アウフグース
アウフグースがどんな行為なのか……簡単に説明した上で、あれこれと説明するよりもやった方が早いだろうということになり、俺達はそのままサウナに向かい……いつも通りに服を脱ぎ体を洗い、サウナ室に入った。
そして俺以外の皆に腰掛けに一列に座ってもらい……俺はタオルを持ってサウナストーブの側に立つ。
「アウフグースが何なのか知ってはいるけど、やったことはないから……下手でも文句は言わないでよ」
と、そう言ったならストーブ側の水桶に手を伸ばし、柄杓を手に取り、桶の中の水をサウナストーン……サウナストーブの上に積まれた焼け石へと振りかけてのロウリュを行う。
するとジュゥゥゥゥっと音がなって蒸気が舞い上がり周囲の気温が一気に上がり、その熱気を……サウナストーンから吹き上がる蒸気を両手で持ったタオルでもって力いっぱい扇ぐ。
大きく上下にバッサバッサと、吹き上がる蒸気を逃さないように扇いで扇いで、腰掛けに並ぶユーラ達にぶつけて……ユーラ達の全身が熱気と蒸気で蒸し上がっていく。
「こ、これがアウフグースだよ、ロウリュして蒸気を出して、それをタオルとかで扇いで全身にぶつける。
これをやると一気に体を熱することが出来るから、体を思いっきり温めたい時とかに良いし、これをやった後のととのいは特別気持ち良いものになる……らしいよ。
アウフグースの専門家みたいな人もいて、その人だと熱気を逃さず上手く心地よくアウフグースをしてくれるらしいね。
実際に見たこともやったこともないから、聞きかじりの知識でしかないんだけど……」
アウフグースを続けながらそんな説明をすると、ユーラは満足そうに頷き、サープは静かに目を閉じ、シェフィはなんとも幸せそうに寝転がり……そしてジュド爺は少しだけ不満そうな顔をし、口を開く。
「悪くはない……悪くはないが、熱気が足りんな。
手法自体は間違ってないようだからなぁ……腕前の問題なんだろうな。
ヴィトーの言う専門家とやらでなければ満足なアウフグースは出来んということなんだろう」
腕を組んで堂々と座って、じぃっとサウナストーブを睨んで……サウナの熱さに慣れているのか鈍感なのか、ジュド爺はアウフグースで熱気をぶつけられても全然満足出来ていないらしい。
『ボクは全然良いと思うけどねー……超キモチイイしー……。
これ以上のアウフグースとなるとヴィトーの言う通り熱波師連れてくるかぁ、扇風機でも持ってくるしかないんじゃなーい?
それかアレかなー……風の精霊の力を借りるとかー……』
ジュド爺に続いてシェフィがそんな声を上げ、熱波師ってなんだ? と俺や皆が首を傾げていると……そんなサウナの中に火の塊が飛び込んでくる。
火の精霊ドラーのご登場、まだととのっていないのにレベルアップしに来てくれたのか? と思いきや……どうやらそうではないようで、ドラーはその手でもって引っ張ってきた塊……緑色で半透明で、どこか湯気を思わせる長い毛に覆われた毛玉……半袖半ズボンみたいな服装をした新しい精霊? を、自分の前にズイッと押し出してくる。
『おう! またおもしれぇことしてるみたいだから、手伝いに来てやったぜ!
風が上手くおこせねぇってんならよ、風の精霊に起こさせれば良いって話だよ! こいつならどんな風でも思うがままだからなぁ……!
ってことでヴィトー! こいつにも名前をつけてやってくれや!』
ドラーがそう言って押し出してきた精霊は、勝ち気なドラーの真逆……タレ目でオドオドとした態度となっていて……どうやら無理矢理ここに連行されてしまったようだ。
そのことを申し訳なく思いながら風の精霊のことを見やっていると、オドオドモジモジしながらその精霊が声をかけてくる。
『あの、ここに来たのは嫌々とかじゃないから……ただいきなり知らない顔が大勢だから驚いただけで……。
魔獣と戦う君達が少しでも気持ちよくなってくれるなら、風を吹かせるくらい全然なんでもないよ……』
と、そんな弱々しくも高く響く声を聞いて俺は、なんとなく頭に浮かんだ単語を口にする。
「ウィニアとかどうでしょう? なんとなく浮かんだ名前なんですが……」
『うん、良いと思う……あたしの名前はウィニア、よろしくね。
……じゃー、ウィニアがアウフグースしてあげるから、もう一回ロウリュしてみて……』
すると風の精霊ウィニアがそう言ってきて……俺は頷きもう一度柄杓でもって水をサウナストーンにかける。
そうして蒸気が上がった瞬間、強風が吹いてサウナストーンから上がった熱気が一気にユーラ達の方へと叩きつけられる。
それはタオルとか扇風機とかのレベルの風の強さではなく台風レベル……リーフブロワーのスイッチ最強にしているような強さで……凄まじいまでの勢いで熱風を叩きつけられたユーラ達が大きな声を上げる。
「うぉぉぉぉぉぉ!?」
「あつあつあっついッス!?」
『あははははは、凄い熱さだねぇ!』
「む……ぐぐぐぐ……」
ユーラとサープは悲鳴が上がり、シェフィは笑い、ジュド爺はなんとか耐え……それでも熱気が厳しいのかユーラとサープは熱気から体をどうにか守ろうと、膝を抱えて丸くなっての防御体勢を取る。
そんな状況でもシェフィは寝たままで、ジュド爺は意地があるのか先程と変わらない堂々とした体勢で……そんな中でウィニアがとんでもないことを言い出す。
『あ、これじゃぁヴィトーが熱気味わえないね? じゃぁほら、ヴィトーの方にも風を送るから、ロウリュしてみてよ』
悪気のない笑顔で……どこか楽しげにそう言うウィニア。
相手は皆が信仰する精霊様……その精霊様にここで逆らうというのは難しいことで、ユーラとサープがお前もこの熱気を味わえと言わんばかりの目を向けていることもあって俺は、仕方無しにロウリュを行い……そして強風が巻き起こり、吹き上がった熱気を俺の全身に叩きつけてくる。
叩きつけるだけでなく竜巻のように風が渦巻いて熱気を俺の周囲に留め続け……なんだかオーブンの中にぶちこまれたような気分になってくる。
それは普通のサウナとは比べ物にならない状況で、一歩間違えば火傷するんじゃないかってくらいに熱くて……熱くて熱くて、その風が落ち着き、熱気が周囲から去った瞬間俺は、砂時計の確認もせずにサウナ室を飛び出し、池へと向かう。
ユーラ達やジュド爺もそれに続いて池に飛び込み……キンキンに冷えた冷水でじっくりと体を冷やしたなら瞑想小屋へと駆け込む。
体の表面に残った水滴をタオルで拭い、それから椅子に腰掛け……いつも以上に重く感じる体を椅子に預けて目を閉じて……瞬間、激しかった血流が落ち着き……落ち着きながらも力強く巡り、手足の指先までピリピリとした感覚が広がり、いつもとは全く違うレベルでのととのいが始まる。
これがアウフグースの効果なのか……全身が溶けたような感覚に支配され、それからしばらく俺達はなんとも言えないその感覚をじっくりと味わうのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はサウナ後のあれこれとなります。






