第一章 9話 『只今、戦闘中』
「いけぇぇぇ!!!」
渾身の攻撃を繰り出す。
すると――
「ぐふっ……!」
ロベルトの腕が伸び、俺の胸ぐらを掴んで、俺の動きを止めた。
いきなりの衝撃で、一瞬息が止まった。
「おっと、すまん。でも、やっと当たったな」
確認すると、俺の拳はかすかにだが、ロベルトの身体に触れていた。
「……というか、バリバリ手を出してきてるじゃねぇかよ」
「いやぁ、あのまま当たっていたら、さすがの俺でもちょっと危なかったんでな。咄嗟に身体が動いてしまった、すまなかったな。にしても、無駄に攻撃の威力はあるよな。威力だけで言ったら、隊内で上から数えた方が早いくらいかもな。まぁ、その他の面ではまだまだだが……」
「とりあえずそんな事は良いから早く離してくれ……」
「おお、忘れてた」
そう言い、ロベルトは俺から手を離した。
そして一息つき気が緩んだ途端、疲労の波が襲ってきた。立っていられず、地面に横たわる。
今思えば、ここ数日まともに睡眠を取っていなかった。
「うーん、攻撃の面ではかなりマシになったとは思うが、予想より時間が掛かったせいで、防御だったり回避だったりについてはしっかりと教えてやれそうにないな。まぁミノルは頑丈だしある程度の攻撃では死なないとは思うが……って、寝てるな」
ミノルはぐっすりと寝付き、次の日まで起きなかった
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――王国・城壁内――
「ひとまず、隊員は街の周りに配置したよ。僕達は、城壁内の警備だね」
「はむはむっ、そうね、はむはむ」
「さすがに、朝から職務中に食べるのはやめたらどうだい? フレナ」
「私にとっては食べることも、はむはむっ、仕事の内よ!」
「はぁ、トーナさんもイングリットさんも何か言ってやってくださいよ……」
「チッ、落ち着いて本を読んですらいられん」
「まぁ、食べることは健康に良いですからねぇ」
「はぁ……」
城の入口前を、シリウス、フレナ、トーナ、イングリットの4人が警備する。
その他の隊員は街や場内に散らし、警戒を強めている。
フレナはドーナツを頬張り、トーナはブツブツと不満を垂らすなど、全く緊張感が無い。
「少しは気を張ろう。不審者の捜索をしていた戦兵団の一個分隊が壊滅させられた。不審者集団は僕達が思っているより、手練れかもしれないんだから」
「そんな奴ら、あたしの拳でけちょんけちょんよ!」
「頼もしいのやら頼もしくないのやら……」
「にしてもここ最近、帝国の動きが全くと言っていいほど無かったからな。多少の不安はあったのだが、まさかこうもあっさりと王国内に侵入されるとはな……」
「帝国にとっては、王国は東に領土を広げる上で邪魔な存在。そして、正式な王が不在の今、王国を崩すには絶好の機会でしょうからねぇ。何か仕掛けてきても何ら不思議ではないですよねぇ。それにしても何の前触れもなくこんなことを起こすのは少し違和感がありますが……」
そうやって話していると突然、突風と共に何かが襲い掛かりフレナが吹き飛ばされ、植木に突っ込んだ。
「フレナっ!!!」
シリウスがフレナに視線を移した。その瞬間、シリウスにも何かが襲いかかって来たが、すかさずトーナが防御魔法を展開し、攻撃を防いだ。
「!!!」
シリウスが振り返るとそこには、黒いローブを身に纏う男が2人、女が1人いた。
「あなた達が、噂の侵入者さん達ですかぁ? 帝国の差し金ですかねぇ?」
イングリットがそう問うと、ローブを纏った奴らはニヤリと笑い。そのうちの1人が口を開いた。
「名乗りはせん。貴様らなどに用は無い、そこをどけ!」
「どくわけ無いでしょう! この先には行かせない!」
シリウス達がそれぞれ、戦闘態勢に入る。
「あんた達……よくもやってくれたわね! ドーナツがダメになっちゃったじゃない!!!」
そう言い、フレナは3人の内、筋骨隆々の1人に襲いかかった。
そうして戦いの火蓋は切られた。
「――――隊長……!」
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「……!」
「どうしたんだ? ロベルト」
ミノルとロベルトは、のんびりと朝ご飯を食べている最中だった。
「どうやら城の方でひと悶着起きているようだ、急いで城へ戻るぞ!」
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
「今そんな事はどうでもいい。非常事態につき、お前を背負って、俺が全力で城まで走る」
そう言い、ミノルを担ぎ上げ背中へ乗せた。
「ちょっと待てって、状況が全く掴めな――」
「振り落とされないようにしっかり掴まっていろ!」
ロベルトは途端に砂埃を立てて、消えた。
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「うぉぉりゃあ!」
フレナが筋骨隆々の男と肉弾戦を繰り広げている。
お互いに一歩も引かぬ攻防が展開されている。
「僕達も行くぞ!」
そう言いシリウスは剣を抜いた。
そして、目の前の男も剣を抜き、構える。
「……いざ参るぞ」
「ここは通さない!」
お互いに勢いよく踏み込み、剣がぶつかりあった。
こちらも一歩も引かない攻防を繰り広げる。
「あなた、退いてくださらない?」
「はぁ……貴様らのせいで、静かに本を読むこともできん」
トーナは魔法を展開し、電撃を相手の女に浴びせた。
「穏やかではありませんわね」
女が防御魔法を展開し、トーナの攻撃を防いだ。
「あぁ? 誰のせいだと思っているんだ?」
そうして、トーナと女の魔法戦も始まった。
お互いに魔法を放っては防いでを繰り返している。
「私は、セシメア様の所に行くわねぇ!」
イングリットはセシメアの安全を確保するため、城の中の王の間へと急いだ。
階段を駆け上がり、王の間の前へとたどり着くと、目の前には兵士が血を流して倒れていた。
「これは……!」
急いで王の間へと入る。
すると、黒いローブの男が護国隊員と戦っていた。いや、戦うというにはあまりにも一方的すぎる。隊員は男に掴まれ、ひたすら顔を殴打されている。顔はほとんど原型をとどめておらず、そこから表情は読み取ることはできない。
その周りにも、見るも無残な姿の隊員の亡骸が転がっている。欠損のしかたから見るに、恐らく敵は物理攻撃が主体なのだろう。
「…………コポッ______」
殴打されていた隊員が完全に動かなくなった、恐らく死んだのだろう。しかし死んだとしても、直後であれば生体魔法で蘇生できるかもしれない。少しでも早く、相手を倒さなければ____
「ひっ……… イっイングリット! 助けっ、助けて!」
「!! セシメア様ぁ! ご無事ですか!!!」
イングリットがそう叫ぶと、男が振り返った。
「……雑魚が」
男がそう言うと、一瞬でイングリットに飛びかかり、殴り飛ばした。
「かはッッッ!!!」
イングリットが口から血を吐き、床に転がる。しかし、瞬時に自分の傷を魔法で治し、素早く立ち上がった。そして、男に生体魔法で攻撃しようとした。だがしかし――
「くっ! 効かないっ!」
男に魔法が発動しなかった。
魔法を使うような相手なら、耐性があることも理解できるが、こんな物理攻撃を行ってくるような男に耐性があるとは思えなかった。
「はっ! 魔法は効かねぇぜ? 俺には力があるからな!」
「これは……かなりまずいわねぇ」
そう言うと、髪を素早く束ねた。
そして、イングリットは拳を構えた。