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第二章 13話 『赤い湖面でシャル・ウィ・ダンス』


「これは……酷いね」


 柵の外は静寂に包まれおり、先程の様子は見る影もなかった。地面には赤い水たまりができており、無惨に死体が散乱している。そしてそれらを踏み潰しながら、魔物が複数匹徘徊していた。 

 

「イングリットさん、これって……」


 イングリットは目を細め、ため息を吐いた。


「この人達は……手遅れねぇ。 私じゃどうしようもないわぁ」


 残されている遺体の損傷がかなり激しく、死後どのくらい経過しているのかすらわからない。イングリットの生体魔法での蘇生は絶望的だ。


「くそっ!!」


「……」


 共に外に出てきた戦兵団員2人は目の前の惨状に、唇を噛み締め、とても悔しそうにしている。普段顔を見合わせている街の住民たちのあのような姿を前にすれば、自責の念に駆られるのは当たり前のことだろう。


「あのキショい奴ら、本当に許せないわ! しばいてやる!!」


 フレナは魔物に対して嫌悪感を露わにしながら、指の関節を鳴らしている。


「シリウス、あの魔物たちをさっさと片付けるぞ」


「言われなくても分かってますよ、師匠!」



 一瞬の静寂の後、フレナが先陣を切って柵を飛び越え、魔物へと突っ込んだ。ヴェルディスとシリウスも後に続いて柵を飛び越えた。


「うぉりゃぁ!」


「ギュバァ!!!」


 フレナの飛び蹴りが魔物の頭部へと直撃し、陥没させた。そして続け様に寄ってくる魔物たちにひたすら打撃を浴びせ続けている。


「あんたら本当に許さないからっ!!」


 ヴェルディスとシリウスは共に剣を構え、颯爽と魔物たちへと切りかかった。

 

「ふんっ!」


「はぁっ!」


「ギュ――」


 2人とも魔物に反応される前に切りかかり、首を落とした。そして流れるように、2人は息を合わせて次々に魔物に斬撃を与えている。


「ふむ、前よりも動きが良くなったんじゃないか? シリウス」


「そりゃちゃんと常日頃、自己研鑽に励んでいますからっ!」



「おっ俺らも行くぞっ!」


「あ、あぁ!」


 戦兵団員2人も柵を跨いで魔物へ向かっていき、それぞれ魔物に剣を力一杯振るった。だが当たりこそするものの傷は浅く、致命傷を与えるほどのものではなかった。さらに魔物からの攻撃を避けるので精一杯で攻撃する余裕がなく、ひたすら防戦一方になっている。


「あぁっ!! 何で俺らはこんなに……!! くそっ!!!」


「はぁ、はぁっ! ダメだ、強い……!」


 しばらく戦っていると、魔物の猛攻の中、一方の男が判断を誤ってしまった。

 

 このままだと至近距離で魔物の魔法を喰らいそうだ。喰らってしまえば、聖紋のない一般団員である自分じゃ、無事では済まないことなど明白である。


「ひっ……!!!」


「ふんっ! 弱いながらも、ちゃんと戦いに来たことについては褒めてあげるわ」


 そう言ってフレナが背後から回し蹴りで魔物の頭部を粉砕し、戦兵団員を助けた。


「た、助かった。 ……感謝する」


 戦兵団員は少しぎこちなくはあるが、フレナに感謝を伝えた。



 イングリットは少し後方から魔物に向かって、生体魔法での攻撃を試みた。だが、魔物は苦しむそぶりを見せるものの、倒すことはできなかった。


「やっぱりトーナちゃんが言っていた通り、魔法耐性が高くて歯が立たないわねぇ……」


 一度落ち着いて、皆の戦っている様子を眺めた。フレナやシリウス、ヴェルディスは順調に魔物を倒している。だがいくら倒しても、一向に数の減る気配がない。


「おかしいわねぇ……あらぁ?」


 注意深く観察していると、近くの建物の上に茶髪で眼帯をつけた男の姿が見えた。よく見るとその男の手元から多くは魔素が漏れ出しており、明らかに民間人ではなさそうだ。


「はぁっ! っ! 次から次へと、本当にしつこいわね!」


「あぁ、この魔物自体はそこまで強くはないが、数が多くてキリがない」


「こいつらどこから湧いてるんですかねっ!」


 イングリットがしばらく男のことを観察していると、いきなり目が合った。そして途端に男はこちらへ腕を伸ばし、口元を少し動かした。


「っ!」


 イングリットは反射的に生体魔法で身体を強化し、防御魔法を展開した。

 そうした瞬間、正面から高速で魔物が飛んできた。そして防御魔法を粉砕し、イングリットへと突っ込んだ。突進されたイングリットは弾き飛ばされ、支部の建物の壁面へとめり込んだ。


「うっ……!」


 苦痛で顔を歪む。突進された箇所が痛い、おそらく骨にヒビが入ったのだろう。だが幸い身体を強化していたため、まだ軽く済んだ方だとも言える。

 イングリットはすぐに生体魔法で傷を治し、魔物を殴り飛ばした。


「イングリット! 大丈夫!?」


「っ、10時の方向、建物の最上部に怪しい人影ぇっ!!」


 イングリットがそう叫んだ瞬間ヴェルディスが即座に反応した。魔物踏み台にして高く飛び、建物の壁面を駆け抜け、上にいる男の目の前まで一瞬で到達した。

 上にいた男は突然現れたヴェルディスに少し怯んだ表情を見せたが、すぐに落ち着き、冷静にヴェルディスを見つめた。


「……貴様だな? 魔物を召喚しているのは」


「あぁ? そりゃみりゃわかるだろ。それともボケちまってまともに判断もできなくなったのか? じいさんよぉ」


 男はニヤニヤしながら、ヴェルディスを嘲笑った。しかしヴェルディスは男の挑発には乗らず、淡々と続けた。


「先日城へ攻め込んで来た奴らの仲間か? ここでの人攫いの件も貴様が黒幕なのか? 目的は何だ?」


「一気に喋るなよ、まぁ城に送り込まれたあんな雑魚共を仲間なんて呼びたくはないが、関係がないと言えば嘘になる。あと人攫いについても関係なくはないが、別に俺が攫ったわけじゃねぇ。目的については……今はとりあえずてめぇらをボコすことさ」


「なぜ民間人を殺した?」


「あんた本当に話すのが好きだな。さて、なんでって言われてもなぁ……、まぁ邪魔だったから?」


 ヴェルディスは剣を脇に構え、姿勢を低くした。


「覚悟……!」


 素早く踏み込み、男の首元を狙った。しかし刃が首に届こうとした瞬間、ヴェルディスは側面から叩き飛ばされた。


「!!」


 急いで視線を向けるとそこには、先程までいなかった魔物が現れていた。しかもその魔物は下にいる魔物とは姿が少し違っていおり、人の形に近くなっている。


「会話の最中にいきなり切りかかってくるなよ、じいさん」


 ヴェルディスは滑りながらもギリギリ建物の淵に留まった。そして体勢を立て直し、先程よりも素早く魔物の方へ踏み込んだ。


「ふんっ!」


 しかしヴェルディスの素早さに反応し、腕を犠牲にはしたものの、斬撃をかわした。下にいる魔物と、反応速度が桁違いである。

 腕を切り落とした直後、今度は高速で別の魔物が飛来し、またもヴェルディスは弾き飛ばした。そして建物上から落下し、上手いこと壁を使いながら地面へと着地した。


「師匠! 大丈夫ですか?!」


「くっ、手強いな……」

 

 男が建物の上から覗き込んで、ニヤついている。


「へぇ、生きてるのかじいさん。まぁそりゃそうだよなぁ、護国隊の野郎だもんなぁ」


「うぉりゃぁぁっ!!」


 フレナが地面が割れるほど強く踏み込み、高く飛び上がった。そして、覗き込む男の顔へ1発喰らわそうとした。だが突然魔物が飛来して壁となりフレナの拳を受け止め、先程の腕を失った人型の魔物が、滞空しているフレナに勢いよくのしかかり、そのまま地面へと叩きつけた。その衝撃で床は陥没し、フレナは地中にめり込んだ。


「フレナ! 大丈――」


「あぁっっ!! ムカつく!!!」


 フレナは上にのしかかる魔物を弾き飛ばし、陥没した穴から這い出てきた。

 『堅靭』の聖紋を持つフレナだが、流石に無傷とはいかず、身体に多少のかすり傷を負ったようだ。

 

「姉ちゃんも生きてるのか。やっぱ護国隊って化け物しかいねぇな」


男はまたも顔を覗かせ、ニヤついている。


「ふむ……どうしたものか」



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