装備と特訓と
グラディス達の世話を終えたなら、アーリヒが用意してくれた装備を試すかと、グラディスの許可を取った上で、鞍などをグラディスに装着させていく。
グラディスの角は二種四本、後頭部辺りから上に伸びた鹿に良く似た角二本と、頭頂部から前に伸びた水牛のような角二本となっていて……角に装備する武器は、そのうち水牛の方に装着する。
太く力強く、前に向いていることからも攻撃向きで……それが終わったら鞍を乗せてしっかりと紐を縛り固定していく。
鞍を乗せたら鞍に鐙……鞍に登るための足場のような金具をつけていく。
鞍に登る際も必要なのだけど登った後も鞍の上でバランスを取るのに必要で……それが終わったら前掛けのような恵獣の鎧を首から下げる形で装着させる。
「……この装備で魔獣に突撃していたってんだから凄いよなぁ……
しかも武器は騎乗槍とかじゃなくてただの木槍……そんなの一度の突撃で折れてしまうだろうに」
装着させながらそんなことを言っているとグラディスが、
「ぐぅ~ぐー」
と、声を上げる。
それはどこか誇らしげというか自慢げというか、この装備さえあれば大丈夫、槍なんかなくても自分に任せておけば何も問題ないと言っているかのようで……それに小さく笑いながら装着を終わらせ……各種装備に触れて、軽く揺らしてみて固定が甘くないかなどの確認を行っていく。
「グラディスに突撃してもらって、背中の俺は銃を撃つつもりだけど、銃が使えないような状況ではやっぱり槍も使うことになるんだろうなぁ。
シェフィに頼んで突撃槍も作ってもらった方が良いかな?
……いや、あれはかなり重いはずだし、取り扱いも難しいと聞くし……にわか仕込みで使おうとするのはやめておこうか」
『ちなみに作るとしたら、鋼鉄製で1000ポイントってところだよ』
いつの間にか俺の頭の上に移動していたシェフィが、俺の言葉にそう返してきて……うん、1000ポイントもかけるくらいなら、普通の槍を量産してシェフィに預けておいて、突撃の度に精霊空間から出してもらって使い捨てた方がマシだろうなぁ。
なんてことを考えながら確認を終えたなら……、
「よし、装備は問題ないようだから、このまま乗ってみるよ。
上手く乗れたら軽く周囲を駆け回ってもらっての訓練をしようか」
と、声をかけて鐙に足をかけ鞍に手を伸ばし、グラディスの背によじ登ろうとする。
するとグラディスが前足を折りたたんでしゃがんでくれて……登頂はあっさりと成功、俺が鞍に座り、鞍の前方についている取っ手を握ったところでグラディスが立ち上がり……そうして餌場をゆっくりと歩き始める。
「視線が高くて揺れて……相変わらず尻は痛いけど鞍と鐙があるだけ少しはマシかな。
グラディス、だんだん速度を上げていって……他の恵獣の迷惑にならなそうな所を駆けてもらえるかな」
俺がそう声をかけるとグラディスは頷き、少しずつ少しずつ速度を上げていく。
そんなグラディスの後ろをグスタフが追いかけてきていて……、
「ぐー! ぐーー!」
と、楽しげな声を上げている。
母親と駆けるのが楽しいというのと、立派な装備を身につけた母親の勇姿を喜んでいるのとで嬉しいやら楽しいやら、テンションが上がりまくっているグスタフは、声を上げながらグラディスを追い抜き、どんどん前へ前へと駆けていく。
駆けて駆けて、いつかは自分もそれらの装備を身につけて戦うことになると思っているのか、まだまだ小さく短い角をしっかり構えて……適当な木に狙いを定め、全力で駆けての突撃をぶちかます。
乾いて冷えて固くなった木の幹に見事に角が当たり、木琴を叩いたような音が響き渡る……が、角の鋭さが足りなかったのか勢いが足りなかったのか、角は弾かれグスタフは尻もちをついてしまう。
「ぐー!」
それを見てグラディスは勇ましい声を上げ、これが見本だとばかりに速度を上げていき、グスタフが突撃した木へと突き出した角をぶちあてる。
すると角につけた武器……衝角とでも呼ぼうか。とにかくその衝角が木の幹に突き刺さり、それでもグラディスの勢いが止まらずどんどんと衝角が押し込まれ、限界が来たのだろう、凄まじい音を立てながら木の幹が裂けていき……真っ二つとなって左右に折れ倒れる。
それを見て満足げに鼻息を吐き出したグラディスは、視線を尻もちをついたままのグスタフへと向け……そしてグスタフはその目に焼き付けた母親の勇姿を再現すべく、立ち上がって駆け出して再度木への突撃をぶちかます。
気合は十分なようで先程よりも勢いよくぶち当たる……が、衝角はなくグラディス程の体格も力もなく、木を刺し貫くなどまず不可能で、ただただ音が響くのみ。
だけどもその音は先程よりも高く大きく響くもので……子供にしては十分ということなのだろう、グラディスが満足げな鼻息を吐き出し、頑張った息子を労うためか近寄って背中を舐めてやって……と、そこで異変に気づき困惑した表情となる。
「どうした? グスタフが怪我でもしたか?」
取っ手を両手で握り、鐙をしっかりと踏み抱えてグラディスの背中から落ちないよう踏ん張っていた俺からは角度的にグスタフの様子が見えず、そんな問いを投げかけると、グラディスが困ったような視線をこちらに向けてくる。
怪我をしてしまったとか緊急性のあることではないようだが、それでも何かグラディス達を困らせる出来事が起きてしまったようで、俺は首を傾げてからグラディスの背から降りて、グスタフの様子を確かめる。
「くふぅー……くぅー……」
弱々しくそんな声を上げているグスタフ、その角を良く見てみると、見事なまでに木の幹に突き刺さってしまっていて……どうやらそれが抜けなくなってしまっているらしい。
「……足場は踏み固められていない雪で踏ん張れないやら滑るやら、地力では抜けなくなっているのか……。
そう言えば前世で角を木に引っ掛けたせいで動けなくなった鹿が餓死したとかなんとか、そんなニュースを見たこともあったけか……。
……うん、グラディスもグスタフも人間が居ない所で木への突撃はしないようにね。
そのまま餓死も怖いけど、魔獣や他の獣に襲われるなんてのも怖いからさ……」
と、そんなことを言いながらグスタフの頭を撫でてやってから、グスタフの角を両手で掴み……力いっぱい引き抜こうとする。
だけども角は深々と刺さってしまっているようで中々抜けず、そんな俺のベルトをグラディスが咥えて引っ張って手伝おうとしてきて……頭の上に張り付いていたシェフィまでが俺の服を引っ張り始める。
大きなカブだったか、そんな絵本があったなぁ……なんてことを思い出しながらもう一度力を込めて角を引っ張り……グラディス達の助力のおかげか、木から角がすっぽ抜ける。
その結果俺達は反動で、盛大に背後方向にすっ転ぶことになり……そして先程のグスタフのように、全員で一斉に尻もちをつくことになってしまうのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は狩り再びやら何やらの予定です。






