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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第五章

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装甲


 新ライフルでの射撃に苦しむ黒精霊だったが、ある瞬間から声も上げなくなり悶えなくなり、周囲が静まり返る。


 聞こえるのは息を切らしたグラディスの呼吸音だけで……ライフルを構えながら俺は、追撃をすべきかどうかと頭を悩ませる。


 もう倒せたとは思えないが、何かが置きているのは明白で、余計な手出しをしなければこのままグラディスが休めるかもしれず、判断に迷う。


 そう悩んでいるとグラディスが頭をくいっと上げて、その大きく広がる角で俺をつついてきて、こっちに遠慮しているなと叱ってくる。


 ならばとしっかり狙いを定めて二発目を撃ち、命中。


 また光と炎と風が巻き起こり……直後、黒精霊に変化が起きる。


 黒い精霊としか言えない姿をしていたその姿を補強するように鉄板が現れた。


 あの不自然な銃のように鉄板が、戦車の装甲のようにも見える大きなものが何枚も現れて黒精霊の体に張り付いていく。


『……あっちから取り寄せた? いや、作った?

 それにしては……こっちの思考を読んだ??』


 その光景はシェフィにとって衝撃的なものだったらしく、そんな声を上げてからあれこれと悩み始める。


 確かに目の前の光景は、そう言いたくなるものだけども……前世の世界の知識なんかを使ったにしては不自然だ。


 それならもっと良い装甲があったはず、あんなに不格好にはならなかったはず。


 では何故ああなったのか……?


 そもそも対戦車ライフルでもあるアンチマテリアルライフルもどきを前に戦車装甲って、対策になってないような……?


「ん~……? あ、そうか。

 ライフルから逆算したのか……!

 ライフルを見て、こういう装甲を貫くための武器だと判断して、後は銃と同じ感じで装甲を作り出したのか。

 ただそれだけじゃダメだから自分なりの強化なり改良を加えているはずだし、厄介そうだ」


 スコープを覗き込みながらの俺の言葉に、シェフィは『なるほど!』とそう言って張り付いた俺の頭をペシペシ叩く。


 納得したと手を打っているような感覚でやっているようで、それから声を上げてくる。


『なら攻撃する時は慎重に。弾は10発だけでもう1発撃ったことを忘れずにね。

 再装填は出来ないこともないけど、どうしても時間がかかっちゃうから、しっかり狙って―――』


 と、その言葉の途中でデタラメに張り付く装甲から銃口のようなものが生えてくる。


 それはまるで戦車の主砲のようで、すぐさま俺はグラディスに駆けるように指示を出し、グラディスが駆け出した所に主砲が弾を吐き出す。


 だがそれは戦車の主砲のようではなかった、どちらかと言うと砲丸投げのような弧を描いた弾道で何かが発射され、勢いなく地面に落ちる。


 同時に炸裂、周囲に衝撃と瘴気が撒き散らされる。


「銃でのピンポイント攻撃じゃ当たらないと見て範囲攻撃で来たか!?」


 なんて声を上げたならライフルを構えて改めてスコープを覗き込む。


 グラディスが駆けて駆け回り、それを追いかけるように黒精霊が砲撃、どんどん周囲に瘴気がばらまかれていく中、引き金を引く。


 ガァァァンと高音がなって装甲にぶち当たり、どうやら装甲は撃ち抜けたようだが、黒精霊本体に弾丸が届く頃には威力と精霊の力を失っていたようで、黒精霊にダメージはない。


 そうこうするうちに黒精霊を焼いていた炎が消えて……黒精霊の装甲に新たな銃口が生えて、攻撃回数が二倍に増える。


 手数が増えただけ広範囲に攻撃が可能になり、どんどんどんどん瘴気が撒き散らされ、その間に二発、弾丸を撃ち込んで……一発は装甲、一発は本体に当たって再び炎なんかが巻き起こったが、倒し切るには至らず、これで使った弾は4発、残り6発となる。


 このまま攻撃し続けているだけで良いのかと悩むが、グラディスの体力も無限じゃない、いつまでも逃げ続けるなど不可能だしとすぐさま攻撃を仕掛けようとする。


 と、その時、どこかから光が走ってきて黒精霊に直撃、黒精霊の装甲が一枚剥げ落ちる。


『封印浄化だ!』


 と、シェフィ。


 つまりはどこかで封印が行われて、浄化が行われて瘴気が消えて……そうか、瘴気が蔓延しつつある中ではそれが光に見えたのか。


 そしてまた光が走る、ユーラ達が頑張ってくれているらしい。


 なんて思っていたら三本同時に光が走ってくる、いや、ユーラ達以外の人も頑張ってくれているな。


 ……どう考えても人手が足りない気がすることを考えると、どこからか援軍でも来たか?


 なんてことを考えていると、5人程の仮面の……サイ魔獣がいた土地で見た仮面精霊が飛んできて、声なのか何なのか判別のつかない音をカラカラカラと上げる。


 そしてシェフィ達のように結界を作りながら黒精霊に迫り、やっぱり援軍が来てくれたようだ。


『よし今がチャンス―――』


 その言葉が終わる前に引き金を引く、今回のライフルは自動装填なので残りの弾丸を全連射で。


 光に襲われて装甲が剥げ落ちた上に、光に攻められて動けなくなっている今がチャンス、一発一発では効果が薄そうなので全弾を一気に撃ち込んでしまう。


『思い切ったねぇ!』


「グラディス一旦下がって!」


 シェフィと俺の声はほぼ同時、それでもグラディスはしっかり聞き取ってくれて、激しく燃え上がり黒精霊から距離を取る。


 距離を取ったなら弾切れとなったライフルをシェフィに預け、それからグラディスを撫でてやって少しでも良いから労う。


 その間、黒精霊は次々にやってくる精霊連合に結界の中へと押し込まれていく。


 多勢に無勢、かなりの力を集めている黒精霊であっても抵抗出来ないようだ。


 これは決着したか? なんてことを思うが油断は厳禁、用意していた水筒の口をあけてグラディスへ飲ませてやり、岩塩と黒糖での塩分補給もさせてあげる。


 水筒からの水分補給は何度も練習したこともあって完璧、岩塩と黒糖は大好物なのであっという間になくなり……とりあえずの水分栄養補給は完了となる。


『ポイント残り少ないから5発だけ、これでなんとかしてね』


 と、シェフィがそう言いながらライフルを返してくれて……それを受け取った俺は、5発で決着出来るものかと悩みながら、ライフルをしっかりと抱えるのだった。




お読みいただきありがとうございました。

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