  作者: 伊達眼鏡
第二章 商都ベンザル行方不明事件

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第二章 16話 『安堵の涙』


「ボス〜っ! 治ったんだっ!!」


「げふっ!!」


 先程助けた獣人の少女が、ベッドにいる俺の胸へと思いっきり飛び込んできた。


「! 何でここに……」


「彼女、ミョルンは、意識を失ったお前をここまで運んでくれたんだ。ちゃんとミョルンに感謝することだな」


「本当か! ミョルンって言ったか、ありがとうな!」


 そう言うとミョルンは嬉しそうに顔を見上げ、耳をヒクつかせた。

 彼女は感覚的に小学生くらいの姿をしているからまだいいが、もしこれがもっと大きかったら……何がとは言わないが、少し危なかった。


「……それにしても、何で俺のことをボスって呼ぶんだ?」


「私のことを助けてくれたし、ボスは強いから!」


「?」


 ミョルンの説明を理解できずにいると、それに見かねたトーナが補足してくれた。


「彼ら獣人は、自らが認めた存在をボスとして据える文化があるらしい。要は、お前はミョルンに認められたということだ」


 まるで動物のような習性……というか習慣だが、納得できないこともない。しかしこんな俺をボスに据えるというのは、彼女のためにもあまり良くはないのではないか。


「俺なんかがボスでいいのか? 弱っちくて情け無い人間だぞ?」


 ミョルンは首を振り、頬を膨らませ、ミノルの発言に対しての不満を滲ませた。


「全然弱くなんかないよ! 私にとっては強いボスなの!」


 ミョルンが少し拗ねてしまった。しかしそんな姿を眺めていると愛おしく思えてくる。そしてそう思うのと同時に、彼女の行く末について考えてしまった。


「……それでトーナ、これからミョルンはどうなるんだ?」


 ミョルンは元々1人で街を彷徨っていそうな様子だったし、おそらく親もいないのだろう。奴隷になるのを阻止したのはいいが、その後のことは考えていなかった。このまま帰してしまえば、また同じように奴隷として連れて行かれることなど想像に易い。


「そのことなんだがな、彼女が護国隊に入ると言って聞かんのだ」


「私、ボスみたいに戦う!」


 そう言って腕をブンブンと回して見せ、自慢げな顔をこちらに向けた。

 予想外の解答に俺は呆気に取られてしまった。


「護国隊に入る……? そんな事できるのか?」


 正直護国隊といった組織が、どういった組織なのかいまいち把握しきれていない。俺は無理矢理入らされたが、他の隊員達は一体どういった手順を踏んで入隊しているのだろうか。


「おそらく隊長なら許してくれるだろうとは思うが……もし隊長にしぶられたとしても、副隊長が頑張って押し通してくれるはずだ。なんせミョルンにべた惚れだからな」


 テオニアがミョルンにべた惚れなのは、個人的にも解釈一致な気がする。しかしそうはいっても、そんな簡単に護国隊って入れるものなのだろうか。彼女の身分も雰囲気からして、この世界で生きていくのも大変そうなものなのに、護国隊のような国の組織に入隊できるものなのか……


「そんな上手くいくのか? それにミョルンの身分とか……」


「あぁ、なんといってもミョルンはポテンシャルが高いからな。護国隊としても、それなりに欲しい人材のはずだ。それに身分については、うちの隊にも奴隷出身だったり、下級国民出身だったりする者も少なからず在籍している。入隊することができれば身分も保証されるから、入りたがる者も多いんだ。……まぁ、私もその中の1人なんだがな」


「なんかすまん……」


「いや、気にしなくていい。それよりも、そろそろ立てるだろう? 皆に無事を報告しに行ってやってくれ、皆心配していたぞ」


「俺のことを心配か……」


 俺が朝に考えていたこと、昨日考えていたことが突然頭の中に蘇ってきた。


 彼らは本当に、俺のことを心配なんかしてくれているのだろうか。そもそも俺のことをどう思っているのだろうか。彼らの脚を引っ張っていないだろうか、煙たがられていないだろうか……嫌われて……いないだろうか…… 

 この世界に来て、こうやって仲間……のような存在ができたことはとても嬉しかった。だがそれと同時に、俺からみんな離れていってしまうのではないかと、俺が英雄でないことがバレたらパッと捨てられてしまうんじゃないかと、関係が一瞬で崩れてしまうんじゃないかと、そのような心配が常にやんわりと心のどこかに存在している。



 俺は暗い気持ちを抱えながらも、トーナに促されるままベッドから降り、トーナとミョルンと共に皆のいる広間へと向かった。

 広間へ着いた途端、会話を交わしていた皆がこちらへ振り向き、一瞬の間静まり返った。

 元の世界での出来事がフラッシュバックし、息が詰まった。この刹那の静寂が、永遠のように感じられた。

 しかし俺が考えていたことは杞憂に過ぎなかった、その後すぐに各々が反応を示し、こちらへ駆け寄ってくれた。


「ミノル君! 起きたのか!」


「やっと起きましたかぁ? よかったぁ、無事に治せていたみたいですねぇ」


「ふん! 起きるのが遅いのよ……って、なんで泣いてるのよ!?」


「えっ? 俺泣いてる?!」


 フレナに指摘され頬を触ると、確かに一筋の涙が伝っているのが感じられた。何を思ったわけでもない。 しかしこの涙に理由をつけるとするならば、おそらくそれは安堵の涙なのだろう。


「ミノル君も疲れてるんだろう、無理もないよ」


「いや、もう大丈夫だ。……俺自身大したことはしてないしな」


 ミノルが自身なさげに肩を落とすと、フレナはそんなミノルの態度に不満を露わにした。そして腰に手を当てながら、俺の顔の目の前に素早く指を向けた。それに思わず、ミノルは少し腰を反らせた。


「もう! こんな時ぐらいは自分のこと褒めてあげなさいよ! アンタが役に立つことなんて滅多にないんだからっ!」


「……それは遠回しの励ましだと思っていいのか?」


 おそらく彼女なりに、俺のことを想ってくれているのだろう。遠回しに俺が役に立ったのだと、そう伝えようとしているように感じられる。まぁ、気のせいかもしれないが……


 そんな会話を交わしているとイングリットが僅かながらの殺気を放ちながら、不気味な笑みを浮かべ、背後から肩に手をかけてきた。そして、静かに耳元で囁いてきた。


「身体を張ってまで任務を全うしようという心意気は素晴らしいですがぁ、ちゃんと自分のことも気にかけてくださいねぇ? あそこまでの怪我されると、治す方も大変なんですからぁ」


 イングリットの凄みに気圧され、俺は細かく頷くことしかできなかった。


「そういえば、テオニアやヴェルディスさんは――」


「ただいま〜 戻ったよ〜」


 玄関からテオニア、ヴェルディス、そしてなぜかいつぞやの団長が一緒に入ってきた。そしてミノルに気がついたテオニアが、こちらに手を振ってきた。続いてヴェルディスも軽く会釈をしてきた。


「おっ、ミノルくん起きてるじゃん! 無事でよかったよかった」


「ミノル殿、ご無事で何より」


「いやまぁ、お陰様で……」


 一方ブランカは、何か思うことがありそうにこちらを見つめていたが、その場では何かを言ってくることはしてこなかった。


「よし、ミノルくんも起きたことだし王都へ戻ろうか」


「えっ、もう戻るのか? 何かもう少しやることとか……」


「そうは言ってもここは戦兵団の管轄だから、本来は私たちがどうこうするもんじゃないのよ。それに後処理とかに関しては、ブランカが来たから大丈夫。でしょ? ブランカ」


「あぁ、護国隊にはもうすでに十分世話になってしまったからな、後処理くらいは私たちだけやらせてくれ。皆疲れているだろう、王都に戻って身体を休めてくれ」


 そう言ってブランカは、建物の奥へ消えてしまった。その後ろ姿は勇ましく、そして逞しく思えたが、どこか悔しさのようなものが滲んでいるようにも見えた。


 それからというものはとてもスムーズに事が進み、すぐに馬車が手配され、王都へ戻る準備が整った。

 行きよりも2人増えているため、馬車一台では足りず、二台で帰ることになった。


 馬車に乗るために、改めて支部の外へ出て街を眺めると、道端には破壊された露店や建物の瓦礫で溢れているのが目に入った。路面に転がっていた死体に関しては派遣されて来た戦兵団員達が素早く処理してくれたおかげで、建物内に逃げて生き残った一般人が目にすることはなかった。


「ほらミョルン、馬車に乗るぞ?」


「了解っ、ボス!」


 商都にいたこの短い間で様々なことがあったが、結果的には仲間は誰も死なず、敵を倒すことができた。ミノル自身も仲間からの評価を上げ、1人の少女を助けることができた。

 しかしそのような裏で、ミノルのこの世界に対する不安は増す一方だった。




 


 

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