試射
銃の改良が終わって翌日、早速試射をしてみようとなった。
村の外れに移動し、不必要となった木材……ボロボロになったものを的として用意し、それらを雪に突き立て距離を取って通常弾の装填を始める。
そんな試射の見学者はアーリヒと三精霊達で……丸太を横倒しにし、そこに並んで座ってこちらへ興味深げな視線を送ってきている。
その視線は中々緊張を煽るもので……なんとも言えない気分となりながら、まずは改良銃で通常弾を装填しての試射を試す。
ストックが大きくなり、銃身が長くなり……他にも色々やったらしい仕上がりはどんなものかと構えを取って狙いを定めてみると……なるほど、銃身上の中抜き板、リブの効果を実感することが出来る。
これが無かった頃は中に顔を近づけ、銃と一体になったような形で狙いをつけていたが、そこまで顔を近づけなくても照星と照門を覗くことが出来て……おかげで視野を広く持てる。
シェフィの説明通りこれなら多数の相手の時でも安心だなと、そんなことを考えながら引き金を引くと……いつも通りの音と衝撃ながら、物凄い勢いで弾が飛んでいき、的の板を粉々に砕いた上で、後方にあった枯れ木にぶち当たり、その幹をあっさりと砕く。
「……す、凄いことになったな、射程と威力が上がっているのか……。
それに反動も少なくなって……と、これはなんだ?」
まさかの威力に驚き、アーリヒが満面の笑みで拍手をし、精霊達が自慢げにふんぞり返る中、銃のことを改めて確認していると……ストックの下部に丸いボタンがあることに気付く。
大きく丸く……何故かシェフィの笑顔が書き込まれているそのボタンを、なんだこれと首を傾げながら押し込んでみると、直後ストックや先台といった銃の木材部分がまるで生き物のように蠢き、肩や腕に絡みついてくる。
「なんじゃぁこりゃぁぁ!?」
あまりのことにそんな悲鳴を上げながらもがいていると『あはははは!』と両手を叩きながら笑い声を上げたシェフィが声をかけてくる。
『それは片腕で撃つための仕掛けだよ!
ほら、手綱を持ったり盾を持ったり、片腕が塞がることが多かったでしょ? だから作っておいたんだ。
肩と腕に絡んで固定して……その分、片腕にかかる負担は物凄いけど、精霊の力で強化されたヴィトーならなんとかなるでしょ』
そう言われて絡みつく木材を受け入れることにし……木材が動きを止めたのを見計らって右腕を持ち上げてみると、猟銃も持ち上がり……ブレたりすることなく構えることも出来て、試しに引き金を引いてみればしっかりと撃つことも出来る。
片腕な分だけ狙いは今ひとつになるみたいだが……片腕で撃てるのだから仕方ないといった所だろうか。
何よりの欠点は見た目のアレさかな……まるで木材に取り込まれているというか、食べられている途中みたいじゃないか。
『もう一度ボタンを押せば元に戻るから!』
なんてシェフィの言葉を受けてもう一度ボタンを押してみると、またも木材が蠢き、元に戻り始め……元通りの銃の形になると一切蠢かなくなる。
「本当に精霊様のお力は凄いのですねぇ」
観客のアーリヒはそんな呑気な声を上げながら拍手を続けているが……うん、普通に怖いというかおぞましいと思うのは、俺だけなのだろうかなぁ。
……まぁ、便利なのは確かだから必要な時には使わせてもらうとしよう。
とりあえず次だ次、次は火の精霊ドラーが作ってくれた精霊弾丸を試す。
ドラーが言うには火の力が込められていて……一発1000ポイント、弾丸一発にしてはかなり高額だが、それだけの力が込められているらしい。
用意しておいた板を立て直したら、銃弾とは思えないというか、まるでオモチャのように真っ赤となっているそれを二発装填し……威力が高いとのことなので十分距離を取った上で、構えを取る。
そしていつものように発射すると、音と衝撃はいつもの通り、真っ赤な光が銃口から弾けて……板を破壊するのではなく普通に板に着弾し、そして一気に板とその周囲が炎に包まれる。
業火といって遜色ない勢いで、何がそうさせるのかごぉっと音まで鳴って……数秒後、ちょっと焦げたくらいでほぼほぼ無傷の木の板が、なんでもなかったように姿を見せる。
『おう、その炎は瘴気を燃料にする特別製でな、瘴気がないこの辺りじゃぁこんなもんだが、瘴気の濃い地域や、瘴気の塊である魔獣に打ち込んだならもっと違う結果になるぜ!
それでいて森や他の生き物を燃やすことのない特別な火で……火事とかの心配をする必要はねぇが、魔獣の体は灰になるまで焼いちまうんで肉とかは手に入らねぇだろうな。
だが必殺だ、魔獣相手なら必殺だ! 一撃必殺!! 良い響きだよな』
すぐさまドラーが説明をしてくれて……やっぱりアーリヒは凄い凄いと拍手をしている。
うぅむ……必殺の火炎弾か、厄介な敵相手には躊躇なく使っていきたいが……肉が手に入らないのは残念だな。
一応もう一発も撃ってみて……結果は同じ、二発連続で使ったからか、少しだけ周囲の雪が溶けたりもした。
そして最後は風の精霊ウィニアが作ってくれたアタッチメント。
不思議なガラスの筒を5本並べてベルトのようなもので縛って固定して……その底にU字の板をひっくり返して固定したと言うようなそれは……、
『銃の先台につけて使って……。
先台につけてシリンダーを押し込んで、あとは弾を発射したら効果を発揮するよ……。
シリンダーが5本なので5発まで使えて、使ったら力を込めるまで再使用はできないから。
力はあたしが込めるか……自然に回復させるか。
自然回復なら1日1本、あたしが込める場合は1本100ポイント……効果は射程が伸びる、かな』
と、ウィニアが説明してくれた通りの使い方をするらしい。
言われた通りそのアタッチメントの……U字の部分を中に張り付けてみると、ピタリと張り付き勝手に固定され、外に飛び出していたシリンダーの半分程がカシィンという音と共に埋め込まれる。
……これで装備完了ということなのだろうか、一応U字板についている固定用のネジを……蝶ネジと言われるようなネジを回して固定をしてから、通常弾を装填し、焦げた板から更に距離を取り……かなりしっかりめに距離を取ってから構えを取る。
先台にシリンダーがあるせいで少し持ちにくいが……まぁ、仕方ない、それでもどうにか狙いをつけて……それから言われた通りにシリンダーを押し込むと、シリンダーの先端……圧力鍋とかにある蒸気口のような所から蒸気が吹き出し、ヒィィィンという高音がし……数秒待つとそれが落ち着く。
この状態で撃てば良いのかなと引き金を引いてみると、銃弾よりも先に何かが銃口から吹き出したような感覚があり、直後弾丸が発射され……発射された弾丸は板をあっさり貫通し、その奥に……かなり遠方にある木さえも見事に貫く。
「んん!?」
その威力と貫通力にも驚いたが、何より驚いたのは命中した場所で……もしかしてと思うことがあった俺は、もう一度シリンダーを押し込んで引き金を引く。
すると思った通りの場所に命中し……その結果を見て俺は弾がまっすぐに飛んでいるという確信を得る。
通常弾丸は、空気抵抗などの関係でまっすぐ飛ばずに浮き上がり、それから高度を落としていくものなのだが、その気配が一切ない、ただただまっすぐ飛んでいる……ように見えた。
レベルアップで強化されている目には発射直後の銃弾が普段とは全く違う動きをしていたように見えていて……その結果がこれなのだろうか。
『風の精霊の力を込めたのだから当然だよ……。
空気に抵抗なんてさせる訳ないじゃん……まっすぐ狙った通りのとこに当たるよう、風の道を作るのがそのアタッチメントだよ』
俺の内心を読んだのかウィニアがそんなことを言ってきて……俺はなんともはやと唖然とする。
風の抵抗を受けずにまっすぐ飛ぶって……つまりそれは、何かに当たるまで弾丸が飛び続けるってことじゃないのか?
いや、それでも移動エネルギーは失われてどこかで落ちるのだろうか? 空気抵抗がないにしても重力はある訳で―――
『変なとこに飛んでいくようだったら、あたしの力で止めておくから大丈夫……。
どこまでも飛んでいって人や動物に当たるなんてことはないよ、精霊の力だからね……』
するとまたウィニアがそう言ってきて……それを受けて俺はそれ以上考えることを止める。
うん、凄い、精霊の力凄い、とても便利。
バカみたいな考え方だが多分これで良いのだろう……。
このアタッチメントがあれば猟銃でスナイパーライフルのようなことが出来そうだが……全部で5発ということは忘れないようにしたい。
「……本当に、本当に精霊様のお力というのは凄いものなのですね……。
それを容易く扱うヴィトーの姿……改めて精霊様の愛し子であることを痛感させられました。
ヴィトー……これからも村と、私達のためによろしくお願いしますね」
試射を終えて銃のことを眺めていると、いつの間にか側へとやってきたアーリヒがそう声をかけてきて……しっかりとアーリヒを見返し、力強く頷いた俺は、これからも村のため世界のため……そしてアーリヒのために戦おうと決意を新たにするのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き……色々鍛錬するヴィトーの予定です
そしてお知らせです
書籍2巻の作業に合わせて、WEB版の見直し&改稿作業を進めています
主に誤字脱字、読みにくい部分などの修正、矛盾の訂正などです
今後の展開に影響のある修正などはしていませんので、読み直す必要はありませんが、興味のある方は2章をチェックしてみてください






