04 新しい物語の始動 再会と予測不能な出来事(2)
「さあ、君も服を乾かそう。すぐそこに山小屋がある。暖炉の暖かさで服などすぐに乾く」
皇太子はずぶ濡れのもう一人の令嬢と私に、山小屋の方角を指さしてみせた。
ここは皇太子がお気に入りの秘密の泉。
夏はよくここで一人で泳ぐらしい。
冬でもよくこのあたりを散歩するらしい。
前回、ジェニファー・メッツロイトンが、ブレッチダービー公爵とヒュームデヴォン伯爵から指示された皇太子と出会う場は、この秘密の泉だった。
前回、私は夫の前に妖精のように現れて、冬の泉に落ちて、助け出され、凍え死にそうになった二人は近くの山小屋で暖を取って距離を縮める計画だった。
その彼らの目論見は前回は成功した。私はこの美しいアンドレア皇太子に結果的に見初められたのだから。
今日は、おそらく山小屋には薪がたんまりと積まれていて、食料も用意されているに違いない。ブレッチダービー公爵、ヒュームデヴォン伯爵は謀に関しては抜かりないはずだ。
私は美しい男に指差された方に、ガタガタ震えながらついて行った。彼はもう一人の令嬢にガウンをかけてあげて、私には自分の腕を巻きつけてくっついて歩こうとしてくれた。
ガウンの方が暖がとれる気がするのは、気のせいだろうか。
くっつかれた方が、物理的な距離より精神的な距離が近い気がするのは、気のせいだろうか。
私は吐く息も白い中で、歩き続けた。
雪はとけかかってきてはいるが、私たちがしたことは自殺行為だ。
薪の用意がなかったら、ここでまた私は逝ってしまう。
だが、私は子供たちに会えるまでは絶対に死ねない。
私は自分を強く奮い立たせようとした。
美しい男は身震いする私の体をギュッと腕で抱きしめて、「死ぬなよ」とだけ声でささやいた。
この美しい男は、そういう人だ。
前にも私はこの男に同じ事を言われた。
長いまつ毛が瞳を縁取り、真っ直ぐな鼻筋の下には決意を固めたような唇がある。褐色の髪はかきあげられ、射るような透き通った瞳が、真っ直ぐに前を見ている。グレーのようなグリーンのようなブルーのような瞳。背の高い、この美しい男は私と恋に落ちて、3人の子をなして、私を冷たく捨てた男。
彼の唇からは、私が想像もしない言葉が漏れた。
「もっとくっついて。君は死ぬな」
ジェニファー・メッツロイトンは、この日、かつての夫であった美しいアンドレア皇太子に再会したのだ。新しい物語が再び始まろうとしていた。




