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ジュド爺


 アーリヒと婚約してから数日が経ち、俺のコタの隣に作られていたグラディス達の寝床……厩舎がようやく完成となった。


 木材の柱を立てて屋根を乗せ……両開きのドアをつけて、床に木の皮や毛皮などで寝床を作って。


 解体が楽で村を移動させる際にはソリに乗せて運べるようにもなっていて……それが二頭分並んでいる。


 ヘラジカや馬なんかの動物を飼うための厩舎なら、運動場と逃亡防止の囲いが必要になってくるのだけど、賢い恵獣にはその必要はなく……逃げることはまずないし、運動も自分達で勝手に良い場所を見つけてやってくれる。


 恵獣が逃げるとしたらそれは世話の仕方が悪いとか、人間側の非によるもので……そうなってしまわないよう、しっかりと世話をしていくとしよう。


「よしよし……グラディスは良い子ですね」


 出来上がった厩舎の前でそんな声を上げたのはアーリヒで、厩舎の中で座って休憩をしていたグラディスに、ブラッシングをしてあげている。


 隣の厩舎のグスタフは、同じように座りながら、ぐっと首を伸ばしてその様子を覗き込んでいて……自分もブラッシングしてくれと言いたげな表情をしているが、アーリヒは順番通りにやると決めていて、あえての無視を決め込んでいる。


 恵獣は群れを形成する生き物で、群れの中での階級といったら良いのか、立場といったら良いのか、力関係はとても大事なものであるらしい。


 ブラッシングをするなら長から、あるいは年長者からする必要があるとかで……そこを間違えてしまうと、群れの中で喧嘩が増えて、群れが解散してしまったりするそうだ。


 恵獣ならそんなことになる前に話し合いとかでなんとかなるのでは? なんてことを思うが、恵獣もそういった本能には逆らえないらしく、人間側でしっかり順序を付ける必要があるんだとか。


 一度群れが壊れると新しい群れを作ったり、群れと群れの争いが起きたりして、怪我に繋がることもあり……精神的な負担で病気になることもあるそうだ。


 まぁー……たった二頭の、母子の群れでそんな心配する必要はないと思うのだけど、それでもルールはルール、たった二頭であってもしっかりしておかないと……と、真面目なアーリヒらしい考え方だと思う。


「はい、終わりました、グスタフ、待たせましたね」


 俺があれこれと考えているうちにグラディスのブラッシングが終わり、グスタフのブラッシングが始まり……グスタフは気持ちよさそうに目を細める。


 目を細めてうっとりとして……なんとも気持ちよさそうなグスタフの表情を見ながら、俺は俺ですべきことをしようと体を動かす。


 厩舎の前には恵獣用のトイレと食事場がある。


 トイレは……まぁ、掘った穴で、食事場は大きな桶となっている。


 トイレはある程度使ったら埋めて新しいものを掘る必要があり……お湯か、お湯でふやかした木の皮を入れる食事場の桶は毎日綺麗に洗う必要があり、それらの管理が今の俺の仕事という訳だ。


 基本、恵獣達の食事は餌場に連れていって済ませるものなのだけど、吹雪などで餌場にいけない場合はこの食事場を使うことがある。


 馬や羊のように飼い葉を食べることは出来ないので、お湯でふやかした木の皮がメインの餌となるのだけど……それもあまり消化には良くないので、お湯だけという日も多くなる。


 お湯に塩や砂糖を溶かすこともあるし、ドライフルーツや野菜を入れることもあるのだけど、基本的にはお湯だけで……1日か2日くらいなら、お湯だけでもなんとかなるらしい。


 吹雪が何日も続き、お湯だけで耐えられないとなったら、吹雪の中であっても仕方無しに餌場に連れていくか、それか苔を採取してきて、この食事場で食べさせる……ということもあるそうだ。


 まぁ、この辺りでそこまでの吹雪になることはそうはないのだけど……と、そんなことを考えていると、誰かがこちらに駆けてくる足音がして、振り返ると大慌てといった様子のサープの姿がある。


 ……なんだろう、また魔王が出たのだろうか? いや、それなら緊急事態だともっと大騒ぎになるはず。


 最近は狩りに出ても出会うのは普通の獣ばかりで、魔獣に出会うこともなかったし……なんてことを考えていると、こちらに駆け寄りながらサープが震える声を上げてくる。


「や、やべぇことになったッス!

 せ、先生が……先生が! 自分達を鍛え直してやるって言い出して、あれこれと準備を始めちまってるッス!

 あの人、めちゃくちゃ厳しいんでそんなのごめんだし、100歳超えちゃってて色々あぶねーしで、絶対ロクなことにならねぇッスよ!?」


 なんて声を上げながら俺達の目の前にやってきたサープは、肩を上下させながら荒く白い息を吐き出し……かなりの大慌てでここまで来たようだなぁ。


 サープの先生と言うと……サープにあれこれを教え込んだ、かつて村一番の狩人だったっていうあの人か。


 狩人人生の中で狩った魔獣の数はなんと400超え、狩りに出て一ヶ月戻らず、遭難して死んでしまったかと思われていたら、ある日に50頭以上の魔獣を狩って帰ってきたなんて伝説を持っている人だ。


「サープの先生と言うと、ジュド爺のことですか? ジュド爺はもうすっかり衰えて外に出ることも稀だと聞いていましたが……」


 ブラッシングをしながらアーリヒがそう声をかけると、サープは息を切らせながら言葉を返す。


「そ、そうッス、ジュド先生ッス!

 族長の言う通り、最近はすっかり弱ってたんスけど、魔王の話聞いたらなんかハリキリだしちゃって、前にヴィトー達と一緒に狩った魔獣の冷凍生肉とかを勝手に食って、なんか以前の力を取り戻しつつあるんスよ!!

 その上、ほら、家族に危ないって止められたのに高温のサウナにも入っちゃって、ドラー様の加護を受けたとかで……自分達の数十倍、いや数百倍狩りをしてる先生だもんだから、受けた加護も強力なものになってたみたいッス……!」


 火の精霊ドラーの加護は……身体能力を向上させた上で、衰えるのを防いでくれる、んだっけか。

 

 そのおかげで元気になって、老化での衰えも防いでもらって……100年の人生で貯めに貯め込んだ経験値で一気にレベルアップしたって訳かぁ。


 そんな話を聞かされてアーリヒと俺がどうしたもんだろうなと頭を悩ませていると……サープが駆けてきた方から凄まじい轟音が響いてくる。


「サァァァァァァァプ!! どこに逃げたぁぁぁ!

 魔王如きに苦戦しやがって、この出来損ないがぁぁ! また一から鍛え直してやるから、さっさとこぉぉぉい!!」


 その轟音の主はどうやら噂のジュド爺であるようで……サープは怯えて厩舎の陰に隠れ、グラディスとグスタフは驚き目を丸くし……そして厩舎の屋根の上で昼寝をしていたシェフィが驚きのあまりに屋根から落下し……雪の中に埋もれる。


 それを見てアーリヒは慌てて駆け寄ってシェフィを救出し始め……そして俺は、熟練の狩人に色々なことを教わる良い機会だと考えて、ジュド爺の声がする方へと向かって、


「こっちですよー!」


 と、そんな声を上げて手を大きく振ってみせるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


今回から新章開始となります。

次回はジュド爺のあれこれです。


そしてお知らせです。


書籍化が決まり、書籍化作業が始まり、それに伴い投稿済み部分全体の見直しを行っています。


誤字脱字、意味の分からなかった文章など修正している感じです


更にイラストレーターさんのデザインに合わせ、各キャラの見た目描写も修正しています

こちらの詳細は公開許可がおりた際に、イラストと一緒に紹介する予定です。


かなりの修正を行っていますが大きな筋は変わっておらず、読み直す必要はありませんので、気になる方だけチェックしてみてください。



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書籍版紹介ページ

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