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第一章 10話 『我、護国隊隊員なり』


「これは……かなりまずいわねぇ」


 そう言うと、髪を素早く束ね、拳を構えた。

 そして生体魔法を自分に向けて掛け、肉体を強化した。

 生体魔法で自身の肉体を強化したイングリットは、パワーだけで言うと、フレナに負けず劣らずである。

 ちなみに肉体強化に関しては、他人に対し生体魔法で行うことは基本的にはできない。自分の身体を理解しているのは、やはり自分自身。自分以外の人間を生体魔法によって強化するのは、至難の技である。


「うぉぉりゃあ!」


 イングリットは男に攻撃を仕掛ける。

 しかし、男には一切攻撃が当たっていない。


「攻撃にキレはあるが……当たらなきゃ意味ないよな?」


 そう言い、男がイングリットを殴り飛ばす。

 苦悶の表情を浮かべるが、すぐさま傷を治し、立ち上がって構える。


「物分かりの悪い女だな!」


「仮にも護国隊の一員! セシメア様に手出しはさせない!!!」


 イングリットは男に飛びかかった。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 侵入者たちと戦っている3人は、同じ事を思い始めていた。


「「「堅すぎる……!」」」


 3人は護国隊の中でも上位の実力を持っており、相手が余程強い存在でない限り、戦いで手こずる事など無いのだ。

 ひたすら攻撃を打ち込み続けているが、一向に倒れる気配がない。

 だからと言って、自分たちが倒されるほど、相手の実力は高くない。あまりにも違和感が凄い。


「これはどういうカラクリなんだ? 明らかにおかしい」


 シリウスがそう呟く。

 すると男がニヤリと笑い、口を開いた。


「力……とだけ言っておこうか。そんな攻撃では、俺は倒せない」


 何度か攻撃は男の身体に届いているが、ダメージを負っている様子は無い。

 しかし男の言い方的に、受けきれる攻撃の大きさには限度があるのだろう。


「そんな攻撃、か……。ではこちらも本気を出そう」


 そう言うとシリウスは剣を頭上に構え、詠唱を始める。


「――清き水から生まれし聖なる女神よ! 我に力を与え給え!」


「!!!」


 シリウスがそう唱えると、剣が水色に光り始めた。その姿はまるで、剣が水を纏っているようである。

 彼は数少ない精霊剣士の1人であり、複数の精霊と契約を結んでいる。

 まだ未熟な所はあるが、将来性だけで言ったら、護国隊内でもトップレベルだろう。


「いざ! 覚悟!」


「そ、そんな攻撃で、俺がやられるわけない……!」


 男の額から汗が流れ、顔を引き攣らせている。


「はぁぁぁっ!」


 シリウスは、剣を構え、相手に斬り掛かった。


「ぐあぁぁぁぁっっ!!!」


 シリウスの攻撃は、男に直撃し、力無く地面に倒れた。

 敵を撃破した彼は一旦一息つき、周りを見渡す。

 トーナとフレナはまだ激しい戦闘を続けている……という感じではなく、一方的に蹂躙している。

 しかし、倒し切る事はできていないようで、ひたすら敵はうめき声を上げながら耐えている。


「いい加減しつこいわね! さっさとくたばりなさい!」


「俺はまだやられてねぇ、勝負は終わってねぇ! へぶしっ!!」


「うるさいわね!」



「あなた……容赦ないわねっ!」


「さっさと消え失せろ!」



「さて、どうしたものかな……」

 

 シリウスがそう呟いたその時、何かが高速で飛んできて、城の窓を突き破っていった。

 それと同時に、突風がシリウスを襲った。


「何だ!」

 

「安心しろ、俺だ」


「!!」


 シリウスが振り返ると、そこにはロベルトが立っていた。


「早かったですね、てっきりもう少し掛かるものかと」


「直線の最短ルートを駆け抜けて来たからな。にしても、俺が出る幕も無かったな」


「いやいや、敵が異様に堅くてトーナさんもフレナもまだ仕留めきれていないですからね。団長にどうにかしてもらわないと……ってイングリットさんはどこだ? あとさっきの飛んでいたものは?」


「イングリットが手こずっているようだったから、少し助っ人を向かわせた」


「?」


 するといきなり、城の中から爆発音が響いた。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



「速、すぎ、る!」


 ロベルトの背中に乗る、ミノルがそう叫んだ。

 道なき道を突っ切って、尚且つ息ができない程のスピードで走っている。


「もうすぐ城だが……おっとあれは? ……よしミノル、イングリットがピンチだ。俺が投げ飛ばしてやるから、助けてやってこい」


「投げ、飛ばす!? ちょっと待――」


 その瞬間、ロベルトはミノルを片手で持ち上げ、槍投げのように城めがけて投げ飛ばした。


「うわぁぁぁ!!!」


 すぐさま窓ガラスを突き破り、中へと転がった。

 怪我は無さそうだが、痛みは感じる。普通に考えたら怪我をしそうなものだが、この世界に来て俺の身体はやはりおかしくなっているようだ。


「痛たた……扱いが雑すぎる」


「ぐはぁっ……!」


 いきなりミノルの横に、何かが飛んできて壁にぶつかった。

 振り向くとそこには、血を吐いたイングリットが転がっていた。


「イングリットさん!」


 慌ててイングリットに駆け寄る。

 息はあるが、かなり怪我が酷い。


「おいそこを退け、ガキんちょ。 さっさと家に帰んな、お前みたいのが出る幕じゃねぇ」


「ミノ……ル君……、セシメア……様を…………」


 そう言われ周囲を見渡すと、部屋の隅にうずくまるセシメアがいた。

 とても怯えた顔をしており、以前見た時とは全く雰囲気が違う。今の彼女は、子どものようになすすべもなく、頭を抱えて縮こまっている。


「聞いてるのか? 雑魚に用はねぇ。はっ、お前はそこの女より雑魚そうだな――」


「……」


 段々と怒りが湧いてくる。

 血に塗れるイングリット、怯えるセシメア、ひたすら罵倒してくる目の前の男、そして無力な俺自身。

 この世界に来てから、嘘をついて、誤魔化してしかしない。何一つ役に立てていない。

 むしろ邪魔をしているかもしれない。もし、ロベルトがここを離れていなければ、彼女が血に塗れる事など無かったのではないだろうか。

 いや、今になってそんな事を考えてもしょうがない。

 嘘だとしても、天命を受け英雄となる男、それが俺。実現して見せる、嘘で終わらせない!

 

「――俺は! 護国隊隊員、セツダ・ミノル! 神より天命を賜り、英雄となる男!」


「はっ! いきなり何を言い出すかと思えば……笑わせるな!」


 ミノルは床を踏み込み、男へ飛びかかった。


「っ!」


 男は慌てて避けようとする。

 ミノルはロベルトとの特訓を思い出し、あの時の感覚を呼び覚ます。

 ロベルトでさえ危険を感じ、咄嗟に手が出たあの攻撃。


「うおぉぉれぇ!」


 ミノルの攻撃は、見事に男の顔面にクリーンヒットし、当たった途端に吹き飛んで、部屋の壁をへこませた。男に意識は無いようだ、失神したのだろう。


「はぁ、はぁ……。これ……俺がやったのか?」



「何事だ……って、ミノル君!? 君っ、無事かい? __これは……君がやったのか?」


 シリウスが慌てて部屋の中に入ってきた。

 そして、部屋の様子を見るや否や、信じられないといった表情を浮かべている。


「イングリットさん! 大丈夫ですか! あとセシメア様もご無事ですか!!」


 シリウスが慌てて、2人へ駆け寄る。


「ミノル君、イングリットさんを運ぶのを手伝って――」


「あれ……?」


 ミノルの目の前がブラックアウトし、彼は気を失って床に倒れ込んだ。


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