勧誘
ポイントカードを振って眺めて……そうして懐にしまって、作ったばかりの盾を振り回して使い心地を確かめていると、諸々の用事が済んだのかアーリヒがやってくる。
「ヴィトー、お疲れ様でした。
あんなにたくさんの恵獣様を連れてきてくれて、本当に嬉しいです。
……それであの恵獣達はどうするんです? ヴィトーが世話をするのですか?」
コタに入ってくるなり、そう言ったアーリヒは焚き火の側に腰を下ろし、俺に隣に座るように促してくる。
それに従い盾をコタの隅に置いてから席に移動し腰を下ろすとそっと身を寄せてきて……それを受け止めながら言葉を返す。
「うぅーん……今はグラディスとグスタフの世話で精一杯って感じだからなぁ。
狩りもしないといけない訳だし、他の人に任せたい……かな。
ユーラとサープが世話をしてくれると狩りにも協力してもらえるだろうし、色々と都合が良いんだけど……まぁ、そこは恵獣に判断してもらうしかないんだろうねぇ」
「分かりました、では村の皆にはそう説明しておきましょう。
世話が得意な者か、余裕のある者か……誰かしらが手を挙げてくれることでしょう。
……ユーラとサープは、どうでしょうねぇ……悪い子達ではないんですが……」
「まー……そこら辺に関しては他人がどうこう言ってもしょうがないし、二人次第かな。
恵獣達にも事情っていうか気持ちがあるだろうしねぇ……あの二人と組むとなると狩りもしなければならないから、尚の事簡単にはいかないよね」
「そうですねぇ……グラディスのように勇猛果敢な恵獣もいなくもないのですが……。
……あの、ヴィトー? あそこにある透明な板は何なんですか?」
と、そう言われて俺は「あー」と声を上げて立ち上がり……盾を持ってきて、アーリヒに見せながら説明をしていく。
「シェフィに作ってもらった盾だね、あの魔獣の攻撃を防げないかと思って作ったもので……かなり頑丈だから普段の狩りでも活躍してくれるんじゃないかな。
透明だから攻撃を防ぎながら相手の様子を伺うことが出来て、鉄とかで作るよりは軽いから、ある程度まで大きく出来る……と、そんな感じの盾だね」
「へぇ、透明なのは良いですね、重さは……うん、私には少し重く感じますね。
硬さは……軽く触った程度ではよく分かりませんが、ヴィトーと精霊様が作ったものなら問題ないのでしょうね。
……あの、ヴィトー、この透明な素材で鎧とか防具を作っては駄目なのですか? 恵獣様は盾を持てないですし、足や喉を守る防具があっても良いと思うのですが……」
「あー……うん、この素材とか、他の素材で防具を作れないかと考えはしたんだけど、結構なポイントがかかるみたいでさ……。
防具にするなら防刃繊維っていう刃に強い繊維で作ったのが良いかなぁと思うんだ。
それでグラディスの全身を守れたら……あの力強さで雪の中を駆け回り、角につけた武器でもって攻撃してくる上に攻撃が通らないとんでもない戦力になるんだけどね」
「なるほど……考えてはいたのですね、失礼しました。
そうすると……必要なのはポイントですか……うぅん、今は地道に狩りをしていくのが一番なのかもしれませんね」
『んー……どうしてもならポイントの前借りも出来るけどね、あまりオススメはしないかなぁ』
と、二人での会話の途中、空気を読んでかどこかに行っていたシェフィがコタの壁からにゅっと顔を出し、そんな声を上げてくる。
「……前借り? そんなこと出来るの?
いやまぁ……シェフィがオススメしないことをする気はないけどさ」
と、俺がそう返すとシェフィは、俺の頭の上ではなく、焚き火の側でウトウトとしていたグスタフの頭の上に移動し、ちょこんと座ってから言葉を返してくる。
『うん、出来るよ。
そのくらいの融通は効かせられるっていうかな……どうしてもなら精霊達もそのくらいの手助けはしてくれるよ。
ただ……それにばかり頼られても困るからね、相応のリスクは負ってもらうかな。
……つまりは利息だね、前借りから毎日ちょっとずつ返さなきゃいけないポイントが増えてく感じだね。
その上返済は強制だから……ポイントが手に入る度に返済に回されちゃうよ』
「それは……うん、下手に手を出さない方が良さそうだね。
よほど緊急事態なら借りるかもしれないけど……それでも簡単に返済出来る範囲に留めないとだなぁ」
「りそく……ですか? 精霊様の世界は不思議な考え方があるのですねぇ」
俺がシェフィにそう言葉を返していると、アーリヒがそう続く。
……シャミ・ノーマ族にも通貨の概念はあるのだけど、基本的に村の財産は村の皆で共有するものなので、借金の概念がないようだ。
まぁー……この村で金貸しが生計を立てられるとも思わないし、当然のことなのかもしれないなぁ。
「まぁ、前借りはよほどのことがない限りは無しということで。
グラディスの装備は……ポイントに余裕が出来たら優先的に作るということにしよう。
それまではこの盾でなんとか凌ぐ感じで……明日からはしばらく盾を持った状態での騎乗を練習しようか」
「私にはりそくのことはよく分からないですし、ヴィトーがそう決めたならお任せしますよ」
俺の言葉にそう返したアーリヒは、もう一度俺に寄りかかってきて……俺がそれを受け止めると、目を開けて話を聞いていたグラディスも眠り始め……シェフィはまたどこかへと消えていく。
そうして俺達は二人きり……と、言って良いのか分からない時間を過ごし、翌日を迎えるのだった。
翌日。
身支度や朝食を終えた俺は、いつものようにシェフィを頭に乗せて、グラディスとグスタフを連れて餌場へと向かった。
そこでグラディス達の手入れをしてやって、餌をたっぷりと食べてもらって……消化のための休憩を終えたなら騎乗練習をすることになる。
餌場には当然、昨日連れてきたばかりの恵獣達もいて……その側には賢明に恵獣を口説こうとしているユーラとサープの姿もある。
ユーラはその肉体美を見せつけたり、あちこち動き回ってみせたり、狩りの経験を語り効かせたりとしていて……サープはとにかく言葉を尽くしていて、その姿はまるで女性をデートに誘っているかのようだ。
恵獣達はそれを嫌がることなく真剣に受け止めた上で、どうするのか検討しているようで……一応何頭かは前向きに検討してくれているらしい。
だけどもまだまだ決断には至っていないようで……それからしばらくの間、ユーラ達の全力の勧誘が続くことになるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は……トラブル発生の予定です






