今後のあれこれ
魔王のワイン煮は思っていた以上に美味しかったようで、精霊達が本当に美味しそうに食べてくれて……そして精霊達は食べすぎたことにより、ぷっくりと腹を膨らませ動けなくなってしまった。
仕方ないので自分のコタに戻り、精霊用にとアーリヒ達が作ってくれたクッションの上でしばらく休憩させてやることにし……俺とアーリヒも食後のまったりとした時間を過ごすことにした。
そうして……どれくらいか、ある程度休憩した所で、寝返りを打ったシェフィが口を開く。
『そう言えばヴィトー、ポイントの使い道を今から考えておくと良いよ……。
魔王討伐と北部の浄化でかなりのポイントをあげられるはずだからね……うっぷ。
ただ魔王に使ったアレとかはもう駄目だよ、アレは特例中の特例……反則対策の反則みたいなものだからね……けっぷ』
「……未だにその様子ってどれだけ食べすぎたのさ。
そしてポイントかぁ……今までの感じから予測すると、5万とかそれ以上のポイントがもらえそうだねぇ。
使い道……使い道、いつものように皆のための消耗品とか、ビスカ用の筆記用具とかになるのかなぁ。
それ以外となると……何が必要なんだろうなぁ」
と、俺が返すとシェフィではなくアーリヒが言葉を返してくる。
「それならヴィトー、皆のために精霊様の槍や盾を作ってくれませんか?
北部の浄化が終わってヴィトー達が他の地域に向かうようになっても、北部での狩りは続けますし、いざという時は村を守る必要もありますから」
「ああ、それは良いかもねぇ……いざという時の備えは必要だし、予備にもなるだろうし槍と盾をいくらか作っておこうか。
……あとは何だろうな……これから春になって地面がぬかるむこともあるだろうから、防水ブーツとか? それと防水ポンチョみたいなのもあれば、雨の日でも困らないかもしれないね」
「防水ブーツにポンチョ? それは一体どんなものなんです?」
と、そう問われて俺は、なんとなくのイメージをアーリヒに伝えていく。
この辺りは基本的に季節は二種類、春と冬、それだけだ。
夏と冬と表現する人もいるけど……ようするに雪が降っているのか、そうじゃないのかに分かれている。
そして春になれば当然、降り積もった雪が溶ける訳で……辺り一帯が雪解け水でぬかるむことになる。
その雪解け水が流れを作り、植物を育て川を作り出し……多種多様な動物達がやってきて、冬からは想像も出来ない程に豊かな大地が出来上がっていく。
そんな春になったら当然、誰もがその到来を喜ぶもの……と、思いたくなるが、そうではなく冬の方を好んでいる人もかなりの数、いるのが現実だ。
春になって気温が上がれば色々な虫も湧いてくるし、冬にはかからなかった病気にもかかることになる。
ぬかるみで靴が汚れて、かなりの良い出来の靴でも中に泥水が入り込んだりして……単純に気持ち悪いのもあるけど、それが病気に繋がることもあったりする。
当然村の中やコタの中も汚れがちになるし、獣も泥まみれになっていたりするし……暖かい代わりに、それ相応の面倒さもあるのが春という訳だ。
雪ならいくら降ってきても気にならないという人も、雨を嫌がることは多く……あちらの世界で作れられている上等な、軍用の防水ブーツやポンチョがあれば、その辺りのことがかなり楽になる……はずだ。
「向こうの世界の上等なブーツなら、よほどのことがなければ水が入ってこないのはもちろんで、歩きやすいし滑ったりしにくいし、つま先に鉄板が入っているのもあるから、いざという時の怪我も防げる。
ポンチョは……まぁ、ただのマントに近いものだけど、マントより薄くて軽くて、負担にならない素材で出来ている、かな。
槍や盾を持ちながらでも使いやすいはずだから、作る価値はあると思うよ。
……あとは虫刺されの薬とか? ああ、虫よけ線香とかも良いかもねぇ。
ここらの蚊はかゆみが物凄いからなぁ……防げるに越したことはないよね」
と、俺がそんなことを言った瞬間、アーリヒが物凄い勢いで近付いてきて、物凄い勢いで声を上げてくる。
「蚊の対策が出来るんですか!?
ぐ、具体的にはどんな対策があるんです!? あ、もちろん薬も欲しいですね、特に子供達には使ってあげたいのです。
かゆみを我慢出来ずにかいてしまって、肌が荒れる子も多いですから……!!」
その勢いは物凄かった。
本当にこの辺りの蚊のかゆみは尋常ではなく、日本とは全くの別物……本当に蚊なのか疑いたくなる程のものだった。
それを防げるとなれば食いつくなのは当然なのだけど……アーリヒらしいと言うか何と言うか……やっぱり子供のことを一番に考えているようだ。
「あ、ああ、うん。
えっと……俺の世界での蚊の対策というと1番ポピュラーなのがそれ用の線香かなぁ。
火で焚くお香みたいなもので、虫が嫌う植物の成分を固めて作ってあるんだよね。
あとは……蚊帳かな、蚊が通り抜けられないけど空気や風が通る薄手の布で、寝具全体を覆っちゃうって代物なんだけど……この村の場合はコタの中全体を覆えば良いのかな?
ああ、いや、焚き火の排気の問題もあるから、やっぱり寝る時に吊り下げて使う形が一番なのかなぁ。
薬も……まぁ、色々あるよ、塗り薬に飲み薬……まぁ、塗り薬が一般的かな。
他にもスプレー……体に振りかけるものもあったんだけど、そこまで行くとシェフィが作ってくれるかはなんとも言えないねぇ。
ただまぁ、線香と蚊帳くらいなら低ポイントでもいけるんじゃないかな?」
「なら、ぜひ! ぜひそれらを作ってください!
あ、ブーツなどの装備もお願いします!
……他にもそうですね、春になると皮膚病などが増えますのでその辺りの薬や予防になる何かもあればお願いしたいです」
「皮膚病、かぁ……。
俺は医者じゃなかったから詳しくはないけど……うん、以前作った薬用石鹸を使うのと……洗濯かな、こまめに着替えと洗濯をするのと、それと栄養かな、しっかり栄養取るために……多分、果物とか食べたら良いんじゃないかな。
あとは漢方か、皮膚病に効くのもあったはずだけど……塗り薬とかになると漢方ってより、西洋医学の薬になるのかなぁ。
まぁ、そこら辺はシェフィと相談しながら……かな。
でもまぁ、きっと駄目とは言わないはずだから、回復したら早速相談してみるよ」
と、そう言ってからシェフィ達を見やる。
シェフィ達は未だにクッションの上で転がっていて……まだまだ回復には遠そうだ。
一休みして腹具合が落ち着いて、それでようやく話が出来そうな感じで……そういう訳で俺達はまたしばらくの間、まったりとした時間を楽しむのだった。
お読み頂きありがとうございました。
彼らのあれこれまで出来なかったので改めて次回に!