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師弟


「なっ……はぁ!? ヴィトー!?」


 俺がジュド爺に声をかけたのを受けて、サープが裏返った声を上げる。


「いや、こういうのは習える時に習っておかないと、後で後悔しそうだからさ」


 そう返すとサープは口をパクパクとさせて……そこにジュド爺が、電球頭に白ひげ、サープの服によく似た青い服に白樺の杖という格好で、杖をついているとは思えない速度でこちらにやってくる。


「こんの馬鹿弟子が! ようも逃げてくれやがったな! お前は特別厳しくしてやるから覚悟しておけ!

 ……そしてヴィトー様、お言葉聞こえておりましたが、馬鹿弟子とは真逆のお考えのようで……ご立派ですな」


 やってくるなり厳しい顔でサープに声をかけ、柔らかな顔でこちらに声をかけてきたジュド爺はやたらと丁寧な言葉遣いをしていて……何故だか俺のことを敬ってくれているらしい。


「あの、そんなかしこまった口調ではなくて、サープに接する時のような調子で構いませんよ?

 俺はそんな大した人間ではありませんから……」


 俺がそう声をかけるとジュド爺は、目を白黒させながら言葉を返してくる。


「む……そうですか? ヴィトー様は精霊の愛し子であり魔王を倒した勇者でもあり、ワシら狩人からすると敬愛の対象なんですがな……。

 しかし、まぁ……誰あろうご本人がそうおっしゃるならその通りに致しましょう。

 あー……ヴィトー、お前もワシから学びたいとのことだが、一度弟子となったらワシは甘やかさんぞ、覚悟は出来ているのか?」


「はい、学ぶことを嫌って命を落としたなんてなったら後悔してもしきれませんから……。

 あとで文句を言ったりはしないので、よろしくお願いします」


「はっ……最初はサープもそのくらい素直だったんだがなぁ、全く。

 どこでひねくれやがったんだか……」


 すると黙って話を聞いていたサープが、裏返ったままの声であれこれと言葉を並べていく。


「ば、馬鹿ヴィトー!? ジュド先生の教え方はマジで異常なんスからね!?

 手足縛られて谷の中に落とされて一人で帰ってこいとか、ナイフ無しで獣の解体をしないと食事抜きとか、そんなんザラなんスからね!?

 ユーラも一時期教わってたけど、耐えられなくて逃げ出したくらいなんスから相応の覚悟と準備がいるッスよ!?

 死んでも自分は知らないッスからね!? いや、死なないにしても大怪我はほぼ確実ッスからね!?」


 その言葉にはこれ以上ない力が込められていて、その表情には今までにない真実味が浮かび上がっていて……俺は思わず生唾を飲み、そんな俺を見てかジュド爺の杖がサープの脛を思いっきり叩く。


「この阿呆! 魔王なんて緊急事態に愛し子様をそんな目に遭わせる訳ねぇだろうが! そもそもワシは噂に聞くジュウとかいう武器の使い方を知らん! 狩り方を知らん!

 そうなればワシに教えられるのは基礎くらいのもんで、そっから先は馬鹿弟子! お前の仕事だ!!」


 そしてそんな……少しだけ柔らかな音を含んだ声を上げて、サープがきょとんとする。


 また子供の頃のように厳しく躾けられると思い込んでいたら、後のことはお前に任せるとの、まさかの言葉。


 それは前世で言うところの免許皆伝に近いものであるはずで……サープの目が揺れて潤み、そしてすぐに涙がポロポロと落ち始める。


 そして俯き涙を拭い始め、そんなサープの頭の上にシェフィが移動し、サープのことをよしよしと撫で始め、それがまたサープの涙を誘う形になる。


 それを見てジュド爺は、自分の丸い頭を撫でながら困ったような顔になり……それからこちらに向き直り声をかけてくる。


「あー……ヴィトー。

 とりあえず明日だ、明日からお前達に狩りの基礎を教えこんでやる。

 学んだものを活かすも殺すもお前次第だ、ジュウとやらを使ったお前なりの狩りに昇華すると良い。

 基礎とは言え甘くはしないから相応の準備をしておくように、サープとユーラも参加だ」


 すると俺が言葉を返すよりも早く、アーリヒがずいと前に進み出てジュド爺に声をかける。


「ジュド爺、他の若者にも基礎を教えてあげてはくれませんか?

 あなたの知識はこの村の宝です、精霊様のおかげで元気になったと言うのならぜひとも願いしたいのですが……」


「族長……そりゃぁ構わんですが、明日以降になりますな。

 明日はこいつら3人を鍛え直すことに集中したい、魔王と出会い、魔王と戦い勝利したこいつらには期待しとるんですよ。

他の連中はその後にいくらでも相手してやりますんで、族長の方で誰が参加するかを決めておいてください。

 精霊様の加護をちょうだいしたとはいえ、今ここでおっちんでもおかしくない年だというのは自覚しとりますから……なるべく早く用意してくれると助かりますな」


 ジュド爺がそう返すとアーリヒは「はい」とそう言ってから頷き、俺の肩を軽く撫で、グラディスとグスタフの頭を軽く撫でてから、早速若者に声をかけるつもりなのだろう、村の中央へと駆けていく。


 そしてジュド爺は「とにかくまた明日だ」とそう言って……泣き崩れているサープの脛をもう一度叩き、それから準備をするのかサープと共に去っていく。


 そして俺は……ひとまず世話の続きだとグラディスとグスタフのブラッシングをすることにする。


『いやぁ、面白いおじーちゃんだったね、明日はどんなこと教わるんだろ? サープみたいに気配を消す方法かな? それとも獣を追いかける方法かな?』


 するとシェフィがそんなことを言いながら目の前に浮かんできて……俺は世話をしっかりしながら言葉を返す。


「どうだろうなぁ……基礎だって言っていたから、それとはまた別のことを習うんじゃないかな?

 俺は……狩りのことは村の大人達に軽く教わった程度だから、どんなことを学べるのか想像もできないね。

 ……いつ死んでもおかしくないジュド爺の教えだ、出来ることならメモなり取りたいとこだけど……もしメモ帳とボールペンって言ったら、どのくらいのポイントになる?」


 するとシェフィは不思議な力でもって空中に文字を描き出し……8300ptとの文字が表示される。


『魔獣と魔王を倒したことで大幅ゲットだけど、毒弾丸を作ったり装填したりでサービスもしたから、ちょっと消耗しちゃってるね。

 そしてメモ帳とボールペンはー……狩りをしながらだから、それなりに丈夫なやつで、氷点下でも使えるのにする必要があってー……

 そうなるとー……3000ptはかかるかなぁ~~……どうする?』


 その言葉に一瞬考え込むが……鉛筆はいざという時に芯が折れたり、文字がかすれたりすることも考えると心もとない。


 立派なメモ帳とボールペンなら長く使い倒せるのだろうし……これも必要経費だろうとそう考えた俺は頷き……注文を行うのだった。

 


お読みいただきありがとうございました。


次回は授業開始となります。

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