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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第三章

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サープの……


 ユーラの婚約がほぼ本決まりとなり、ベアーテさんとの距離が一気に縮まった。


 このことはアーリヒを始めとした村の重役も喜んでくれたし、ユーラの家族も喜んでくれたし、ヴァークの皆さんも喜んでくれた。


 精霊達も恵獣達も、今村にいるほぼ全員が喜んでくれたのだけど……一人だけ複雑そうな表情をしていたのがサープだった。


 ユーラが婚約したこと自体は嬉しいし、めでたいと思っているし、祝福もするのだけど……自分だって、という思いがあって表情を複雑にしてしまうようだ。


 長い間、相棒というかコンビというか、一緒にやってきたユーラが先に婚約を決めたというのは、サープとしては色々と思うところがあるのだろう。


 しかもサープは今、ビスカさんという想い人がいる状態で……それがまた更に複雑さを増させているのだろうなぁ。


 友人としてはそんなサープに助言をしたい所だけど……うぅん、色恋に関しては経験不足だからなぁ、良い助言が思い当たらない。


 うぅん……ビスカさんの性格からして、積極的に誠実にいけば上手くいきそうではあるから、真っ直ぐ正直に気持ちを伝えたらそれで良い……はずだ。


 ライバルもいないしこれといった障害もない、あとは気持ちの問題だけ……のはずだ。


 相手が沼地出身であることは……まぁ、すっかり村に馴染んでいるから問題ないし、こちらの文化に敬意を示しているし、あとは当人同士の気持ちの問題だけの……はずだ。


 ……うん「はず」「はず」ばかりで、確定的なことが何も言えない。


 本当にまともな経験がないからなぁ……アーリヒとの関係も流れのまま、気付いたらそうなっていただけで、あれを経験に数えることは出来ないだろうしなぁ。


「……積極的に誠実にいけば、きっと上手くいくと思うよ」


 翌日の昼前、恵獣の世話やら家事やら、やるべきことを終えてのちょっとした空き時間、厩舎から村へと戻る道中で俺がそう声を上げると、サープはなんとも言えない顔をこちらに向けてくる。


 ユーラは今ベアーテさんと一緒にいて、サープとは二人きり……人の気配もなく、誰かに話を聞かれる心配もなく、本音で語り合えるタイミングだと思ってのことなのだけど、サープは突然のことに驚き、困惑しているようだ。


「いや……その、まぁ、そうしたい気持ちはあるんスけど……ほら、自分の気持ちだけでやって良いものかって気持ちがあるんスよ。

 ビスカさんだってまだこっちの生活に馴染んでない訳で……そこで積極的にいっても迷惑ってか、嫌だと思っても断れない空気になっちゃうかもってか、色々考えちゃうんスよ」


 そしてそんな言葉を返してきて……俺は大きく首を傾げる。


 ビスカさんがそんな殊勝なことを考えるだろうか?


 サウナを堪能し学問を堪能し、我が世の春が来たとばかりにはしゃぎまわっているあのビスカさんが。


 いつのまにかアーリヒと友達となり、当たり前のように一緒に過ごし、一緒にサウナに入ったり食事をしたり、時には同じコタに寝泊まりまでして……全力でここでの生活をエンジョイしている、あの彼女が。


 エンジョイ具合で言えば俺以上に楽しんでいるし、こっちの生活に馴染んでいる感じもあるし……あのメンタルの図太さは見習いたくなる程だ。


「いや、大丈夫じゃないかな、生活には馴染みきってるし、嫌なら嫌とはっきり言うだろうし……何も問題ないと思うよ。

 あとはサープの気持ちの問題じゃないかな」


「ん~~~、ヴィトーはまだまだ若いッスからねぇ、そこら辺の機微は分からないかもしれないッスねぇ」


 俺の言葉にサープはそう返し……スタスタと村の方へと歩いていく。


 いや、まぁ、確かにそういった経験はほぼ皆無だけども、精神年齢で言うならそれなりの年齢なんだけどなぁ……サープだってその辺りの事情は知っているはずなのだけど、ド忘れでもしてしまったのだろうか?


「……でも、そうやって何もしないでいると誰かに先を越されるかもよ?

 ビスカさんは可愛い人だし、外から来たっていう特別な魅力を持った刺激的な人でもある。

 サープの他に惹かれる人がいても不思議じゃないと思うよ」


 サープを追いかけながらの俺の言葉を受けて、サープは足を止めてこちらにゆっくりと振り返り……基本的な顔は笑顔ながら歯噛みし、頬を引きつらせ、いつになく複雑な表情を見せてくる。


「い、いやいや……まさかそんな……。

 だって村の皆は沼地のこと嫌ってる訳で……だからほら、ビスカさんへの印象だって良いとは思えないんスけど……?」


「確かに第一印象は良くなかったと思うけど、アレからずいぶん時間も経って、ビスカさんも村に馴染んだからねぇ……。

 精霊を敬いサウナを楽しみ、こちらの生活に馴染もうと日々努力している彼女を嫌う人は少ないんじゃないかな?

 村の大人達が一斉に入る、混浴サウナにも入っているみたいだし……裸の付き合いをした相手を嫌う人は少ないと思うよ」


 と、俺がそう言うとサープは先程以上の表情となって膝から崩れ落ちる。


 ……いやいや、何をそんなショックを受けているんだか。


 混浴サウナといっても、複数人……特に村の大人達が一斉に入るサウナに、変な意味はない。


 確かにお互い裸だが、いやらしい気分とかは一切なく……裸の付き合い、腹を割っての会話、お互い敬意を持って距離を詰めて、ぶっちゃけトークをすることで不和の種を摘む場所となっている。


 そういった場にビスカさんは積極的に参加し、村の大人達と交流することで自分の居場所を作っている……という訳だ。


 実際にはまだまだ恥ずかしさが残っているというか、混浴サウナに不慣れなこともあって、全裸ではなくタオルを巻いての入浴をしているらしいけども……それでも村の皆はそうやって努力をするビスカさんのことをしっかりと受け入れてくれているようだ。


 そこら辺の事情をアーリヒから聞いていた俺と違ってサープは、全裸での大人の交流をしていると勘違いしているようで、膝から崩れ落ちたまま動こうとしない。


 そんなことをしていれば服が溶けた雪で濡れるし、体温が奪われるしで良いことなんて何もないのだけど……それでも動こうとしない。


 そんなサープを見てしばらく考え込んだ俺は……これも良いきっかけにすべきかと歩み寄り、サープの肩にポンと手を置いてから語りかける。


「早く動かないと、サープ以外の誰かが混浴サウナ以上の関係になっちゃうかもよ」


 するとサープはこちらに物凄い、今までに見たことのない表情を向けてきて……それから物凄い勢いで立ち上がり、猛ダッシュでもって村へと駆けていくのだった。

 


お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続き、突撃サープです

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