第二章 16話 『合体大作戦』
「――来たぞ! セツダ・ミノル!」
「マジで頼むぞ、トーナ」
「こっちのセリフだ! 本当に大丈夫なんだろうな!」
「そんなこと言ったってやるしかないだろ! いくぞ! しっかり捕まっててくれ!」
俺の考えた作戦、それは――
『トーナと合体大作戦』
決していやらしい意味ではない。
そもそもの問題点は、相手の攻撃を防ぐことができず懐に入り込めないというところだった。
俺自身の防御魔法で防ぐことはできるものの、器用に使いこなせるものではなく、実用性はない。
なので俺ではなく、基本スペックが全体的に高いトーナに本当は丸投げしたいところだが、あの怪物には魔法があまり効かないらしい。
しかも援護に回ってもらおうにも、魔素の消耗を極力抑えているトーナの防御魔法では怪物の攻撃を受けきれないのだ。
それはトーナ曰く、省エネモードにしているのもあるが、防御魔法はそもそも物理攻撃に対してはあまり強くないからだそうだ。
そこで俺は考えたのだ、トーナが魔素消費のことを気にしなくていいようにすればいいのだと。そうすればトーナも防御魔法に力を注げる。
ようはトーナが魔素量だけ多い俺にくっつきながら先程のように魔素を吸い取り、そのまま俺の援護をする。そしてその援護を受けながら、俺が怪物を倒す。俺がトーナのモバイルバッテリーになっているとでも考えると分かりやすいだろうか。
言っておくが下心はない、神に誓おう。
怪物達がそれぞれ拳を振りかざし、こちらへ突進してくる。唯一の救いは、怪物の移動速度が攻撃速度に比べるとだいぶ遅いということである。
俺はトーナがしっかりと援護してくれることを信じて、怪物の懐へと飛び込んだ。
「うぉぉぉっ!!!」
怪物が拳を放ってきたものの、トーナが素早く防御魔法を展開して防いだ。そのおかげで俺の拳が怪物に届き、腹部へとめり込んだ。そしてその後も連続で何発か攻撃をいれ、その反動で怪物は後方へと弾かれた。少し苦しんではいるものの、倒し切るには至っていない。
「ギッ!」
「痛っ!! 硬っ!!!」
できる限りの力で殴ったのだが、まるで地面を殴っているかのような感覚になった。
そんな痛い思いをした割に、大したダメージは入っていなさそうである。おそらくトーナを背負いながら、魔素を吸われているという状況のせいで全力からは程遠くなってしまっているのだろう。それにしてもこの手応えのなさは、かなり辛い。
「ギュッ!!」
「ッ!!」
気に障ったのか、怪物が先程よりも速いスピードでこちらに突っ込んできた。
トーナが防いでくれる、そう信じていながらも反射的に防御姿勢をとってしまった。しかしそれは正解だった。
怪物の重い拳が、俺の咄嗟に構えた腕にメリメリと音を立てながら沈み込んだ。そして俺はとんでもない勢いで突き飛ばされ、広場の外縁部にある建物の外壁を突き破った。
「くっ……これは痛すぎる……! トーナ……!!」
「後ろでもう1体から一方的に猛攻を食らっていたんだぞ! その中でいきなりあの攻撃を防ぐのは無茶だ!」
おそらく今の攻撃で両腕にヒビが入ったかもしれない。動かすことはできるが、もう一度食らったりなんかしたら使い物にならなくなるだろう。
「むぅっっ!! むぅうっ!!」
「!!」
声の方を見ると、縄で縛られ口枷をされた獣人の女の子が床に転がっていた。間違いない、彼女は朝に奴隷商人に連れてかれた子だ。
「セツダ・ミノル! こちらへ来るぞ!!」
壁に空いた穴から、怪物1体がこちらへ向かってくるのが見えた。このままいくとこの獣人の子が巻き込まれるのは必至だ。
俺は考えるよりも先に身体が動いた。獣人の子の方へ向かい、抱えてその場を離れようとした。しかし抱えた瞬間殴られた腕が酷く痛んで、動けなくなってしまった。
「うっ……!」
「……しっかり抱えていろ! セツダ・ミノル!」
トーナは魔法で突風を起こし、ものすごい勢いで壁の穴から俺らを外へ吹き飛ばした。そしてそれとほぼ同時に怪物が穴の中へと突っ込んでいくのが落下しながら見えた。
そして落下の衝撃も風で和らげ、なんとか地面へ転がった。
周りを見渡すと、俺たちが植木で隠れているおかげか、もう片方の怪物にも今のところ気づかれていなさそうである。その証拠に、壁の穴へ飛び込んでいった奴をもう片方も追っていった。
「うっ……とりあえずは大丈夫そうか……?」
「むぅっ!」
「大丈夫か? 今解いてやるから待ってくれ」
急いで獣人の子の口枷を取り、縄を解いてあげた。ふらついているものの、立てはするようである。
「あそこの地面に穴があるのが見えるか?」
「う、うん」
「ひとまずそこの中に避難してくれ、中でおじさんが倒れているかもしれないが気にしなくていいから」
「わ、わかった! 助けてくれて、ありがとう……!」
そう言って、ビズーが倒れているであろう地下通路の入り口へと走っていった。
「それにしても意外だったな、お前ならそんな奴置いて早く逃げろとでも言うと思ったのに」
「ふん、さっきも言っただろう、知ったような口を利くんじゃない」
そうは言いながらも、先程とは違って少し清々しい顔をしているような気がした。
そして今の出来事でまた一つ良いことを思いついた。現状あの怪物を倒し切るには、パワーが足りていない状態である。少なくとも、単純に殴りつけるだけでは倒すことはできないだろう。助走をつけて飛び込んでも、おそらくまだ足りるか怪しい。でも助走にプラスして、トーナの風魔法で先程のように上手いこと加速しながら攻撃できれば……! 致命傷を与えることができるかもしれない。
「というかトーナ、その魔法結構使えるかもしれないぞ」
「?」
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「――やりたいことは分かったが……そんな上手いこといくのか?」
「これ以外方法が思いつかないからしょうがない。このまま今の戦法を続けてもジリ貧だ」
「もしそうするのだとして、魔物の足止めはどうするんだ? その1発を避けられたら、それこそマズいんじゃないのか?」
「それはトーナがどうにかしてくれ」
「はぁ? 何だそれは、私に丸投げじゃないか! そこは貴様が上手いこと考える流れじゃないのか?」
「まぁ何だ? トーナのことは全然よく知らないけども、経験も実力も俺なんかより全然上だろ? それだけは何も知らない俺でも断言できる。俺なんかより頼りになるし、信頼できる、というかしてる。お前にとってはこんな些細な問題屁でもない、そうだろ?」
勢い余って小っ恥ずかしいことを平然と口にしてしまった。こんなことを元いた世界で言えば、間違えなく軽蔑されただろう。だが異世界補正のおかげか、目の前にいる彼女は意外と満更でもなさそうな顔をしていた。
「はっ! 随分と好き勝手言ってくれるじゃないか。上手いように使われている気がするがいいだろう、私に任せろ」
「よし! 任せた! ……にしてもどうやって下へおびき寄せたものか……」
「簡単な話だ、貴様が魔力を練るだけでいい」
「ん? 魔素を練るって何だ?」
「何だって言ったって、貴様よく時と場所を考えずに好き放題練っているじゃないか。個人的には普段からとても迷惑しているんだが」
普段から俺が魔素を練っている……? そんなことをしている覚えはないのだが……。でも魔素を練るというフレーズをどこかで聞いた覚えがあるような気がする――
「――あっ、もしかしてこれか?」
一度だけその言葉を耳にしたことがあった。それは忘れようがない、この世界に来てすぐのとき、ロベルトと初めて会った時だ。その時していたことといえば、身体に何か力があることを妄想しながら踏ん張っていただけ。その行為ならこの世界に来てから気が向いた時に、何度もやってきた。朝起きた時、訓練の時、風呂に入っている時や寝る前などなど。個人的にはスーパーサ◯ヤ人の真似事くらいのつもりだったんだが……。ちなみになぜそんなことをしていたのかというと、何か秘めたる力が俺にもあるのではないかという淡い期待を抱いていたからというのが一番。あと一応、魔素と気というものが似たような概念であるような気がしたからというのもある。
実際に魔素を練るというのがその行為を指しているのかを確かめる為に、トーナの前で試しに踏ん張ってみた。
「待て待て! いきなりここでしたら――」
「ギュバァーー!!」
するといきなり遠くの方から怪物の雄叫びが聞こえてきた。ひとまずこの踏ん張るという行為が魔素を練るという行為とイコールであることは分かった。
「すまん、これは完全にミスったな……」
「はぁ…… セツダ・ミノル、ひとまず急いで広場の開けた所に立って囮になってくれ」
「はぁ? いくら俺のことが気に入らないからってそりゃないだろ」
「そういうことではない! 私のことを信じるのではなかったのか?」
「ぐっ……マジで頼むからな」
正直嫌でしかないが、トーナに対して調子のいいこと言った手前行くしかない。ここはトーナを信じるしかない。
俺は広場の真ん中の方まで走り、そこでまた踏ん張った。すると少しして、怪物2体が猛スピードでこちら目掛けて走ってきた。
「そのままじっとしててくれっ!!」
「本当に大丈夫なんだろうな!!!」
できることなら、今すぐにでも走って逃げたい。
そうこうしている間に、怪物が目と鼻の先まで来ていた。
「早くしてくれぇぇぇ!!!」
「はっ!!」
もうダメだと思い構えた瞬間、いきなり目の前の怪物達が瞬く間に厚い氷の塊に覆われた。
「情け無い声を出すんじゃない、セツダ・ミノル! ほら、早くこっちに来い!!」
「怪物には魔法が効かないとか言ってなかったか?! あれでちゃんと拘束できてるのか?」
「私が常に魔法を発動しつづけてるから、今のところ大丈夫だ。ほら、早く建物の上に登るぞ!」
俺らは先程の建物の上まで急いで登った。位置エネルギーを最大限利用するためである。この際、使える力は全て使っておきたいのだ。
「とりあえず私を背負え、後はお前が思いきり飛び込んで1発食らわせてやれるだけでいい。細かいことは私がやるから考えるな。とにかく当てることだけを考えろ」
「……信じてるからな、頼むぞ」
トーナを背負い、へりの際まで足を進めた。先程まではアドレナリンのおかげか、高所や落下などに対して恐怖というものはさほど感じてはいなかったのだが……
「ちょっと待ってくれ、心の準備が――」
「早くしないと、拘束が解けるぞ! 貴様、仮にも未来の英雄なんだろう、漢を見せろ!」
「――あぁ!! くそったれぇぇぇ!!!」
俺はへりから距離をとった後、出せる限りの力を全て注いで駆け出し、地面を蹴った。そしてその直後トーナが風を起こした。途轍もないスピードで加速し続けている。目も開けてられないほどの速さだが、気合いで無理矢理目を見開き、どうにか怪物を捉えた。視界は霞み、目からは涙が滲み出ている。腕を振るなどという予備動作はする余裕もなく、腕を固定して前へ向けておくことしかできない。
まもなくして視界が暗転し、気がついた時には地面に横たわっていた。




