結果
戦闘音のする方へと駆けていくと、クズリ魔獣の死体が二つあり、どうやら4体のうち2体を既に仕留めているらしい。
どちらも背中から腹へと貫通する大きな穴が空いていて……さっきと同じ、高所から落下し勢いのままに突き刺した……のだろうか?
そんな死体のうち1体には折れた槍が突き刺さっていて……ここで武器を失ったらしいユーラのことが心配になるが、直後視界に飛び込んできた光景がその心配を吹き飛ばしてくれる。
「おう、そっちは片付いたか」
と、そんなことを言いながらユーラが……右手と左手でもって一体ずつの魔獣の首根っこを掴んだ状態で前方からやってくる。
その魔獣はまだ生きているようで、体をひねっての抵抗を見せるが、すぐさまユーラが魔獣同士の頭を力いっぱいぶつけ合わせることで魔獣の気を失わせる。
「槍は折れちまうし、殴っても効かねぇしで困っちまったんだが、こうして魔獣同士をぶつけると良い感じにダメージが入るみたいなんだよな。
しょうがねぇからこうやって気絶させながら持っていこうかと思ってたんだが……途中で暴られても厄介だしなぁ、ヴィトーの銃でこいつら処理してくれねぇかな?」
なんてことを言ってユーラはぐったりとした魔獣のことを差し出してきて、なんとも豪快な方法で倒したもんだなぁと少しだけ呆れながら頷き、魔獣を地面へと降ろしてもらい、その口の中に銃口を突っ込み、一発ずつ銃弾を打ち込む。
少しだけ哀れに思うが、魔獣は生物ではないし生かしておいてもただ害があるだけだし……これも浄化のためだと割り切って銃を引き抜き、一応の再装填を行い……ユーラに声をかける。
「これで一応、ジュド爺の要求した数はこなせたけど……どうする? もっと狩れないか探して回る?」
「んー……いや、どうだろうな。
この魔獣は体が小さくて運搬しやすいが、それでも6体もいると手間がかかるしなぁ……持ち帰って浄化して肉にして……数が多すぎると夜中までの作業になっちまう。
ジュド爺もそんな何体も狩ってくるとは思ってねぇだろうし……サープだって何体か狩ってくるだろうしな。
もう十分だと思って帰った方が―――」
と、ユーラの言葉の途中で、遠方……北の方から魔獣の声と思われる轟音が響いてくる。
大きく濁ったその声は、以前相対した魔王の声に似ていて……ついでに周囲に転がるクズリ魔獣のものにも似ていて、俺とユーラは直感的にそれがクズリ魔獣の王というか群れの長というか、そんな存在の声なのだろうと感づく。
「―――槍もねぇし、日も落ち始めた、さっさと逃げ帰った方が良いだろうな」
「うん、そうしよう……魔獣の死体はロープで縛って引きずっていこうか」
そう言葉を続けたユーラに同意し、帰還の準備を始め……魔獣の死体を雑にロープで縛ったなら、ジュド爺が待っているラーボへと戻っていく。
その途中同じく魔獣をロープで縛り上げたサープも合流し、3体の魔獣を引きずっていて……俺は2体、ユーラは4体、サープは3体という結果となり、ユーラがふふんと得意げな顔をする。
それに対しサープは何かを言いたげにするが……結果が全てということなのだろうか、何も言わずに足を進め、ジュド爺の下へと到着すると……10体くらいだろうか、そのくらいのアナグマの死体の処理をしているジュド爺の姿が視界に入り込む。
「おう、帰ったか。数は……十分狩れたみたいだな、それだけの数ならとりあえず合格ってことにしておいてやろう。
……ん? このアナグマか? 最近アナグマが増えすぎてるってのは聞いていたからな、巣穴を探してみたんだよ。
そうしたらこれだけの数がとれたって訳だ……ま、味は悪くないからな、良い土産になるだろう」
そしてジュド爺は俺達の姿を見るなりそんなことを言ってきて……俺達はなんとも言えない敗北感を味わうことになる。
当然アナグマよりも魔獣の方が厄介な獲物だ、素早く力強く狡賢く……狩猟難易度は比べ物にならないだろう。
だけどもアナグマの巣穴を見つけるのだって簡単なことではないし、こんな短時間で10体も狩れるだなんてのが驚きだし、ジュド爺の年齢も考えればそれは尚の事で……その上、アナグマは魔獣と比べ物にならない程美味しい肉を持つ獣だ。
肉が柔らかく脂が甘く、旨味がしっかりとあって臭みが少なくて……。
魔獣を狩ったことも当然喜ばれるだろうけど、アナグマも喜ばれるはずで……なんと言うか、うん、敗北感が凄い。
とは言え、いつまでもそうしていられないので、帰還の準備を進め……荷物を片付けしっかりと背負ったなら、荷運び用のソリに道具やら魔獣、アナグマを乗せてしっかりとロープを縛って村へと運んでいく。
ソリに乗せきれない魔獣はユーラが運ぶことになり……日が落ちきる少し前、村が見えてきて、俺達の帰還を待っていたらしいアーリヒとグラディスとグスタフの姿が見えてきて……アーリヒが俺を見るなり駆け出すが、グラディスがそんなアーリヒの服の端を食んで制止する。
俺達は狩りを終えたばかり……穢れを身にまとっている、それに抱きつくのは良くないとの制止だったようで……アーリヒはそんなことする訳ないでしょ、とでも言いたげな表情をグラディスに向けてから、こちらに小さく手を振ってくる。
それに手を振り返すとユーラとサープが同時に俺の尻を蹴ってくるが痛くもなく、笑って受け入れて足を進める。
すると何人かの男衆が駆けてきて、獲物を受け取ってくれて、
「解体と浄化はこっちでやっておくから、サウナ行って来い、サウナ。
ジュド爺にしごかれて疲れてるんだろ?」
なんてことを言ってくる。
正直そこまで疲れた訳ではないのだけど体は冷え切っていて、サウナに入れるのはありがたく……軽く笑って礼を言って荷物を預けたなら、サウナ小屋へと足を向ける。
「おう、ワシも行くからな」
そんな俺達の後をついて来ながらジュド爺がそんな声を上げてきて……ユーラとサープは露骨に肩を落とし、がっかりしたという態度を取る。
老齢の人が入るサウナは、そこまで高温にしないルールになっている。
体感的には60度とか、そこらの範囲で……生ぬるいというか物足りないというか、そんなレベルとなる。
「安心しろ、ワシも生ぬるいサウナは好かん。
むしろお前達が普段入っているような、ぬるいサウナじゃぁ物足りんくらいだ」
更にジュド爺はそんなことを言ってきて……いやいや、あれ以上のサウナなんてそうそうないでしょ、と今度はそんな顔をする。
いや……待てよ? 確かサウナをより熱く、より汗をかけるようにする手法があったような……?
漫画で何度か出てきた……アレは確か……。
「アウフグースだっけ?」
と、そんなことを言った俺は、首を傾げたユーラとサープとジュド爺と、ついでに頭の上のシェフィに向けて、アウフグースが何であるかを説明するのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回アウフグースです






