魔王と……
今の銃の威力は以前とは段違いだ。
威力も射程も上がっていて、命中したなら魔王であってもかなりのダメージが入る……はずだった。
発射された弾丸は狙い通りの所、魔王の喉にぶち当たる……が、毛皮を貫くことは出来ずに、毛皮の表面で砕け散る。
頭は頭蓋骨が、体は筋肉の鎧が弾丸を防ぎそうだからと、喉を狙ってみたのだけど、喉でもこの結果か……!
だからと言って諦める訳にもいかない、どうにか攻撃を通さなければと今度は顔を狙う。
目か鼻か口か、どこかに当たればそれなりのダメージになるはずと考えての二射目だったが、狙いが露骨過ぎたのか、上半身を傾けることで避けられてしまい……俺は内心で舌打ちしながら声を上げる。
「グラディス!」
瞬間、グラディスが駆け出して魔王と距離を取る形で移動し始め、それを見た魔王が四つ足となって駆けて猛追してくる。
揺れる背中の中で俺が装填をしているとグラディスは、あえて木々の隙間を縫うように駆けて、魔王を引き離そうとする……が、魔王は四つ足で駆けながら、肩甲骨の辺りから生えた足というか腕でもって邪魔な木を殴ってへし折りながら、追跡を続けてくる。
一体何のための四本腕かと思っていたが、まさか駆けながら攻撃するためのものとは……メチャクチャなことしやがるなぁ。
……そして敵の狙いもなんとなく分かってきた、以前の威力偵察で俺達の実力を確認し、ついでに勝てる相手だとこちらに教え込むことで、油断を誘うというか単独でも勝てるという判断を誘導し、俺が孤立する状況を作り出そうとしたのだろう。
俺だけが相手なら、腕を増やし体を大きくし……更におぞましくなった魔王の力でどうにか出来ると踏んだ訳だ。
いや、うん、実際どうにか出来てしまうかもしれない、銃弾が全く通じないとなると勝ち目がないも等しいのだが……だからといって諦める訳にもいかない、こんな化け物が村にたどり着いたらどんな惨状となるか分かったものではない……!
なんてことを考えながら銃弾を装填したなら、何度でも……何十度でも銃弾を打ち込んでやると銃床を肩に当て体をひねり……狙いを定める。
そうして俺は狂乱状態となってこちらに向かって駆けてくる魔王に、3発目4発目の銃弾を叩き込むのだった。
――――一方その頃、開けた一帯で ユーラ
「……ヴィトーのやつ、苦戦してるみてぇだな?」
20は超える数の魔獣の死体が転がる開けた一帯で、恵獣の背に乗りながらそう言って魔獣の体から槍を引き抜いたユーラは、視線を上げて耳を澄ます。
するとまた、かなりの遠方から銃声が聞こえてきて……山にぶつかったその音が弱々しく反響する。
「いつの間にか随分と離れちまったなぁ……狩りに夢中になりすぎたか。
あ、もしかして最初からそれが目的か? そういや変に逃げ腰だったような……。
……ああもう、くそったれ、護衛だってことを忘れてた訳じゃねぇが……甘くみてたな。
こっちは全滅させたし、すぐにでもヴィトーの元に向かわねぇと……」
そう言ってユーラは槍を振って血糊を飛ばし、それから手綱をしっかり握り相棒の恵獣ジャルアに駆けてくれと指示を出す。
と、その直後。
『ジャルア! 跳べ!!』
頭上に浮かんでいた炎の精霊ドラーからそんな声が上がり、ジャルアはユーラの指示よりそちらを優先したのか、数歩駆けてから地面を強く蹴って跳び上がり、その直後地面が割れる。
地面を覆っていた雪が弾け、周囲に飛び散り、次に土や石、地面を覆っていたコケが飛び散り……そして割れた地面から醜悪な姿をした魔獣が姿を見せる。
「なんだありゃぁ!? 口か!? 大きな口か!?」
跳ぶジャルアの背から真下を見たユーラがそんな声を上げる。
地面を割って姿を見せたそれは大きな口を持っていて……というか口だけを地面に突き出していて、大きく開けられた口の中には無数の牙が生えている。
あんなに鋭い牙があんな生え方をしていたら口を閉じた瞬間、口の中を傷つけてしまいそうなものだが、口魔獣は躊躇することなくばくんっと口を閉じ、宙を舞っていた土やら雪やらを咀嚼し始める。
そして口を閉じたことで魔獣の顔というか姿を視認するに至り……ユーラは目を丸くしながら悲鳴のような声を上げる。
「目がねぇ!? 鼻がねぇ!? 耳も何もねぇ!? 本当に口だけだ!? それになんだあの肌……み、ミミズか? ミミズの魔獣なのか!?
いや、ミミズにあんな口はねぇだろ!?」
誰に言った訳でもないそんな悲鳴が響き渡る中、地面に降り立ったジャルアは警戒心を顕にしながらミミズ魔獣を睨み……そんなジャルアの態度を受けてなのか、ミミズ魔獣はずるんっと体を引く形で地面に潜る。
「逃げた……訳じゃねぇよな、こっちはまだ攻撃も何もしてねぇし……」
と、ユーラがそんな声を上げていると先程ミミズ魔獣が潜った地点からユーラ達がいる地点へと雪が盛り上がり始め……それを見たユーラは、ミミズ魔獣が動いてそうなったんだと断定して、手にしていた槍を力強く投げ、地面に突き立てる。
が、土だけならましも雪にまで覆われていると、魔獣の体を傷つけるには至らなかったようで、移動する魔獣の体に弾かれた槍は、力なく雪の上に転がってしまう。
「ジャルア、逃げろ! ドラー、新しい槍をくれ!!」
ユーラのその声を受けてジャルアは駆け逃げ、ドラーはすぐさま工房を起動し、ユーラの声に応えてくれる。
そうしてジャルアは駆け続け、ドラーは槍を作り、槍を受け取ったユーラは槍を投げつけることでミミズ魔獣を攻撃しようとするが……攻撃だけが上手くいかない。
地面に突き立てるではせっかくの投槍器も活躍は出来ず、雪と土に阻まれるばかりでどうにもならない。
しかしどうにかしなければいけない、ジャルアの体力も武器を作るためのポイントも無限ではないのだから。
どうにかしなければとユーラは懸命に思考を巡らせるが……答えを得ることは出来ず、強く歯噛みし、顔色を悪くする。
「くそっ、くそっ、オレ様の頭じゃどうにもならねぇぞ!!」
そして悲鳴を上げながら、無駄と分かっていながらの攻撃を再度繰り出そうとしていると、そんなユーラ達の下へと恵獣スイネに跨ったサープが駆けてくる。
「どーせ、対策思いつかなくて困ってると思って助けに来たッスよ!!」
そう声を上げるサープだけでなく、懸命に駆けるスイネ、サープの頭に懸命にしがみつくウィニア……と、サープ達を追いかけているらしいミミズ魔獣がスイネが踏み固めた雪を盛り上げながらユーラの下へとやってきて……そのことに気付いたユーラは、サープに向かって大声を張り上げる。
「厄介な敵を増やしてくれやがって!!」
駆けるジャルアとスイネは、このままでは正面衝突になるという所で同時に直角に進路を曲げて並走する形に合流し……そして二頭となったミミズ魔獣に追われながら駆けて駆けて、駆け続ける。
「こっちでこれだ! 絶対ヴィトーのとこにもやばいやつが現れてんぞ! さっさとこのミミズ倒して合流しねぇと!!」
「任せてくださいッス! ちゃーんと倒し方は考えてあるッス! とりあえずこのまままっすぐ駆けていくッスよ!!」
駆ける恵獣の上でそんな会話をしたユーラとサープは、少しでも早くヴィトーと合流しようと気合を入れ直して手綱を握り、ジャルアとスイネに更に速く駆けるよう指示を出すのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続きとなります
そしてお知らせです
マンガUP!というアプリにて、書籍版が公開となりました!
序盤無料で……ポイントなどで続きが見れる形になるみたいです
書籍版をまだチェックしていないという方は、無料部分だけでもチェックしていただければ幸いです!






