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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第一章 スロー・スノー・サウナ・ライフ

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餌場


 朝目覚めて、身支度を整え着替えを済ませ、それからシェフィを頭に乗せて一応銃も取り出しいつでも撃てるようにして、グラディスとグスタフと共に恵獣の餌場へと向かう。


 餌場は村のすぐ側にある……というか、餌場のすぐ側に村を作っている。


 季節ごとに餌場を求めて移動するのが遊牧で、シャミ・ノーマ族は遊牧をしていて、今村があるのは冬営地……餌場とサウナがあり冬暮らすのに適している土地、という訳だ。


 湖の側、春になると湖から水が少しだけ流れ出てくる一帯に多くの苔が生えていて……そこに向かうと既に先客がいて、何頭もの恵獣が槍や弓矢を持った大人達に見守られながら食事をしている。


 そんな先客達に挨拶をすると、オスの恵獣の一頭がその鼻でもってあそこが良いと場所を示してくれて、グラディスとグスタフはそれに従ってその場所へと向かい……前足で軽く雪を掘ってから鼻先を雪の中に突っ込んでの食事を始める。


 モクモクと口を動かし、たまに力強く顔を振って苔を引き剥がし……それからまたモクモクと口を動かしゆっくりと食事を進めていく。


「……しかしアレだけの巨体、苔だけでよく保つよなぁ……いや、草食動物だから当たり前と言えば当たり前なんだけど」


 そんな食事の光景を見やりながら俺がそう言うと、頭の上のシェフィが言葉を返してくる。


『岩塩とかも食べてるし、樹液を舐めることもあるし、苔だけって訳でもないけどね!

 ちなみにあの苔、苔そっくりの見た目だから皆苔だって言ってるけど、菌類の仲間だから正しく分類するならキノコってことになっちゃうね』


「え、あれキノコなの? あんな見た目のキノコがあるの? 苔にしか見えないけど……」


 緑色でふかふかで春なんかは地面をびっしりと覆っていて、前世で見た苔そっくりで……試しに足元の雪を掘って確認してみるが、どう見ても苔でしかないが……かと言ってシェフィが嘘を言っているようにも思えない。


『もちろん苔が一緒に生えてたりもして苔も一緒くたに食べちゃってるんだけど、ほとんどがキノコだね。

 栄養満点で水分も豊富で食感も味も良くて……ランヴィにとってはごちそうって訳なのさー』


 更にシェフィはそう続けてきて、俺は「なるほどなぁ」なんて言葉を返しながらグラディス達のことをじっと見やる。


 目を細めて美味しそうにモクモクと口を動かし、昨日の晩食事が出来ていなかったからか、その勢いは凄まじく……いや、俺とグラディス達が出会う前から満足な食事が出来ていなかった可能性もある訳か。


 だというのにグラディスは文句も言わずに俺の考えなしの決定に従ってくれていて……うぅん、食事が終わったらたっぷりブラッシングをしてやらないとなぁと小さな後悔を抱く。


 幸いというかなんというか、恵獣の世話に詳しい人から恵獣用のブラシをもらっていて、それは今上着のポケットの中に入っている。


 そして今は早朝、村ではまだまだ朝食の準備が始まったくらいの時間帯で、食事の時間も狩りの時間もまだまだ先のこと、グラディス達の食事が終わればいくらでもブラッシングが出来る状況だ。


 ブラッシングは恵獣自身が喜んでくれるのはもちろんのこと、その毛の品質にとっても大事な行為で……ぱっと見では分からない程に長く細く、綺麗なその毛を整えることは、いずれ生え変わる時期に頂戴して服などをの材料にする俺達にとっては欠かしてはいけないことだったりする。


 ブラッシングすればする程、毛は切れることなく長く美しく伸び……その方が糸にもしやすく、糸から布を作る際の負担もうんと減って布の質も良くなるんだとか。


 つい昨日まで野生だったグラディス達の毛は短く毛羽立ち荒れ気味で、村でずっと世話をされてきた村生まれの恵獣の毛は長く伸びつやつやサラサラで……ブラッシングの重要さがよく分かる。


 そういう訳で食事を終えたグスタフが近寄ってきたならブラシを取り出し、グスタフの頭から足の先までを丁寧にブラッシングしてやる。


 下手なブラッシングをしたなら、


「ぐぅー!」


 と、抗議の声が上がるので丁寧に、長い髪の毛を梳くようにさっと流して……痛くないよう、少しでも気持ちよくなるように気をつけながら丁寧に。


 短くてピロピロと動く尻尾の先までそうやって梳いてやって、全身くまなくブラッシング残しがないってな状態までやるとグスタフが自らすっと俺の側を離れ……食事を終えて順番待ちをしていたグラディスと交代する。


 グスタフよりも大きい体のグラディスを丁寧にブラッシングしてやって……そこまで激しい運動って訳でもないのに長時間やっているからか息が切れてくる。


 家によっては30とか40とか、100頭以上の恵獣を抱えている家もある訳で、その全部をこんな風にブラッシングしていると思うと気が遠くなるやら、尊敬するやらで周囲で頑張っている大人達を思わず尊敬の目で見てしまう。


 そんな風によそ見をしても、


「ぐぐー!!」


 と、抗議の声が上がるので一瞬のことだけども、いやはや、これを毎日続けているとはすごい話だよなぁ……。


 俺もこれから毎日これをやっていく訳で、それがグラディスとグスタフの家族になった責任で……前世で持つことのなかった責任の重さを痛感しながらブラッシングを終えたなら、満足そうな顔となって少しだけつやっとした毛を揺らす二頭と共に自分のコタへと足を向ける。


『お疲れ様~』


 するとずっと頭の上で静かにしていたシェフィがそう言ってくれて……その言葉を噛み締め雪を踏みしめながら歩いていく。


 そうやってコタまで後少しという所で歩いていくと、遠目でもはっきりと分かる長身で美人のアーリヒがこちらに駆けてきて……その顔は良くないことでもあったのか青ざめていて、いつになく高く切実そうな声をかけてくる。。


「ヴィトー! 連日で申し訳ないのですがお願いがあります! 薬です、カンポウヤクをください! ミリイが……子供が一人風邪をひいてしまったようなんです!

 今はまだ症状は軽いですがあの歳で風邪が悪化すると命に関わります……! 確か引き始めに飲む薬があるとか、そんなことを言っていましたよね!」


 必死な表情で声を裏返らせて、そんなアーリヒを見るのは初めてかもしれないと驚きながら頷いた俺は、グラディス達をコタの中に入れて待っているように頼んでから、棚にしまっておいた漢方薬についての本を手に取り、アーリヒと共に子守コタの方へと駆けていく。


 そう離れている場所でもないし、そんな急変する病気でもないだろうから駆ける必要はなかったのだけど、アーリヒの狼狽振りが見ていられず、子供のためと言うよりもアーリヒのために駆けていって……途中立ち寄ったコタで水を借りて手を洗ってから子守コタの隣に急遽建てられた看病用のコタの中へと駆け込むのだった。



お読み頂きありがとうございました。

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