元凶
風の精霊弾が直撃し、風が巻き起こって体温を奪い始める。
更に風が浄化された水を巻き上げることで精霊の力が宿っているらしい水までがキマイラにまとわりつき、動きが一気に鈍る。
「うぉらぁぁぁ!!」
それを見てかユーラが声を上げ、投げるために用意した雑な造りの槍を投げ始める。
それに続いて村の皆も槍を投げ……どうにか落ち着きを取り戻したらしいロレンス達も弓矢で参戦する。
キマイラはそれを受けて回避をしようとするが風と水がまとわりついてそうはさせず、飛び上がろうとしているのか遠距離攻撃を弾こうとしているのか、翼を懸命に振るうがそれもまた風が邪魔して上手くいかず、次々に攻撃が直撃。
血を拭き上げて地面に倒れ伏して動かなくなる。
「お……おぉ、数の暴力と言うか、人数がいるとあっさり決着するんだなぁ。
……それと風の精霊弾って翼を持つ相手には効果が高いみたいだね、やりたいことをやらせないで体力を奪う形になるから」
一応弾丸を再装填、いつ動き出しても良いように狙いをつけながらそう言うと……ウィニアがふらふらと目の前にやってきて照れているのか、両手で顔を覆うような仕草を見せてくる。
そうやってしばらくモジモジとし、それからゆっくりと口を開く。
『……今回は場所にも恵まれたね、ここ木々が多いけど風がよく吹く土地でもあるみたいだから、力に満ちてる……。
今回かなり役に立てると思うから、ガンガン弾を使ってね……!』
いつになく力強くそう言ってくれるウィニア。
地の利があって魔獣との相性も悪くない、ここぞという場面でこれはありがたいばかりで、
「頼りにさせてもらうよ!」
と、そう声を上げて次の襲撃へ備えて構える。
するとすぐに悪寒というか気配のようなものが周囲から迫ってきて……一体だけではないのだろう、複数の気配が圧力となってこちらに向かってくる。
今日はグラディスに跨っている、いざという時の回避などはグラディス任せで良い。
だからスコープにだけ意識を向けて……魔獣の姿を捉えられたらすぐさま引き金を引く。
一発、風の精霊弾を当てたらすぐに再装填、狙いを変えて更に迫ってきている別の魔獣へ撃ち込む。
そして再装填……風の精霊弾を当てさえすれば後は皆が倒してくれるものと信頼して、そんな戦い方を続ける。
撃って再装填、撃って再装填、撃って……と、そこでシェフィから声が上がる。
『そろそろ銃身を休めようか、精霊弾も使いすぎだよ、いやヴィトーが良いなら良いんだけど』
う、そう言われると困ってしまう。
確かにポイントがとんでもないからなぁ……一旦ライフルは担いで休ませることにし、猟銃を取り出し装填し構えを取る。
そうしてから改めて現状を確認する。
目の前には浄化が進む池、その向こうから迫るキマイラ達、数は5体、全てに風の精霊弾が命中していて、動きが鈍っている。
そして5体のうち2体は槍や弓が刺さって絶命寸前で……残り3。
うち1体にはユーラが、もう1体にはサープが、そしてそれに続く皆が迫っていて……ならばと俺は最後の1体に向けて銃口を向ける。
するとグラディスが駆け出して……風と水に巻かれて動きを鈍らせているキマイラへと突っ込んでいく。
頭を下げて角を前に出し、キマイラの顔を目掛けて一撃を放ち、角で力強く突き上げる。
そうして出来上がった隙に一発弾を撃ち込み、すぐさまもう一発。
それだけで倒せはしないがダメージは与えられているようでキマイラがよろける。
その間にグラディスはまた角で突き上げ……それから距離を取り、俺はその間に再装填。
グラディスが結構遠慮なしに動くので体に相応の負担がかかるが、加護があるので平気だと信じてしっかり踏ん張る。
グラディスは森の中を駆けて駆けて、駆け回って……木々を縫うようにして動き回り、ダメージからどうにか復帰したキマイラにまた突撃を仕掛ける。
すっかりと騎乗戦闘に慣れたらしいグラディスと、翻弄され続けるキマイラ。
まぁ、その立派な翼を精霊の力で封じられればそうなるのも仕方ないのだろう。
尻尾の鋭い攻撃もグラディスの身体能力には通じず、ただただ躱されるだけで……銃弾を打ち込まれればまたダメージでふらつく。
そして……ついにはグラディスの角での一撃が脇腹に突き刺さり……咆哮を上げて倒れ伏し、動かなくなる。
楽勝とまでは言わないけども圧倒していて……グラディスも経験を積んで加護を受けて、かなりの強さとなっているようだ。
これならば封印も順調に進むだろうと確信が出来て……そうこうしているうちに他のキマイラも討伐されて、すぐさまシェフィ達の浄化が始まり……周囲にまず清浄な空気が、そして当たり前の正常な光景が戻ってくる。
キレイな水に地面、そして木と風……完璧に林の姿となる訳ではないが、これからそうなってくれるのだろうと確信出来る光景となって……そんな光景をしばらく眺めたなら、先程の池へと戻り、一旦集合をする。
全員無事かを確認し、消耗した槍やら矢を工房で補充をし……休憩と水分補給も行い、今後どうしていくかを相談し合う。
ここを拠点とし更に浄化を進めるか……あえて魔獣を呼び込んでここで戦うか。
あれこれと話し合っていると、またも不穏な気配が迫ってくる。
慌てて立ち上がってグラディスの背に乗り、ライフルを構えて……どこから来ているのか気配を探ると、まさかの頭上。
空からの奇襲かと視線を上げると、そこには大きな……それはもう大きな精霊が浮かんでいた。
シェフィ達そっくりの姿だが何故か黒く、無駄に大きく気配があり……瘴気をまとっている。
「……は? え? ここの魔王は精霊なのか?」
と、俺がそんな間抜けな声を上げるとシェフィがすぐさま否定の声を返してくる。
『……違う! あいつが元凶だよ! 精霊を虐殺して力を奪った存在、魔法をもたらした災厄……。
……だ、だけどあの姿は何事だろ、昔はあんな感じじゃなかったのに……より精霊に近付いたのかな??』
……またとんでもない情報が出てきたな、おい。
かつて世界を滅ぼそうとしてシェフィ達に敗北、死後の呪いとして人類に魔法を与えて世界の瘴気汚染を進めていた犯人。
それが頭上の大きな黒精霊だそうで……混乱しながらも俺は、とりあえず倒すべきなのは確かなんだろうからとライフルを構えて、装填した精霊弾、シェフィが作ったそれを撃ち込んでやるのだった。
お読みいただきありがとうございました






