秘密兵器
崖に衝突し、ダメージを受けたのかふらつく魔王に向けて、俺達は崖上からの攻撃を行う。
俺は猟銃で、ユーラとサープは投槍で。
確度的に投槍器を使うのは難しいようで、普通に投げてはいるが、それでもしっかり刺さっていて……目を潰され、槍の柵に突っ込み、更に何本もの槍を投げつけられ、銃弾を叩き込まれ……かなりのダメージを受けているはずだが、ふらつきながらも、しっかりと二本の脚で立つ魔王が倒れる様子はない。
それどころかジワジワと負った傷を謎の力で回復させていて……そうやって状況を立て直し、反撃の機会を伺っているようだ。
流石に刺さった槍が自然に抜けたりはしないようだが、銃弾を受けた傷や、当たりはしたが刺さらず弾かれた槍による切り傷はどんどん治っていて……そのうち潰された目も回復してしまうのだろう。
……こんな化け物どうやったら倒せるんだろうか?
こうやって生きているということは、以前使った毒はもう効かないのだろう……槍は体のあちこちを貫通していて、内臓もかなり傷つけているはずだが、それでも死ぬ様子はなく……そうなると回復されるのを覚悟で、魔王の体力が尽き果てるまで今やっている攻撃を繰り返し続けるか、それか全く別の手段で今までにないダメージを与えた方が良さそうだ。
……崖の上から岩でも落としてみようか? いや、それで倒せるとはとても……そんな都合の良い岩が簡単に見つかるとは思えないし、岩は自然物、工房で作ってもらうことは出来ない。
なら……鉄塊でも作ってもらおうか? しかしダメージを与える程の重量となるとかなりのポイントを請求されそうだしなぁ……。
いっそ猟銃以外の武器を作ってもらうとか……?
ただ猟銃でもかなりのポイント消費だ、あまり高度なものはそもそものポイントが足りなくなるだろう。
現状でさえ、槍を大量生産したりしてかなりの消費をしてしまっているし……作るとしたら出来るだけ消費の少ないものが良いだろう。
……猟銃より威力に期待出来て、単純な構造のもの? そんなもの、存在するのだろうか……?
一つ思いつくものがあるけども、あれはかなり複雑な構造っぽいし……いや、あれならどうなるんだろう?
そう考えた俺は、銃撃を繰り返すととんでもない熱を持ってしまう銃身を冷やすという意味も込めて一旦銃撃を停止してから口を開く。
「シェフィ、古い形式でも良いから手榴弾、またはダイナマイト爆薬って工房で作れるかな?」
思いついた物をそのまま言葉にすると、俺の頭に張り付いて状況を見守っていたシェフィが頭から降り、俺の目の前に浮かんできて……いつになく真剣な表情でこちらを見やり、言葉を返してくる。
『そりゃぁまぁね、弾丸を作ってあげている以上、当然の発想だとは思うけどね……また凄い物を思いついちゃったもんだね。
……うぅん、どちらも厳しいかなぁと思うよ、一応皆に相談してみるけども』
「まぁ……ダイナマイトに関しては発明者が後悔する程の代物だったからね、無理は承知の上さ。
……無理を承知で言うなら、これからも何があっても魔王や同じくらいにヤバい魔獣にしか使わない、もし使わずに余ったらシェフィに返却するって条件でどうにか承諾して欲しいかな」
俺がそう返すとシェフィはこくりと頷いて、いつものモヤの向こう……工房のある世界へと飛んでいって……それを見送った俺は銃身が冷えていることを手で触って確認をし、ついでに随分と酷使した銃に異常がないかを確かめてから再装填をし、魔王へと狙いをつける。
そうして一発二発と撃っていると、シェフィが戻ってきて……そしてすぐに工房で作業を開始し始める。
作っているということは許可がもらえたらしく、かなりの量のポイントを使っているらしいそれは、段々とテレビなどでよく見た筒状の……ダイナマイト爆薬の形へと変化していく。
そして……作業を終わらせたシェフィはそれ二つを持ってこちらへと戻ってきて、俺へと差し出しながら口を開く。
『二つが限度、これで残りのポイントを全部使ったよ、作りとしては単純だけど……流石にコレはこうなっちゃうよね。
そして使って良いのは魔王か、魔王以上の魔獣にのみで、その許可はボクが下すことになったから、そのつもりで。
……という訳でほら、使って良いことになったんだから、魔王がふらついている間にさっさと使っちゃおう』
前半は重々しく、後半はいつものように明るく軽く。
そんなシェフィの言葉を受けて俺は、猟銃の安全装置を入れてから肩にかけ、ダイナマイト二つを受け取る。
油紙の筒に導火線に……直接触れることはもちろん、目にするのも初めてのそれを受け取った俺はゴクリと喉を鳴らしてから、グラディスから降り、一つを足元の雪の上にそっと差し置き……もう一つをユーラ、というかその頭上のドラーの方へと向けて差し出し、口を開く。
「ドラー、着火をお願いして良いかな。
それとユーラとサープは、グラディス達と一緒にここから離れてくれるかな?
ここまで爆発が及ぶことはないと思うんだけど……音と衝撃が凄いから、離れていた方が良いと思うんだ」
俺のそんな言葉を受けて、ユーラとサープは何が起こるんだと訝しがりながらも頷いてくれて、グラディスと共に崖から離れていってくれる。
そしてドラーは、
『おう、良いぜ、オラとしては嫌いじゃないからな、それ。
火の力をきっかけにばらまかれる力、解釈によってはそれも火の力と言えて、オラの領分、オラの力……それで魔王を倒せるってなら大歓迎だ!』
と、そう言ってからニッカリと笑って、それから導火線の先端に小さな火の玉を作り出しての着火をしてくれて、俺は導火線がある程度短くなるのを待ってから、ダイナマイトを崖下の魔王へと投げる……というか落とす。
その数秒後、凄まじいまでの衝撃と轟音が崖下から吹き上がってきて、思わず尻もちをついた俺は、もう一つのダイナマイトを拾い上げながら慎重に身を乗り出し、崖下の状況を確認する。
「……かなりのダメージを受けた様子だけど、普通に立っているし動いているな……マジか、ダイナマイトを耐えるか。
……よし、回復する前にもう一つもいっておこう」
と、俺がそんな言葉を口にすると、崖側に残ってくれたドラーがすぐに着火してくれて……数秒待ってから投下、今度はあらかじめ地面に伏せておいて、衝撃から逃げる。
そして爆発、轟音、衝撃……二個とも使い切ったのを見てかユーラ達が戻ってきて、声をかけてくる。
「まったくお前の世界はどうなってんだ? 銃も凄いが、今回のもヤバいな、ダイナマイトだったか? こんなにあったら簡単に魔獣が狩れちまうな」
「いや、威力が高すぎて普通の魔獣じゃ肉片も残らないッスよ……。
魔王は一発は耐えたみたいッスけど、流石に二発は―――」
と、そんなサープの言葉の途中、崖下から物凄い音……岩が固い何かに激しく削られるような音が聞こえてきて、その直後、崖をその四本の腕で掴み登っていたのか、崖下から物凄い勢いで魔王が姿を見せて、音に驚き数歩後ずさっていた俺達の目の前に立つ。
生きていた、ダイナマイト二発食らって魔王が生きていた。
……が、その毛皮はボロボロで、片目は完全に潰れていて、よく見てみれば四本の腕もボロボロで……以前のような力強さは感じられない、弱々しい姿となっていた。
弱々しいがおぞましさは健在で、圧倒的な迫力も放っていて……慌ててグラディスに乗った俺と、ユーラとサープはそれぞれの武器を構える。
そして、まずユーラとサープが突っ込む、ここが勝負と判断してか、投槍ではなく恵獣と協力しての騎乗突撃だ。
それを見て俺は念の為にと取り出した銃剣を装着してから、猟銃を構え狙いをつける。
俺も突撃しても良かったのだけど……いざという時、二人が逃げるためのフォロー役も必要だろう。
そう考えているうちにユーラとサープの突撃が成功し、恵獣の角と槍が魔王に突き刺さる。
「ガァァァァァァァァ!!」
毛皮がボロボロで、防御力といったら良いのか硬さといったら良いのか、とにかくそれが落ちているようで、今までとは違いかなりの量の血が吹き上がり、魔王の声も悲鳴に近いものとなっている。
それを見てユーラ達は槍を何度も突いて、このままの決着をと攻撃を繰り返すが、魔王はなんとか腕を振り回すことで二人のことを振り払う。
振り払うだけでなく鋭い爪での攻撃も繰り出し、それを避けるためにユーラ達が距離を取ると、その隙を狙っていたとばかりに駆け出して……俺へと狙いを定めて、凄まじい勢いでの突撃をしてくる。
それを受けて俺は……これで決着をつけてやると猟銃の引き金を、そっと引くのだった。
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