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第二章 5話 『Let's go to ベンザル! 前半』


 この世界に来てから二ヶ月ほど経ち、この護国隊の仕事も慣れてきた。仕事と言っても、王都や城周辺の警備くらいなもので、特段忙しい訳では無い。なので訓練に勤しんだり、図書室などでこの世界に関する知識を取り込んでいる。

 

 訓練は主に、シリウスに剣術、フレナに格闘術、イングリットさんに魔法を見てもらっている。あとはその他隊員との試合をするなどしている。隊員たちは最初、俺のことを煙たがっている感じもあったが、日が経つにつれ、段々と受け入れてくれたようになった気がする。訓練に関してはロベルトに色々面倒を見てもらおうとも思ったのだが、ここ最近忙しそうにしており、そんなことを頼める雰囲気ではなかった。


「ミノル君の剣捌き、大分良くなってきたね」


「はぁ、はぁっ、それはどうもっ――ぐぁっ!!」


 シリウスが隙間をぬって、木刀で俺の頭に一発入れてきた。


「隙ありだよ。やっぱまだまだそこのところは甘いね」


「容赦なさすぎるんだよっ!」


 個人的には、フレナのような戦い方をメインにしようと思っていたのだが、ロベルトにバランスよくできた方が良いとのことで、剣術も学ぶことになった。

 ちなみに、ロベルトを除いて本部に常駐している隊員の中ではシリウスが一番の剣の使い手らしい。


「ねぇっ! そろそろ私と組手の時間よ……って、何寝てるのよ!」


「ちょっとだけ待ってくれ……」


 フレナとの訓練についてだが、訓練とはいっても、ひたすら組み手をするだけなのだが……


「うぉりゃ!」


「ぐぼぁっ!!」


 フレナに一発入れられたことにより、空へ投げ出された。

 アニメや漫画でよくそういう場面が描かれるが、そのたびに心の何処かでそんなわけがあるか! と思っていた。思っていたのだが……


「うわぁぁぁっ!!!――――」


 地面が揺れ、そして凹んだ。皆の知っているヤ◯チャのあの場面のようだが。実際は、目も当てられない光景である。

 

 そしてすぐに、呆れた様子でイングリットが走ってきた。


「またですかぁ? フレナちゃん! 治すの大変なんですからねぇ!?」


「ちゃんと手加減したわよ! こんな攻撃すら避けられないコイツが悪いわ!」


「あらぁ、ミノル君。前よりも怪我の程度が軽くなってますよぉ。耐久力が増してますねぇ」


「…………」


 ミノルは意識がない。当然数十メートルの高さから落ちたので、重症である。アニメとかではモザイクがかかるようなくらいの凄惨な現場だ。

 イングリットが手慣れた様子で、ミノルに生態魔法で蘇生をかけた。


「はぁっ! はぁっはぁ……。またか……」


 毎回イングリットに蘇生されているが、実質毎回死んで生き返っているようなものであり、いい気はしない。


「ミノル君、次は私との訓練の時間ですよぉ」


「あと少しだけ寝かせてくれ……、心身が持たない……」


 最後にイングリットとの訓練だが、何だかんだで大変である。


「ぐあぁぁぁぁっっ!!! うぅっ! うあぁぁぁっ!!」


「頑張って我慢してくださいねぇ? あと体内の魔素の流れに集中してくださいねぇ?」


 何をしているのかというと、イングリット曰く、元素魔法や概念魔法などを扱うにあたって体内の魔素を操作できるようにならないといけないのだが、それは並大抵の努力でできるものではなく、しかも時間がかかるものらしい。なので短期間にそれらができるようになるため、イングリットの生体魔法で俺の体内魔素を無理やりぶん回して、感覚を掴ませるという方法を取っているらしい。

 

 これに関しては、いくら体験しても慣れない。フレナとの訓練の時の方が怪我は酷いのだが、辛さは一瞬である。しかしイングリットのこれは、耐えようのない気持ち悪さと苦しみが永遠と続くのだ。


「はぁ、はぁっ。 やっと終わったか……」


「ほらミノル君? 感覚が消えないうちに試してみましょうねぇ?」


「すぅ――……。はっ!」


 ミノルの目の前に小さな五角形の透明なプレートが出てきた。

 そしてイングリットがそのプレートに魔法を放ち、プレートに当たった魔法は霧散した。


「あらぁ、前よりも防御魔法の精度が上がってますねぇ。さすが未来の英雄とでも言いましょうか、戦いで出されたら、さすがの私でも簡単には破れないと思いますぅ。まぁ、安定して出せないのが欠点ですがねぇ」


 定期的に魔素を回してもらっているお陰で、魔法も放ちやすくなっている。

 イングリットによると、この魔素回しの効果はもって一週間ほどらしく、安定して魔法を放てるようになるにはもう少し頑張る必要があるらしい。

 

 今はイングリットの指導の賜物で、概念魔法の防御魔法(心もとなし)が使えるようになり、ロベルトとの特訓で手に入れた技(インパクトパンチと命名することにする)の精度が上がった。一見強くなったように見えるのだが、心もとないガードでひたすら近接攻撃を仕掛けてくる脳筋プレイしかできないのである。

 まぁ今のところは平和なので、ゆっくりと鍛えていこうと思――


「イングリットとミノル〜、あとフレナとシリウス。セシメア様がお呼びだ」


 ロベルトが気だるげに歩きながら、俺らに招集をかけてきた。

 何故かは分からないが、とてつもなく嫌な予感がする。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 セシメアに呼び出された一行は、王の間に集まった。てっきりあの場にいた者だけかと思っていたが、トーナも呼び出されたようだ。正直彼女との面識はあまりないのである。と言うものの、常日頃図書館に籠もっており、勉強のために図書館へ行っても、俯いてずっと本を読んでいるため、言葉を交わしたり、目線を合わせることすらできない。

 

 皆は横一列に跪き、目の前の玉座にはセシメアが座っている。しっかりと顔を合わせたのはあの時以来だが、やはりこういう場では雰囲気が違う。

 セシメアの隣には、城内でも何度か見かけたことのある執事のような老人がいる。年齢の割にガタイがよく、強そうなおじというような感じである。


「皆集まったわね? ではヴェルディス、説明をお願い」


 ヴェルディスと呼ばれたその老人が前に出てきて、説明を始めた。


「商都ベンザルで、原因不明の失踪事件が相次いで起こっており、現地に駐在している戦兵団員との連絡も途絶えてしまったのだ。そこで明日から、君たちが現地に赴き、調査と原因解明に努めてもらいたいのです」

 

「護国隊員の中でも優秀であるあなた達なら、なんてことない任務だと思います。期待していますよ」


 セシメアは、ニッコリと微笑んだ。そしてこちらに一瞬、期待の眼差しを向けてこられたような気がした。もしそうだったのだとしたら、過大評価しすぎである。そもそも護国隊に入ってたかが二ヶ月ほどなのである。新入りには荷が重すぎる……が、それもこれも自分が適当なことを言ってしまったのが原因であるので、何も言うことができない。


「ここ最近の動向から、帝国が関係している可能性がないとは言い切れません。もしそうだったとしたら、得体の知れない小細工を多々仕掛けてくるような奴らです。心して任務に臨むように」


「あとは、もしもの事があるかもしれないから、現地に強力な助っ人を向かわせました。大丈夫だとは思いますが、皆怪我しないように気をつけてくださいね」


「では皆明日へ向けて準備をしてください。それでは解散!」


 解散の号令がヴェルディスによってかけられ、皆部屋から出た。

 

 ふと窓の外を見ると、もう夕方である。出発は明日ということなので、急いで準備をしなければ。といっても、やはり不安である。護国隊に入ってから初めての遠方での任務だからということもあるが、内容が内容である。一般人以外にも戦兵団員も犠牲になっている時点で、俺自身もかなり危ないのである。

 だがしかしこうなってしまったものは仕方がないので、最善を尽くすしかない。

 でも不安とは別に、商都という響きにワクワクしている自分もいる。この世界に来てまだ王都以外の街に出たことがないので、他の街がどうなっているとか気になる。それに強力な助っ人とは誰なのだろうか。


 ミノルはさまざまな気持ちを抱きながらも素早く準備を済ませ、明日からの任務に備えるため、早めに布団へと入った。

 


 


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