第一章 2話 『天命の証』
「ほれ、そこ座れ」
「いや誤解なんですって……」
「ごちゃごちゃ言わずに早く座れ」
俺は不審者扱いされ、手を縛られ、城へ連行されたのだ。
そして今、薄暗い石造りの部屋へ連れてこられたところである。
よくドラマで見る警察の取り調べ室のようなつくりをしており、部屋の隅には――拷問器具のようなものが見える……
良くない想像ができてしまうが、とりあえず相手を刺激しないように大人しく従う。
縄を解かれ、俺が席へ座ると、白髪の男も机を挟んで向かいの席に座った。
「言われなくとも分かると思うが、この部屋は結界が張ってある……だから魔法は使えない。観念しろよ?」
「そんなこと言われなくたって魔法なんか使いませんって……」
「お前は何者だ? 何で街のど真ん中で魔法を放とうとしていたんだ?」
「だからそんなことしていないですって!」
「とぼけない方がいいと思うぞ?」
そういい彼は後ろの拷問器具のようなものを指差した。
「ひっ……」
先ほどから彼は、全くこちらの話に聞く耳も持たない。
とても面倒な事になってしまった。この誤解を解かなければ、この異世界ライフが1日も経たずに終わりかねない。
「で、何だ? お前が来ているその服は?」
「はい?」
すると突然彼の目が青く光始め、その目で俺の服を凝視してきた。
「見たことのない素材でできているな? そして見た目もおかしい…… 何だそれは?」
彼が言っているのはこのジャージのことだろう。
このジャージの素材はありふれた化学繊維なのだが……
なるほど、この世界には化学繊維は無いらしい。確かに少し考えればわかることではある。
「この服は――」
「あぁ別にいいよ答えなくて、お前の服のことなんてどうでもいいからな」
(お前が聞いてきたんだろうがっ!)
「それにしても本当に何者だ? ――あの尋常でない魔力は……」
「?」
「お前まさか帝国の差し金か? どうなんだ?」
「帝国……?」
「否定しないんだな?」
「いやいや否定しますよ! 怪しい者じゃないんですって!」
「じゃあお前は何なんだよ」
かなりまずい。
何の話をしているのか全く理解できないが、とてもまずい状況なのはわかる。
目の前の彼は、かなりこちらを警戒している様子であり、こちらがいくら否定しても状況は悪化するだけなのだと感じて取れる。
どうにかしてこの場を切り抜けなければ……彼の気迫的に打ち首になりかねないような雰囲気だ。
勘弁してほしい。こんなところで終わってたまるか。
どうするどうするどうするどうするどうする
ミノルは頭をフル回転させ、とにかく考えた。そして彼は口を開いた。
「俺は……天命を受けし者!!」
「はぁ?」
「神様より天命を受け、この地に降り立ったんだ!」
――彼、セツダ・ミノルは追い込まれると考えるよりも先にありもしない事を口走るのである。
それは彼の人生の中で良いようにも悪いようにも働いてきた、彼の条件反射のような癖であった。
……やってしまった。
またありもしないことを口走ってしまった。
――でも命に関わりかねない状況なのだ、これは仕方ないことである。
しかし、また面倒くさい事を言ってしまったものだ。言ってしまったものはしょうがない、この状態から無理にでも上手いこと持っていくしかない――そう思ったのだが……
「ほう……天命を……」
「?」
想像と違う反応だ。
さっきより威圧感が弱まったような気がする。
てっきり俺はもっと異常者を見るような目で見られるものだと思ったのだが……意外な反応である。
「ふむ……どんな天命を受けたんだ?」
「そっそれは、言わないという約束なんだ」
「こんな場面でそんなこと言うくらいだ、何か証拠でも持っているんだろうな?」
思ったより良い感じである。
しかし困った事に、証拠を出せと言われてしまった。ピンチである。
というかそもそもの話、本当に天命を受けていたとして、証拠を出すなんて無理な話であろう。
俺の知る限り、そういうのって神様とかとの口約束であったり、一方的に押し付けられるものであって、証拠として何かが残ることは無いのである。
不意に手を動かした瞬間、ズボンのポケットに当たり、金属の擦れる音がなった。
――これなら誤魔化せるかもしれない。
俺の持ち物で誤魔化せそうな物――――それは……
「これを見てくれ! これが俺が神様より授かった、天命の証だ!」
「ほう…………」
俺が目の前の彼に見せたのは、家の鍵についていたそれっぽいキーホルダーである。
千円ほどの安物であるが、このキーホルダーの素材である、プラスチックや合金はこの世界には存在しないであろうという見立てだ。
さっきのジャージに対する彼の反応を見るに、いわゆる解析スキルのようなものを持っている可能性が高い。なので、キーホルダーの素材も珍しく感じるはずだ。
それを都合の良いように解釈してくれれば……!
「見たことのない素材でできているな」
「そりゃ、神様から授かった神器だからな」
「……なるほどな」
かなり好感触である。
このままいけば上手いこと乗り切れるかもしれ――――――
「……ついてこい」
「はぇ?」
「だからついてこいと言っているんだ」
「……わかった」
これはどっちだ?
上手いこといったのだと思いたいのだが、悪い方向にいってしまった可能性も否めない。
とりあえず、ついて行くしかできることはない。
「俺をどこに連れて行くんだ?」
「黙ってついてこい」
彼に連れられ石造りの建物から城の庭に出た。そして城の中へと連れて行かれる。
城の外観は漫画やアニメに出てくるような、白く、ところどころ塔のある大きな建物である。
城の内観も同じく、イメージ通りの作りである。
城の入り口の正面にある大きな階段を登り、大きな威厳のある扉の前まで来た。
この扉の先に何があるのかは、おおよその予想はつくが……
大きな扉の両脇には鎧を着た兵士が立っている。
白髪の男がその兵士たちに何か話しかけ、兵士たちは頷く。そして彼らは目の前の扉をゆっくりと開けた。
その扉を開けた先には―― 玉座に座る女性がいた。金髪で眉目秀麗、スタイル抜群で小柄な女性。
無意識にミノルの口からこぼれ落ちる――――――
「――――――綺麗だ……」
6/29 セリフの軽微な修正
8/4 登場人物の口調の変更