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異世界アーティシズム  作者: 凛々サイ
1章 アートの可能性
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1章 12.デッサンを開始してみた。

 完璧すぎる私のプレゼンが終了した後、甲冑を身に着けていなかったサンダリアンは一度帰宅した。彼の肖像画には甲冑を着た姿を描く必要があったためだ。彼がいなくなった後、僅かばかりの遅い昼食をクリスに用意してもらった。一時すると、奇抜になってしまった男が甲冑を身に付け、この家へ戻って来た。


「おお、その髪型に銀の甲冑! なかなか様になってるな!!」


「俺、さっき街歩いてたらすれ違う人みんな2度見するんよ!! しかもこそこそ俺の話してるぽいんす! こんなに注目浴びた事ないっす! 嬉しすぎるっす……!!」


「まだ泣くのは早いぞ、嬉し涙は最後に取っておけ」


 腕で目をぬぐい、感極まって泣きそうなサンダリアンにそう言ったら、隣のクリスはなぜか酷く理解し難い顔になっていた。


 さぁ、いよいよデッサン開始だ。先程、サンダリアンにはどのようなポーズを取るのか、クリスにはどのような絵を求めているのか伝えたばかりだ。躍動感のある力強い剣士の絵。背景は炎に包まれた火山だ。


「そういえばずっと疑問だったんですが、そもそもさっきのプレゼンって内容を実行する前にやるものじゃないんですか?」


 クリスがこの小さな画廊部屋で絵を描く準備をしながら、またごもっともなことを突っ込んできた。


「細かいことは気にするな」


「ええ~」


「ほら、サンダリアンは喜んでいるじゃないか」

 

 二人で見た先には、部屋の隅でまた手鏡を握りしめ、ずっと己の髪型を眺めているニコニコサンダリアンの姿がそこにはあった。

 

「そうですけど……」


 不満そうにぶつぶつ言いながらも、空いたスぺ―スに年季の入った木製イーゼルを手慣れた手つきで用意し、10号サイズ程のキャンバスを乗せた。


「サイズは10号で行きます。このサイズなら小さすぎず大きすぎずで記憶石も読み込みやすいでしょうから」


 この世界が地球認識で同じだとしたら10号とは530ミリ×455ミリのサイズだ。あまり大きなキャンバスだと材料代も多くかかってくるので、これぐらいが丁度いいかもしれない。


「材料代もかかるのに申し訳ないな。だがこの借りは必ず君へ返す。必ず君の才能を皆に知ってもらう。なぜなら私はそれを強く望んでいるからだ! パトロンとして!!」


「わ、分かりましたって……! そんなに意気込ん言われたら恥ずかしいんで!!」


 クリスはイーゼルに隠れる様に身を小さくし答えた。


「照れてるのか? 可愛いな」


「照れてません!! ああ、もう描きますよ!」


 恥ずかしいとさっき言ってたじゃないか。恥ずかしいとは照れていると同義だろう。言ってる事がめちゃくちゃだな。やはり天才とはこういう者を指すのかもしれない。


「こんなポーズでいいっすか?」


 サンダリアンがいつの間にか、先程私から指示された通りにポーズを決めながら問う。彼の背後には小窓があり、逆光という位置づけの場所だった。そんな小さな窓際の前で、グローブをはめた両手で剣を力強く持ち、そのまま右後ろにぐっと腕を引き、身体は中腰にして今にも飛びついていきそうな勢いのあるポージングだ。銀色の甲冑姿にプラスアルファーで、普段付けていないであろう深紅のマントを着けさせた。


「ああ、そんな感じだ。先程も伝えたようにこのイラストは躍動感を描き、剣士ならではの強さと荒々しさ、そして先程伝えたテーマ『光と影』からその2つを表現する。いわゆるギャップという意外性だ」


「意外性すか?」


 サンダリアンが荒々しいポーズのまま、不思議そうに尋ねた。


「ああ、サンダリアン、君には光と影が備わっている。そこをはっきりとあの貴婦人へ現すんだ。女性は意外性のある男性にだいたい弱い。いや男女ともそう言えるだろう。普段とは違う側面がちらりと見えた時、そこに尊さを感じるんだ。一見サンダリアンは光の側面が強く見える。表面的には明るく愉快な要素が強いんだ。そこでだ。影なる謎めいた冷静かつ高潔な部分を貴婦人にチラリと見せてみろ。もうそれだけでゾッコンとなるはずだ! これこそがチラリズム戦法だ!」


「チラリズム戦法……」


「はい! リピートアフタミー」


「チラリズム戦法……!!」


「もう一度だ、リピ……」


「もう二人ともやめてください!!」


 クリスに怒られた。私はもう黙っておこう。サンダリアンは見るからに足腰をやられてしまいそうなポーズをずっと保ちながら、軽やかに『チラリズム戦法』と言い続けていた。さすが戦士だ。心も強い。まさしくハートの剣士だ。


「さぁ、忙しくなってきたぞ! まずはクリス、君にしか出来ないことを表現するんだ! このキャンバスに思いっきり君への思いをブチ当てろ!!」


「……はい!」


 右手に鉛筆を握りしめたかと思うと、ふっとクリスの青い瞳が一気に研ぎ澄まされ、周囲の空気までもが変わった。サンダリアンを何度も見ながら右手を動かし、手慣れた手つきで黒鉛でデッサンをしていく。かなり集中しているようだ。いわゆるゾーンに入っている状態だろう。


 彼の集中の様を邪魔したくなく、私は求めている構図などを軽く説明した後、その一筋の光が差し込む部屋から退出した。



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