書籍版 発売記念SS
本日発売です!!
ある日の昼下がり。
村の外れでユーラとサープと共に槍を使い打ち合っての鍛錬をしていると、アーリヒがやってきて、何も言わず俺達の様子を見やってくる。
その様子は話をしにやって来たとか用事があって来たとか、そんな感じではなく……どうやらただ鍛錬の様子を見に来ただけのようだ。
見学……というよりはただただ俺の姿を見に来たという感じのようで、そんな様子を見てかユーラとサープが露骨な態度でもって俺に攻勢を仕掛けてくる。
二人の無駄に連携の取れた攻撃を、どうにか受け流そうとするが受け流しきれず……あと一歩で押し負けるという所で、運良くユーラが足を滑らせバランスを崩し、そんなユーラを助けようとサープが槍を手放したことで決着……というか、唐突に始まった勝負がお流れとなる。
このままここにいるとまた襲いかかってきそうだからとその場を後にし、アーリヒの下に近付き、槍を手近な木に立てかけてアーリヒに声をかけての雑談モードに入る。
「そう言えばアーリヒも狩りに出ることがあるみたいだけど、どんな武器が得意なの? やっぱり槍?」
俺が目覚めたあの日もアーリヒが狩りに出ていたなぁと、そんなことを思い出しながらの言葉にアーリヒは柔らかく笑いながら言葉を返してくる。
「槍も得意ですし、弓も得意ですよ。
相手や場次第では投槍器を使うこともありますし……なんでも得意だと思います。
それでもあえて一番というのなら……針になりますね」
「針? 針っていうと……?」
針なんて武器は聞いたことがなく、まさか縫い針で戦う訳でもあるまいにと、そんなことを考えての声に、アーリヒは懐から短剣のような大きさの針を取り出し応えてくる。
鉄製で程々に太く、先端は鋭く……確かに針としか言えないそれを見て、俺がどんな武器なのだろうと首を傾げていると、アーリヒはそれを構えて、手近な木を……凄まじい速さの連撃で突いてみせる。
針をそのまま持って突いて、槍の穂先代わりにつけて突いて、あるいは槍の穂先に丁字のような形で縛り付けてツルハシのように振るってみたりもする。
その姿はなんとも華麗で踊っているかのようで、器用な使い方をするのだなぁと感心していると、俺の背後にやってきたサープが小声で話しかけてくる。
(族長の針はヤベェッスよ。
ああやって使っているとただの槍のように見えるッスが、狙いがヤバい程に正確無比で魔獣の目と鼻と耳と口をあっという間に貫いて、戦えなくしちゃうんスから。
槍柄に変な風に縛り付けてるのは力が足りないのをなんとかするためで……遠心力って言うんスか? そんなのを一撃に乗せるための工夫ッスね。
アレなら沼地の連中の鉄鎧や鉄兜だってぶち抜けて、それはもう酷いことになるんスよ。
ぶち抜けなくたって継ぎ目とか隙間とかに刺しちゃうんで全然問題ないッスからねぇ。
以前沼地から盗賊がやってきた時、全身鎧姿の野郎がいたんスけど、族長の前に立った瞬間、全身鎧の肩と肘、腰と膝を隙間を刺し貫かれての行動不能……運良く死にはしなかったッスけど、それはもう酷いもんだったんスから。
ヴィトーも族長を怒らせないよう気をつけるんスよ)
小声ではあったが長話で、その態度からなんらかの内緒話を俺にしているのは明白で、そのことをアーリヒが見咎めてなんとも良い笑顔をサープに向ける。
それを受けてサープが両手を使っての身振り手振りを交えた言い訳をしようとした瞬間、サープが上げた両手の、指と指の隙間をアーリヒの針が通り過ぎ……サープの顔が一気に青ざめる。
どうやら話を聞かれていたらしいと察したサープは即座に雪でぬかるんだ地面へ膝を突いての謝罪をし……アーリヒは笑顔のままそれを受け入れる。
そんな様子を見てユーラが、俺の方にお前本当に族長が相手で良かったのか? とでも言いたげな怯えた表情を見せてきて、俺はそんなユーラに対し、全然問題ないよ、むしろ頼りになって良いじゃない? と、そんな表情を返す。
するとユーラは降参だとばかりに両手を振り上げてのポーズを取り……そして俺の意図を察したのだろう、アーリヒは今日一番の笑みを見せてから、俺の髪をくしゃくしゃになるまで撫で回してくるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
書店などで見かけた際にはチェックしていただけると幸いです!!