捨てられる
ヴィクトリア女王がイングランドを率いて繁栄を遂げているのを横目で眺めつつも、その繁栄に憧れを抱いて追いかけようとするヴィーラの国で、私の物語は進んでいる。ヴィーラはザックリードハルトとパリの間にある大国だ。
皇太子妃の私は、3人の幼な子を抱きしめて、必死に涙を堪えていた。唇が震えてうまく話せない。
「みんな、この家を出て行かなくちゃならないの」
「なんで?ママ?パパはご一緒?」
一番上のウィルが私に聞いた。私は目をつぶって、涙を堪えてから、無理やり笑顔を作ってウィルの髪を優しく撫でた。
本当に愛おしい子たち。
あなたのパパは一緒には行かないのよ。
「パパは来ないけど、大丈夫よ、ウィル」
私はぎゅーっとウィルを抱きしめた。
「パパはあとから来るの?」
そうよ。
私は声に出さずにうなずいた。
パパは来ないから。
美しい顔に冷たい眼差しの夫は、先ほど私に子供たちを連れて宮殿を出ていくようにと命じた。
「君と離縁する。子供たちも連れて行くように。他に好きな人ができたから、君とは暮らせない」
私は震える手で荷物をまとめた。
侍女たちには言えない。誰かに言うと、子供たちの前で絶対に泣いてしまうから。
私はジェニファー・メッツロイトン。
18歳の没落令嬢から皇太子妃になり、男子3人を産んだ後に夫に捨てられた23歳。
子供たち3人を連れて、私は皇太子妃の座を降りることにした。
それでも幸せな未来を選択できる、その時まではまだ思っていた。