第二章 12話 『聖なる紋章』
「それはねぇ、私には『見えてたから』だよ」
「?」
「実は私、『神眼の聖紋』を持ってるんだから!」
「神眼の聖紋……?」
テオニアが誇らしげな顔をして、こちらを見ている。
神眼? 聖紋? 一体何の話をしているのだろうか。いかにも厨二っぽい話だが……
「ダメです、テオニアさん。コイツは何も理解できていません」
「えっ!? 今の会話の中で理解できないところなんてあった?」
「ありまくりでしたけど……」
「コイツはとことん無知な奴なんです。それにしても貴様、勉強などといって図書館に毎日のように来ているのに、何故そこまで知見が浅いんだ?」
「いやまぁ、そういうこともあるだろ?」
実を言うと、最近は創作された物語ばかり読んでいて、この世界の知識を大して取り入れていなかったのだ。別に大した知識がなくても、日常業務をこなすのには何ら支障がないのである。
「というか団長から聖紋の話とかされなかったの?」
「いや――ん……?」
今思い返してみると、魔法の説明のタイミングで何か言いかけていたような覚えがあるがそれか?
あとは団長達が集まっていた時に少し言葉を聞いたくらいしかない。
とにかく明確にロベルトの口から説明されたことはない。俺が知っていないことなどわかっているだろうに、なぜ未だ説明されていないのだろうか。
「えっとまぁ、聖紋から説明した方がいいかな?」
「はい、お願いします……」
なんか気まずい。ビズーもこちらに視線を向けている。
「聖紋っていうのは、体に刻まれている紋章のこと。聖紋には様々な種類があって、それぞれに能力、『聖能』が宿っているの。それに、聖能関係なく持ち主は身体能力や魔力総量が大幅に上がるのよ」
そういってテオニアは袖をまくり、肩を見せた。
確かにそこには黒い紋章が刻まれている。
ひとまず、この世界の人間が化け物じみた身体能力を持っている理由に納得がいった。
とは言っても、聖紋とかいうもので化け物みたいに強くなるのは意味不明だが。
「てことは、みんな聖紋を持っているのか?」
「いや、そう言うわけじゃないの。聖紋を持っている人なんてごく一部よ。突然聖紋を持って生まれてくることもあれば、遺伝することもあるけど。とにかく聖紋を持っているっていうのはすごいことなんだから! それに持っていたとしても、聖紋の濃さでも聖能や基礎能力の度合いに違いがでるのよ。だから聖紋を持っていたとしても、またそこで差ができるの」
「護国隊員でも多くの者は聖紋を持っていない。持っていたとしても、薄い聖紋ばかりだ。貴様が知っている人でいうと、イングリットさんも聖紋を持っていない」
「えっ? あの人持ってないのか?」
あの人もかなりイカれているが、聖紋持ちではないらしい。結局は聖紋を持っている持っていないに関わらず、この世界の住民は皆ぶっ飛んでいるのだろうか。
「そしてこの私は、その中でも珍しい聖能である『神眼』の聖紋を持っているのよ! しかもしっかりと濃いものをね!」
またも腰に手を当てながら、誇らしげにしている。だが、個人的にまだ全然ピンと来ない。
「えっと、神眼……?」
「あぁもうっ!!」
テオニアは頭を抱えて、天を仰いでいる。
「そう……よね、わからないんだもんね。神眼っていうのはね、簡単に言うと目が良くなるのよ。遠くを俯瞰的に見ることができたり、時間を引き延ばして捉えることができたり。はたまた私のは濃いから、相手の瞳を見つめれば、断片的にその人の未来を見るなんてこともできるの」
「!! それってかなりすごいことなんじゃないか!?」
未来視キャラって結構アツい立ち位置であろう。正直そんな能力があるのはとても羨ましい。
「そうよ……すごいことなの……」
周りを見渡すと、皆が呆れ返っていた。
「何かすまん……」
「これで、私たちがいち早く君のもとへ駆けつけられた理由がわかった?」
正直ちゃんと分かったわけではないが、要はすごい能力で事前に察知していたということだろう。そして彼女の目が怖く感じた理由も、能力で俺の未来を見ていたからのようだ。
しかしここで一つ疑問が浮かんだ。
「でも、事前に俺が襲われることが分かってたなら、もっとやりようがあったんじゃないか?」
テオニアは溜め息を吐き、首を横に振った。
「さっきも言ったけど、未来を見られるっていっても、断片的な画像しか見られないのよ。しかも見た未来がいつ起こるのかもわからないから、対策のしようがなかったの。だから宿を出発する前に言ったでしょ? 宿にちゃんとお留守番しておいてって」
確かにそんなことを言っていたが、ただの気遣いからくる表現だと思っていた。
「というか、トーナとかフレナ、シリウスも聖紋を持ってるんだよな?」
「あぁ、フレナは身体の防御力が向上する『堅靭』、シリウスは精霊類に懐かれやすくなる『精愛』、そして私は魔素操作の精度が上がる『魔操』の聖紋をそれぞれ持っている」
「その流れで俺って聖紋持ってたりしない?」
異世界に来たからにはそういう特殊能力が宿っていてほしいが、正直淡い希望である。聖紋は身体に刻まれるらしいが、自分から見える範囲でそれらしきものは見かけたことがない。
「?? ミノルくんは普通に持ってるじゃない。もしかして知らなかったの? 首裏に濃いのがあるよ?」
「えっ!!! マジですか!?」
本当に自分にあるとは思わなかった。なるほど首裏は自分からは見えないので、認識できなくて当然だ。 この世界に来て、不自然なくらい身体能力が上がっているのを感じていたが、それもこれも聖紋の恩恵だったのだろう。
「ちなみに何の聖紋だかわかります?」
テオニアとトーナが2人して顔を見合わせ、何とも言えない表情を浮かべた。
「護国隊の中ではとっても珍しい聖紋だよ? 私も初めて会った時驚いたし……」
「あぁ、とても珍しい聖紋だが……私が貴様の英雄だという主張に懐疑的な理由の一つだ。貴様、本当に自分の聖紋を知らずに護国隊に入ったのか?」
俺の聖紋ってそんなにヤバいやつなのだろうか。見つけ次第即刻処刑レベルとか? しかしそれなら最序盤に死んでいるだろう。とにかくどんな聖紋なんだ!
「……結局、俺は何の聖紋なんだ?」
「……『言繋』の聖紋だよ」
「違う言語の種族とも、滞りなくやりとりできる聖能の聖紋だ」
「……はぇぁ?」




