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第一章 1話 『突然現れた不審者』

 

「異世界かぁ……」


 『異世界転移』そんなことがあり得るのだろうか――とはいっても実際に目の前の状況を踏まえると、そう認めるしかないようだ。

 バットに殴られ死んだ結果『異世界転生』をしたという線も考えたが、この世界に来る前に痛みは感じなかったし、赤子に生まれ変わったというわけでもないのでその線は一旦置いておく。

 しかし何と言うか、不思議と不安は湧いてこない。

 異世界系の漫画やラノベを愛読し、常に異世界に憧れを抱いていた俺にとって、今の状況は不安よりも興奮が勝ってしまうのだ。


「はぁ――…… 疲れた……」

 

 さっきまで凶器を持った奴らから逃げ回っていたのだ。無理もない。

 幸い転移した先は、戦場や人のいない荒れ地……などということはなく、人の多く行き交う街の噴水がある広場のような場所だった。

 ひとまず状況整理のために噴水の周りにあったベンチに腰掛ける。


「……にしても俺が異世界に飛ばされた理由は何だ? 特に神様とか女神様にどうこう言われたとかいうわけでもないしな……」


 俺の読んできた大体の異世界系の話は、何かしら理由があって異世界に飛ばされる場合が多いように感じる。神様的な存在が主人公の前に現れたり、天から声を届けるなどして能力を授けたり、何かしらのお告げをする、というのがお約束だと思うのだが。

 生憎、そのような存在に出会っていなければ、声すら聞いていない。


「ここで考えてもどうしようもないな……」


 自分に与えられた使命については一旦置いておいて、この世界で生きる上でとても重要なこと――


「言葉が通じるかどうか……か」


 こればっかりはこの場で試してみるしかない。

 

「通りすがりの人に声をかけてみるか」


 当たり障りのない会話を心がける。


「こんにちは! 今日もいい天気で――」


「適当なこと言ってんじゃないわよこのクズ! この私にナンパなんて100年早いわ!!!」


「…………」


 目の前のを通った、ドーナツらしきものの入った紙袋を抱えた紫髪のツインテール少女に話をかけてみたのだが――


「棘ありすぎだろ、どうなってんだよ……」


 心に傷を負ったが、今のやり取りのおかげでこの世界の人に言葉が通じることがわかった。

 やはり、何をしようにも言葉が通じなければどうしようもない。言葉が通じるということがわかったのはとても喜ばしいことである。

 

「言葉の次は文字だな」


 どんなに人と会話することができたとしても、文字が読めないのはこの世界で生きていく上で致命的なことであろう。

 この世界の文字を読むことができるのかどうかを確かめるために、目の前にある八百屋の看板を覗いてみる。


「おっ! 読めるぞ!」


 読めるというより、情報が頭に流れ込んでくると言ったほうが正しいだろうか。

 文字自体は全く見たことがない形をしている。ハングルとアルファベットが合わさったような感じだ。

 読みは大丈夫だとわかったが、書きはどうだろうか。

 試しに自分の腕を指でなぞり、簡単な単語を思い浮かべ書いてみる。

 すると面白いことに不思議と指が動き、しっかりと文字をなぞり、単語を刻んだ。

 

「そういうところは親切なんだな」


 ひとまずこの世界で生きる上で、人とのコミュニケーションで困ることは無さそうだ。

 あと他に確かめるべきことは――


「今の持ち物確認しておくか」


 元々コンビニへ行く途中だったので、まともなものは持っていなかった。

 今持っているのは、満充電のスマホ、千円札2枚と百円玉1枚と五円玉1枚、厨二の心を揺さぶる真ん中に宝石をはめたような見た目のキーホルダーと家の鍵。

 しかしスマホはもちろん圏外であり、お金もこの世界では使うことはできないだろう。そして家に帰れる見込みもないから鍵などあっても意味がない。


「役に立ちそうなものは無いな…… はぁ……」


 溜息しかでない。

 こうなることが分かっていればもう少しマシなものを持ち歩いたのだが……


「あとは特殊能力とかか?」


 もはや異世界系のお約束である、特殊能力。

 何かしらそういうものを授かったのではないかと思うのだが、先程も言った通りこの世界に来る前に神様とかそういうものに遭遇したり、天からの声を聞いたりなどした記憶はない。


「はぁぁぁぁっーー!!!」


 とりあえず力を込めてみる。何か力に目覚めるかもしれない。


「ぐぬぬぬぬうぅ…………!!!」


「おい! そこのお前!」


「何をしている! 何でこんなところで魔力を練っている!!!」


 白い隊服に身を包んだ白髪で、顔の整った30代ほどに見える男性が、顔をしかめて俺に何か注意をしているようだ。

 彼はいわゆるモブなどではなく、ネームドの雰囲気を放っている。

 いかにも強キャラという感じであり、敵に回してはいけない相手なのだと本能で感じる。

 すぐに両手を上げ、敵意がないことを示す。


「すみません、悪気はなかったんですぅ……」


「お前! 今すぐにその魔力をどうにかするんだ!」


「はぇ?」


「そんなこと言われても……」


 魔力をどうにかしろと言われても、魔力を練っていた自覚もないのだ。どうすることもできな――


「ぐへぇっ!」


「確保!! 抵抗するなよ!!」


 白い隊服の男がいきなり俺の後ろに回り込み、腕の関節を極めてきた。

 動けない……

 



 彼、セツダ・ミノルはこの世界に来て1時間もせずに、不審者扱いされ、連行されるのであった。





 







 

8/4 会話の軽微な修正

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