第二章 11話 『羨望のビズー』
「まず、ヴェルディスさん。結界の様子はどんな感じでした?」
「調べた感じ、物理結界に書き換えられているようでした。魔素だけでなく物体も通さなくなっており、ここからの脱出は困難かと思われます」
助けてくれた時にヴェルディスが外から登場したのは、結界を調べにいっていたからのようである。
「物理結界かぁ、たちの悪いことをしてくれるわね。ちなみにトーナちゃん、イングリットちゃん、結界の解除ってできたりする?」
テオニアが2人の方を見つめると、トーナとイングリットは渋い顔をして首を横に振った。
「いや、無理ですね。主要な都市の防衛に使われているだけあって、段違いに複雑な術式で構成されていますから」
「地道に解析なんてしてたらぁ、数週間も……下手したら数ヶ月単位で時間がかかるわねぇ。結界を解除したいのならぁ、物理的に塔の上の結界石を破壊するしかないと思うわぁ」
そして、トーナが付け足すように言った。
「そして結界石を壊そうにも、外には得体の知れない魔物が彷徨いています。魔法にも強い耐性を持っているようで、中々に手強いかと」
「困ったわねぇ、行動しようにも情報が少なすぎるわ」
先程の怪しい男が関係していそうなのは確かだが、確証が持てない。それにあの怪物達がどこからきてるのか、そもそも何なのか、わからないことが多すぎる。
皆が考え込んでいると、フレナが口を開いた。
「こんなところで考え込んでたってしょうがないわ! とりあえず外に出ないことには何も始まらないわよ」
「フレナ、こんな状態で迂闊に外に出るのはリスクが――」
「ほんと肝っ玉の小さい男ね、シリウス! こうしている間にも被害は広がっているのよ」
シリウスは肩をすくめ、顔を逸らした。
最近のシリウスはフレナから盛大に暴言を浴びまくっているので、流石に少し可哀想に思える。
「まぁ確かにフレナちゃんの言う通り、こうして考え込んでいたところで何も変わらないわね。……よし、まずは塔を目指すことにしましょう。もしかしたら向かう途中で何か見つけられるかも知れないし」
「でも外に出ようにも、民間人達が集まってて中々カオスなことになってるぞ? 一歩外に足を踏み出そうもんなら、たちまち民間人たちに飲み込まれる未来しか見えんのだが……」
パニックを起こしている人間は、何をするのか予想がつかない。それに、あんな光景をまた見たくはない。
「――それなら、地下通路を使った方がいいかも知れません。あとすみません、もうそろそろ降ろしてもらえますか?」
いつの間にかビズーはテオニアの腕の中で目を覚ましていたようで、気まずい顔に少しニヤつきが見える。女性に抱えられているということもそうだが、おそらくビズーの顔の側面に彼女の胸が押しつけられているからであろう。当の彼女は全くもって気にしていなさそうであるが……いや、気づいてないだけかもしれない。
正直言って、ビズーのことが羨ましい。
「あら、うっかりしてたわ」
「ぐはぁっ!」
テオニアはビズーを小脇から無造作に落とした。
「それで、地下通路って何ですか?」
「……ベンザルには緊急連絡や物資運搬を目的として、地下に通路が張り巡らされているんです。塔まで繋がっている道は存在しないのですが、その近くまでなら行けると思います。戦兵団支部の中にも通路入り口がありますし、丁度いいかなと思いまして」
「なら、その通路を使った方が良さそうね。出来るだけ面倒ごとは避けたいし」
「じゃあみんな、さっさと行くわよ!」
「いや、フレナちゃんにはここでお留守しておいてもらおうかな」
「えぇ! 何でよ姉さん!」
「街の魔物をそのままにしておくわけにはいかないでしょ? だから、塔へ向かう組と魔物処理組とで2つに分けようと思うわ。塔へは私とトーナちゃんとミノルくん、あと案内係のビズーさんの4人で行くことにするから、他の人たちはここ周辺に残って魔物の処理をお願い」
「むぅ……しょうがないわね! こっちのことは任せていいわよ」
「でもテオニアちゃん大丈夫ぅ? 2人も守りながらでぇ」
確かにビズーが一緒だとテオニアの負担が――ん? 2人? 俺のことか?
「心配しなくても大丈夫! 護国隊副団長の実力舐めちゃだめよ」
「……俺って、そこまで足手纏いなのか?」
――せめて何か言って欲しい、無言は反応に困る。
というか、そんな俺を連れて行く理由は何だ?
「そんな事より、とりあえず出発しましょう! それで地下通路の入り口はどこなの?」
「――こっちだ」
いきなり建物の隅の方にいた戦兵団員がこちらへ近づいてきた。彼は、悔しそうな顔をしている。この状況で何もできず、護国隊に任せるしかないのが余程堪えるのだろうか。
「それじゃあみんな、そっちのことは任せたわよ」
「テオニア殿も十分に気をつけるように」
「えぇ、ちゃんと気をつけます」
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戦兵団員に連れられ、建物の地下へと連れられた。
地下へ潜ると人2人分程の幅の通路が広がっていた。明かりが灯っているが、火ではなく、魔法か何かのようである。
「……正直言って護国隊に頼りたくはないが、俺らじゃ力不足なのはわかってる。あの怪物にすら手も足も出なかった……。この街のこと、あんたらに任せた。よろしく頼む」
戦兵団員は苦い顔をしながらも、こちらへ頼み込んできた。
「えぇ、わかったわ。でもあなた達もやるべきことはやるのよ? 人に頼んでばっかりじゃダメよ?」
「あぁ、そんなことは言われなくたってわかってるさ」
そう言って、階段を登っていった。
「ではここからは私が先導していきます。ついてきてください」
ビズーを先頭に、歩き始めた。
ここで先程から疑問だったことを聞いてみることにした。
「テオニアさん、さっきの話なんですけど、何であんなすぐに俺のところに駆けつけられたんですか? あとトーナも」
「それはねぇ、私には『見えてたから』だよ」
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「師匠、そろそろ行きましょうか」
「あぁ、シリウス。日頃の訓練の成果を見せてもらう」
「はぁ……と言っても気乗りしないわ。パニックを起こしてる民間人が何してくるかわかったもんじゃないもの」
「私は後方で支援に回りますねぇ。魔物の魔法耐性が高いようなので、どこまで通用するかわかりませんがぁ」
フレナ達は準備を整えて、建物の外へ出た。そして外を見渡した。
「…………少し遅すぎたわね」
「これは……酷いね」
柵の外は静寂に包まれていた。




