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異世界アーティシズム  作者: 凛々サイ
1章 アートの可能性
13/51

1章 13.肖像画を見てみた。

 あれから3日が過ぎた。ラフ画が描き込まれ、黒鉛でのデッサン状態が続いた。サンダリアンは始終拳を天に突き上げ、ハイパワーポーズでこのクリスの自宅まで通っていた。そして荒々しい剣士ポーズのまま、長時間そのポージングを維持していた。かなりの忍耐力の持ち主だ。色んな意味で。


 クリスは集中を切らしたくないと言い、ほとんど休憩をとらず、睡眠時間を削ってまで、サンダリアンの肖像画へ没頭していた。そしてその肖像画に全てを支配されているのかのように、彼はいつもより口数が極端に少なく、話し掛けてもほとんど上の空状態が続いた。


 今日も朝から画廊部屋へサンダリアンとこもっている。クリスいわく、完成間近とのことだった。


 ベッドの傍にある窓から外を見入ると、とっくに光が消えていた。もう外は暗く、闇に包まれている。近くのテーブルにあったオイルランプに火を灯した。辺りがオレンジ色の暖かな光に筒まれこの狭い部屋を照らし出した。


 私は彼らが画廊部屋へいる間、部屋の掃除をしたり片付けや洗濯など、家事を一通り行っていた。時折、二人の話声が隣からぼそぼそと聞こえてはいたが、特に何もなく時間は過ぎて行った。今日はもう切り上げたほうがいいだろう。ほとんど休憩もせず続けている二人へ、さすがに声を掛けようかと思っていた矢先だった。


 画廊部屋のドアが開いた。


「出来ましたっ……!!」


 目の前には今にも崩れ落ちそうなクリスがいた。黒鉛や絵の具で身体中を汚し、やつれ切った姿だ。サンダリアンはそのすぐ後ろで「彼、すごいっす!!」と言いながらまた頭上に拳を突き上げ、ハイパワーポーズをしていた。


「クリス、よくやったな!!」


 よろけるクリスの身体を支えるように、抱き止めた。まるでひと試合終わったボクサーのようだ。


「み、見てくださいっ……」


 クリスが絵の具だらけの震える指で指し示した先には《《ソレ》》があった。


「なんだこれはっ……!」


「ね! レイさん、すごいっすよね!?」


 目の前にあるものはネイチル・サンダリアンの肖像画、のはずだ。だがかなり違った。《《あるもの》》が。


「一体どういうことだ、クリス……、これはまさか……」


「そのまさかですよ、レイさん……」


 彼は一瞬ふっと笑い、がくんと意識を失った。


「おい、クリス……? クリスっ、クリスーーーー!!」


 私はクリスの両肩を掴みブルンブルンと振った。彼の顔は天井を向き、目を閉じたままだ。意識は戻らない。


「ちょっ、レイさん、寝てるだけっす! 落ち着いてっす!」


 サンダリアンが慌てて私の腕を握り、静止してきた。


「寝てるだけ……?」


「そうっす! クリス君、さっきまでめちゃくちゃ集中してたんすよ。ほんとすごかったすよ。最初から最後まで集中を切らさずに描き上げたんすよ」


「そうか……。そうなのか……。すまない。あのベッドに寝かせてもらえるか?」


「うっす」


 サンダリアンがクリスをひょいとお姫様のように抱き合上げて、そっとベッドへ寝かせてくれた。私としたことがスーパー取り乱してしまった。てっきりクリスの魂があのか細い身体から抜け出てしまったのかと思ってしまった。なぜならあのような作品をこのたった数日で通しで描いたのだから。


 ベッドに寝かされた彼の寝顔を覗くと、それはとてもとても安らかな寝顔だった。自らの力を全てを出し切った顔だ。


「クリス、えらいぞ……」


 オイルランプに照らされた彼のさらりとした金色の輝く髪をそっと撫でると、クリスは少しだけ微笑んだ気がした。


「レイさん、絵も完成したし、俺は家に帰るっす。明日の朝またここに来るっす。クリス君にお礼も言いたいっすから」


「ああ、分かった。今日は疲れただろう。ゆっくり休んでまた明日会おう」 


 サンダリアンが帰宅した後、私はオイルランプを持ち、隣の画廊部屋へそっと足を運んだ。そしてクリスがつい先ほど完成させたネイチル・サンダリアンの肖像画に光を当て、改めてじっくりと見つめた。


「やはり同じだ……」


 アート界の天地をひっくり返すきっかけとなった、あの巨匠の作品と。



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