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第二章 2話 『虎と狼とおっさん』


「戦兵団の団長と武装隊の隊長が……?」


 戦兵団と武装隊と言えば、護国隊と仲が悪いとか何とかロベルトが言っていたような気がする。

 そんな組織のトップがなんでいきなり来るのだろうか。


「まぁ、今回の一件に関する事でな。結果的にどうにかなったものの、一歩間違っていたら王を失いかねなかった、というくらいには大きな出来事だったからな。それに今回の件は帝国が絡んでいそうだから、各組織で警戒体制やら何やらの見直しとかの話し合いしようって事で集合を掛けたんだ」


「なるほどな」


 確かに言われてみれば、城に複数人の不審者の侵入を許し、王の元まで行かせてしまったというのは、あってはならない事だろう。それに帝国と言えば、王国との関係も良いと言えたものでは無さそうである。ロベルトに尋問されていた時も、帝国に関して警戒しているようだった。

 今回の一件で警戒を強めるのは、至極真っ当な事だろう。


「あっ、もう来ましたよ」


 シリウスがそう言い、振り返って見ると、一台の馬車がこちらの目の前で止まった。

 そして扉が開き、中から女性が出てきた。

 その女性は、知性的な雰囲気を感じさせ、目鼻立ちが整っている。しかしそれに反し、髪は燃え上がるような赤色で、毛羽立っている。そして目は黄金色で、瞳孔が猫のように縦長、まるで猛獣である。

 そんな彼女はミノルたちの前に立ち、頭を下げた。


「不審者の侵入を許してしまった挙げ句、セシメア様を危険に晒すまで不審者達を捕り捕まえる事ができなかった。我が戦兵団の怠惰を詫びよう、すまなかった」


 彼女の物言い的に、彼女が戦兵団の団長なのだろう。

 ロベルトと違い、カリスマ性のようなものを雰囲気で感じる。


「まぁ今回はしょうがない、ブランカ。結果的にはどうにかなったんだから、今後このような事が起こらないように気をつければいいさ」


 ロベルトの顔を見ると、至極どうでも良さそうな顔をして、鼻を掻いている。

 彼自身、過ぎた事はもうどうでもいいのだろう。


「甘い……甘いぞロベルトぉ」


「!!!」


 ミノルが驚いて周りを見渡す。するといきなり上から、大男が降ってきた。

 その男は、狼狽のような髪をしており、犬歯が尖っていて特徴的、まるで狼のようである。そして彼の目元には隈ができており、全体的にダルそうな雰囲気を出している。何処となくロベルトを彷彿とさせるようなおじさん臭がするような気がする。


「シリウス……こいつは誰何だ? どうして空から降ってきたんだ?」


 小声で、隣にいるシリウスに聞いた。


「武装隊の隊長だよ、ヴァンダルさんって言う人。ヴァンダルさんは馬車が嫌いだから、多分走ってきたんだよ」


「走ってきたのに何で空から……って、考えるだけ無駄か……」



「ロベルトぉ、こうやって甘やかすからぁ、こういう事が起きんだよ。というか今回の件でセシメア様が危険に晒されたのは、半分お前のせいでもあるだろぉ」


「あぁ? 俺のせいだってか?」


「聞いた話によると今回の事件が起きた時ぃ、お前は現場に居なかったらしいなぁ。まぁまだそれは良しとしよう。しかしだなぁ、お前は駆けつけても、部下に状況処理をさせ続けたぁ。お前がさっさと処理すれば良いものを、無くても良い危険にセシメア様を晒したぁ。そこんとこどう責任を取るんだぁ?」


「結果的にどうにかなったんだからいいだろ。というか、侵入を許したっていう事で言えば武装隊も戦兵団と同罪だろ?」


「はぁ? 俺等の管轄外から侵入したんだよ! どうしろってんだよぉ」


「ヴァンダルさん! 隊長! とりあえず、中に入りましょうよ……」


 ロベルトとおそらく武装隊の隊長であろうヴァンダルという男がひたすら言い合っており、シリウスが頭を悩ませている。そして、ブランカと呼ばれていた彼女は未だに頭を下げたまま微動だにしない。

 そのような状態が10分程続いた。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 シリウスが2人を宥めた後、とりあえず会議室で話そうということになった。

 俺は部屋へ戻ろうとしたが、ロベルトに止められ、一緒に会議室へ向かった。


 トップの3人は席につき、俺とシリウスはロベルトの後ろに立つような形になった。


「でぇ? 何を話そうってんだ? ロベルトぉ」


 ヴァンダルはダルそうにしながら聞いた。


「今後の警備強化についてだ。まぁ、俺は考えるのは苦手だから。ブランカ! 任せた!」


「ふんっ! 何でもかんでも私に押し付けようとするな。まぁしょうがないからちゃんとやるがな」


 ブランカは溜息をつきながら、承諾した。見た感じこうなることは分かっていたのだろう。彼女はすぐさま地図を取り出し、机の上に広げた。

 するとヴァンダルは不満げな態度を示した。


「まぁた偉そうな態度とってんなぁ。ちゃんと今回の件に対して責任を感じてんのかぁ?」


 するとブランカは、ぽかんとした顔をして少し首を傾げた。


「さっき謝っただろう? その件についてはもう終わった話じゃないか?」


「…………はぁ、やっぱ俺はあんたらが嫌いだぁ……」


 ヴァンダルは頭を抑え、天を仰いだ。


「気を取り直してまず、今回生け捕りにした侵入者についてだが、口を割らないが侵入経路からして帝国絡みではないかと睨んでいる。あと一応情報としては、侵入者には皆『聖紋』みたいなもんがあったな。おそらく全員防御系の『聖能』だ」


「聖紋みたいなもんってぇ聖紋じゃねぇのかぁ?」


「いや、聖紋で間違いないんだろうが……何というか、何かが違うんだよな。言葉にしようとすると難しいが」


「はぁ……そんな説明じゃあわかんねぇなぁ。にしても、全員聖紋持ちだぁ? そんなのを捨て駒みてぇに使う意図が見えねぇなぁ」


「まぁ、今話したことも踏まえ、今後の警備体制について話そう。まず、現在の国境沿いの警備の拡充だな。戦兵団と武装隊の合同警備を帝国側の国境に取り付けて、尚且つ動員数を1.5倍に拡充する」


「その拡充分の兵力はどこから持ってくるんだ? 現状で兵力はカツカツだろ?」


「それに関しては、連邦国側の警備を削る。今現在連邦国との関係は良好、連邦国側との国境警備は現状必要ではない。今は帝国の警戒の方が重要だ」


「まぁ、それに関しては俺も賛成だぜぇ。武装隊と戦兵団が合同で動くってのは、正直気に入らねぇが、今はそんな事言ってられないからなぁ」


「じゃあ俺も賛成で」


 相変わらずうちの隊長は、適当である。他の隊長達と見比べると余計にである。


「あと国内警備を護国隊には強化してほしい、特に王都周辺をな。その為に、戦兵団と武装隊に合流している護国隊員達を一部送り返そう」


「おぉ、それはありがたい。人手に関しては全然足りてないからな。地方に派遣している隊員達も一部王都に招集をかけよう」


「とりあえず警備強化についてはこんな感じだ。何か異議はあるか?」


「「異議なし!」」


 さっきから見ていて思うのは、このおじさん2人の息がピッタリなのである。

 本当は仲が良いのではなかろうか。


「あとこれは私の提案なのだが、定期的に合同訓練を行わないか? 今回の件で、団員達の実力不足が浮き彫りになったからな」


「まぁ必要だとは思うがぁ、気が進まんなぁ。あんま馴れ合いたいとは思わねぇ」


「俺は賛成だな。うちの隊員は実力があっても、実戦経験が少ない奴が多いからな。いい刺激になるだろう」


「じゃあ決まりだな。私からはこれで以上だ」


「じゃあこれでお開きかぁ?」


「ちょっと待った、お前たちに紹介したい奴がいる。うちの期待の新星! 未来の英雄ミノル君だぁ」


「はぇ?」


 ロベルトがこちらに手をひらつかせて、アピールしている。

 そして2人はポカンとした顔でこちらを見ている。


「あぁ? これが噂の奴かぁ? 滅茶苦茶弱そうじゃねぇか」


「ふむ……想像以上に、なんとも言えないな」


 2人の反応がムカつく。彼らの言っている事は、紛れもない事実だがそんな事は関係ない。

 できるだけ平静を装って、口を開く。


「ふん! あんたらは見る目がない、そう思うならそう思ってりゃいいさ! 俺がちょっと本気を出せば、あんたらなんかけちょんけちょんだ!」


 また、言わなくても良いことを言ってしまった。

 言ったそばから後悔したが、今更すぎる。


「良い心意気だぞ! ミノル」


 ロベルトの笑い声だけが、部屋の中に響く。

 空気が冷たい。この場から早く逃げたい。


「はん、口だけは達者みたいだなぁ。じゃあ証明してもらおうじゃねぇかぁ」


「……証明?」


「口だけでは無いのだと、私達に見せてもらおう。今度の王国競技大会でな」


「王国競技大会……?」


「じゃあ楽しみにしてるぜぇ、英雄?」


「せいぜい頑張る事だな。ミノル君?」


 2人は俺の肩を叩いて、扉から出ていった。

 扉が閉まり、力が抜ける。そして天井を見た。


「これは……終わった…………」



 




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