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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第二章

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恵獣の秘密


 食事を終えて自宅に戻り……アーリヒやグラディス達と軽く言葉を交わしてから歯を磨いて寝床に入り……翌日。


 身支度を済ませ朝食を済ませて、グラディス達を餌場に連れていくと、少し遅れてアーリヒがやってくる。


 結構な大きさの荷物を抱えたアーリヒは、満面の笑みを浮かべていて……どうやら何か良いことがあったらしい。


「ヴィトーの悩みを解決出来そうな品を持ってきましたよ」


 やってくるなりアーリヒはそう言って両手で抱えた荷物……毛皮で包んだ何かを広げ始めて、俺は首を傾げながらもそれを覗き込む。


 俺の悩み……というと、昨晩話した戦い方についてだろうか?


 猟銃だけでは仕留めきれず、銃剣を作ろうか悩んでいるけど、銃剣があったとして上手く扱えるか分からない……と、そんなことを話した訳だけども……。


「これは私の実家の倉庫にしまわれていたものでして、私の曽祖父が使っていた恵獣様用の鞍なんだそうです。

 昔はこれを恵獣様の背に乗せて跨り、大槍を構えての突撃をしていたそうで……これがあればヴィトーも色々な戦い方が出来るようになるのではないですか?」


 毛皮を広げたアーリヒは、その中にあった鞍を持ちながらそう言ってきて、俺は思わず「おぉー」なんて声を上げながらそれを受け取る。


 恵獣用の鞍……馬の鞍に近いそれは、良い木材と毛皮を使って作ったものらしく、古いはずなのにしっかりとした作りとなっていて手入れもしっかりされていて……どこかが破損しているとかカビているとかもなく、今すぐにでも使えそうな様子だ。


 鞍の中央前には取っ手のような棒もあり……手綱がないようだから、これを持ってバランスを取る、みたいなことをしていたんだろうか?


 よく見てみると毛皮の中には他にもいくつかの品があって……鐙のようなものとか革製の前掛けのようなものとか、それと不思議な形の槍の穂先と言うか、棘と言うか……なんらかの武器らしい代物までがあった。


「それは恵獣様の角の先につける武器らしいですね、それを付けた角で魔獣を突けば内蔵まで貫いたんだそうです。

 そちらの革製の前掛けは恵獣様の首にかけて体に縛り付ける、恵獣様の首や胸を守るための防具となりますね。

 他にも恵獣様の毛皮に戦化粧を施すための塗料もあったのですが、そちらは乾燥しきっていて使えないと判断したので、持ってきませんでした」


 それらの品を見ているとアーリヒがそう説明してくれて……中々実戦的というか物騒な品々に思わず「なるほどなぁ」なんて言葉が漏れてくる。


 恵獣は賢く気高く、勇気もある。


 言葉が通じるからこそ戦場に出すための調教とかは必要ないだろうし、言葉で指示したら良いのだから手綱などでの指示も必要ない。


 魔獣や魔王を恐れることなく突撃してくれるのだろうし……銃の音に対する怯えも気にしなくて良いのだろう。


 理にかなっていると言うべきか、何と言うべきか……これらの装備を身につけたグラディスが狩りを手伝ってくれたなら、うんと楽になることは間違いないだろう。


 実際、魔王との戦いでもグラディスが協力してくれていて……あの時に角につける武器や前掛け、鞍や鐙があったなら魔王にどれだけのダメージを与えてくれていたことか……次回からはグラディスと一緒に狩りに行っても良いかもしれないなぁ。


「ありがとう、アーリヒ。

 グラディスが嫌じゃなかったら、これらを使って狩りをしてみるよ。

 これと銃剣があれば……うん、手札が増えてくれそうだ。

 ……しかし、こんなものがアーリヒの曽祖父の時代からあるなんてなぁ、恵獣は昔からシャミ・ノーマの暮らしを助けてくれていたんだねぇ」


 と、そんなことを言いながらアーリヒが持ってきてくれた品の確認をしていると、アーリヒは嬉しそうに微笑んでくれて……そして食事をしていたグラディス達も口いっぱいの餌を咀嚼しながらやってきて、興味深げに鞍やらを覗き込んでの確認をし始める。


 興味津々……これらがどんな道具かをパッと見で理解したのか、嬉しそうにしながら「ぐぅーぐぅー」と声を上げて、食事が終わったなら早速つけてみろってな具合で……とても嬉しそうな顔をする。


「嫌がったりしないんだねぇ……。

 賢くて勇気があって角や毛皮で役にも立って……恵獣って本当に凄いよなぁ」

 

 その顔を……鼻筋の辺りを撫でてあげながら俺がそんなことを言っていると、空中に浮かんでコタから勝手に持ってきたらしい干し肉を食べていたシェフィがこちらへとやってきて……モグモグモグと激しく口を動かし、口の中の物を綺麗に飲み下してから声をかけてくる。


『そりゃそうだよ、恵獣も精霊の愛し子なんだから』


 そんなシェフィの言葉を受けて俺は驚き硬直する、アーリヒも硬直する、周囲で世話をしていた村人達も硬直する。


「え? そうなの? 精霊の愛し子なの? 恵獣達は?」


 皆を代表して俺がそう返すとシェフィは、きょとんとしながら言葉を続けてくる。


『そうだよー、っていうか恵獣の賢さを何だと思っていたのさ!

 恵獣が賢かったり勇気に溢れたりしているのは、ボク達精霊の加護のおかげ……ヴィトー達がサウナに入ってドラーの力でレベルアップしているのと同じなんだよ。

 ヴィトーみたいにして生まれた愛し子とは違う感じで、昔の昔、大昔に恵獣のご先祖様が精霊の為に戦い活躍し、そのご褒美に加護が与えられてレベルアップして……その子孫が今の恵獣達って訳さ。

 そりゃぁもう凄い大活躍だったんだから! ……まぁ、ボクがその場にいた訳じゃなくて聞いた話なんだけどさ!』


 その説明を受けてアーリヒは少しの間呆然とし……それから「貴重なお話ありがとうございます」と、そんなことを言ってから皆に今の話を知らせるためか村の方へと駆けていく。


 この場で話を聞いていた村人達は、恵獣の世話に戻り、今まで以上に丁寧に敬意を持っての世話を始め……俺もそれに倣ってグラディスとグスタフのブラッシングを始める。


 丁寧にしっかりと、同じ精霊の愛し子である親近感なんかも込めてブラッシングをしていく。


「……とりあえず食事とブラッシングが終わったら、鞍を乗せてどんな感じになるかの練習をしようか。

 それから銃の発砲音に慣れてもらうために何度か銃も使って……それで問題ないようなら、一緒に狩りにいくとしよう」


 ブラッシングしながらそう声をかけるとグラディスは嬉しそうに「ぐぅー」と声を上げ……そして隣のグスタフから不満そうな「ぐぅー」という声が上がる。


「いや、グスタフはまだ小さいし、俺を背中に乗せるのも無理だろうし……狩りにいくのはもっと大きくなってからが良いと思うよ。

 小さな体で怪我をしちゃったら大変だし……それにあれかな、グラディスを安心させるためにもまずは結婚して子供を作ることを先に―――」


 と、そう言ってグスタフを説得しようとするがグスタフは、半目になって頬をいっぱいに膨らませて、


「ぶふぅー……」


 と、大きなため息を吐き出しての抗議をしてくるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はユーラと開拓のあれこれの予定です。



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