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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第五章

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獅子


 

 沼地の林までどうやって行くのか……その答えはゲート。


 遠征と聞いてそこそこ辛い移動を覚悟していたのだけど、そこら辺のことは全てシェフィが解決してくれるそうだ。


 だから遠征の準備と言ってもそこまでの準備ではなく、武器や防具など戦いのための準備がメインとなる。


 恵獣達も来てくれるので、蹄鉄や防具の準備や手入れもしっかりとして……角にもしっかりと武器をつける。


 ユーラとサープの恵獣にもしっかりと装備をさせて……他の男衆が連れていく恵獣にも同様の装備を。


 そしてシェフィ、ドラー、ウィニアの三精霊が同行し、瘴気から俺達を守ってくれるそうで……瘴気の中心地であるその森に入っても問題はないらしい。


 ロレンス達は現地集合……精霊達が守ってくれないロレンス達は大丈夫なのか? と、心配だったけども、どうやらロレンス達は既に体が瘴気に慣れきっているために問題はない、らしい。


 ……封印が無事終わって沼地の浄化が出来たなら、ロレンス達の浄化もする必要があるくらいには瘴気に慣れているそうで……魔獣の肉を食べる前にするような処理が必要なんだそうだ。


 それを全くしなくても何年か経てば自然と浄化されるらしいが……その間、体内に瘴気が残り続けるというのも問題で、浄化した方が良いらしい。


 そういう訳で準備が整った数日後。


 グスタフを抱っこしたアーリヒ、ベアーテ、ビスカを始めとした村の皆から見送られながらゲートを通り、検疫をしっかり行った上であちらのゲートを通ると……瘴気に汚染された森の光景が俺達を出迎えた。


 まばらに生える木、色は紫、何故か直角に曲がって枝らしいものがなく、幹に葉が生えている。


「うげっ」


 吐き気を催したのは男衆の誰かがそう声を上げて苦しみ始め……近くにいた別の男衆が自然とその背中を撫でてやる。


 こんな光景を見せられたなら誰だってそうなるよと、そんな同情的な空気が周囲に漂う中、シェフィ達が光の粉を周囲に撒き散らしながら踊り始め……まずは赤黒くうねっていた地面が浄化されていく。


 普通の土色、木の葉や苔、石などがないのでどこか畑の光景を思わせる地面が広がっていって……それを見ることでどうにか気持ちを立て直すことが出来る。


 これが普通の光景、自然な光景……本来あるはずの光景なんだと心が落ち着くことが出来て、空気も綺麗になっていくことで深呼吸が可能になる。


 シェフィが光を、ドラーが熱を、ウィニアがその2つを風で運んでどんどんと広げていって……とりあえず見える範囲一帯の浄化が完了すると、そこにロレンス達が合流してくる。


 ロレンス達はこれまでの調査やら何やらで結構な被害を被っていて……損耗した鎧と剣や槍などの装備でくたびれきった様子でやってきたが、周囲が浄化されている様子を見ると一変し、やる気をみなぎらせてくる。


「こ、これが浄化……」

「森が本来の姿に……」

「あぁ……魔法って本当に良くなかったんだな」


 なんてことを口々に言いながら周囲を見回していて……それを受けて精霊達はご機嫌となって更に浄化を進めていく。


 地面だけじゃなく木にまで浄化が及び、少しずつ木が元の形に戻っていくが、戻りきれず小さな枝と小さな芽が生える程度に留まる。


 ……が、それでもロレンス達には十分なのだろう「おぉぉ」なんて声が上がったりもする。


 そうやって一帯の浄化が終わったなら、コタの設営を始め……攻略拠点を構築、持ってきた木材で簡単な柵などを作り、火を起こし……数人をその拠点に残してから、林の攻略が始まる。


 精霊達の加護から離れる訳にはいかないので全員一塊で、少しずつ浄化をし魔獣達への挑発を行いながらの前進をしていって……魔獣達がやってきたなら一斉攻撃で対処する。


 ここの林はどうやら猫型魔獣の巣となっているらしい。


 巨大ライオンと巨大トラ……外見以外にどういった違いがあるのか分からないくらいに、動きはそっくりで攻撃法もほぼ同じ。


 柔軟かつ俊敏で強力……なのだけど、流石に数の暴力でどうにでも対処出来てしまう。


 誰かが盾を持って攻撃を受けて、他の何人かが一斉に槍を突き出し、俺が銃撃。


 あくまで普通の魔獣レベルの強さでしかないので、それでなんとかなってしまう。


 ……ライオンって確か群れで狩りをするはずなのだけど、単体でしか姿を見せない。


 群れで来られたら絶対に厄介だと思うのだけど……どうやらこの林の魔獣に群れの概念はないらしい。


 一体二体、三、四とどんどん魔獣を狩っていって、浄化をしながら奥へ奥へと進んでいると……大きな池? が視界に入り込む。


 黒い砂が蠢く空間を池と呼んで言いのかは微妙な所だけど、形状や周囲の様子、砂の蠢き方も池の水のようで……池っぽい場所ではあった。


「うわぁ」


 思わず俺がそんな声を上げるとグラディスが「ぐぅー」と返してくる。

 

 どうやら同じような感想を抱いているらしい。


『……とりあえず浄化してみるから、ちょっと待機してて』


 そうシェフィが声を上げて池の上に飛んでいって……また光をパラパラと振りまき始める。


 すると光を受けた黒い砂が激しく蠢き始め……これがまたなんとも気持ち悪い。


 蠢く砂漠というか、磁力を受けて動かされている砂鉄というか……そんな様子を見ていると、黒い砂が徐々に水へと変化していって……池に戻ろうとしている様子が見て取れる。


「本当に池だったのか……」


 誰かがそう呟く中、ドラーとウィニアもそれに参加し、三体の精霊がそれぞれの舞でもって浄化を進めていると……何か大きな岩が荒野を転がっているかのような激しく独特の音が響いてくる。


「魔獣の咆哮ッスか!?」


 と、サープ。


 皆の中でも特別に良い耳を持つサープには今のあれがそう聞こえたらしい。


 サープがそう言うのならそうなのだろうと、シャミ・ノーマの皆が武器を構えて緊張をし始め、それを見てロレンス達も遅れて武器を構える。


 そうして全員で警戒をしていると、どんどん先程の音が近付いてきて……そうしてついにその音の主が姿を見せる。


 獅子の顔、ドラゴンのような翼、まんま剣のような尻尾、鱗の生えた体。


 四足で立つそれは、ゲームのキマイラによく似ていて……先程から響いている音はそれの鳴き声のようだ。


 それの出現を受けてロレンス達が恐慌状態になる中、俺はすぐさまライフルを構えて……まずはこれからだろうと、風の精霊弾を撃ち込むのだった。



お読み頂きありがとうございました。

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