封印
懸命に駆けて駆けてワニから距離を取る。
と、言ってもワニもかなりの速度で駆けてくるので、そう簡単にはいかない。
頑張って走って走ってようやく少しの余裕が出るという感じで……しっかり構える時間はないだろう。
……だけども外す方がまずい、ここはしっかり当てておかなければと、それでも構えを取る覚悟を決めて、地面へと滑り込み、土埃を上げながら後ろへと振り返り、片膝立ちの形でライフルを構える。
猛然とこちらに迫って来ているワニに銃口を向けるのは中々の恐怖だったが、ここはもうやるしかないと覚悟を決めて狙いをつけて、引き金を引く。
額の辺りに装填した通常弾が命中、すぐさま立ち上がって駆け出し……駆けながら装填作業を行う
相手は爬虫類、体を冷やせば動きが鈍るはずだが……さっき撃ち込んだ風冷弾はいつ効果が現れるのだろうか?
サイ魔獣に二発使って、このワニに一発、これで風冷弾は全て使ってしまっている。
あとはスマート弾、火炎弾、通常弾となる訳だけども……冷却効果を狙っている時に火炎弾は論外なので、スマート弾か通常弾を使うという状況。
しかしスマート弾でどこかにダメージを与えても倒せるという確信がまだなく、しばらくは通常弾で戦うつもりだ。
しかしこの繰り返しは中々ハードなことになるぞと、吹き上がる汗を腕で拭っていると、シェフィから声が上がる。
『動きが鈍ったよ!』
すかさずさっきと同じように地面に滑り込み、ライフルを構えながらワニの様子を確認する。
確かに動きが鈍っている、もう駆けていない、実際に凍りついてはいないのだろうけど、凍りついたかのようなガチガチの動きになっている。
これなら……と、しっかり狙いをつけて引き金を引く。
目に命中、すぐさま装填し苦しみ悶えて咆哮を上げたいのに体が上手く動かないと、そんな悶え方をしているワニのもう片方の目も撃ち抜く。
こんな構え方でも当たるもんだなと感心しながら再装填。
次はどこを狙うか……と、考えていると最初に撃ち抜いた目から流れる血が止まってしっかりと見開かれ、傷一つない瞳がぎょろりとこちらを睨む。
「……再生している……!!」
そう声を上げながら引き金を引いて、その目を再度潰し……この再生速度では攻撃を繰り返しても無駄だろうと悟る。
焼けばなんとかなる……か? そんな神話があった気もするけども……いや、動きが鈍っているうちに確実に命中させた方が良い。
また追いかけっこが始まったなら確実にこちらの体力が先に尽きる、今でも結構疲れが出ている状態で……覚悟を決めて火炎弾を装填し、狙いを付ける。
そして引き金を引く、着弾そして大発火。
あっという間にワニの全身が炎に包まれるが……ワニは炎の中で動いていて、効いているようには見えない。
いや、全くノーダメージではないのだろうけども、倒せるという実感がない。
火炎はしばらく続く、ならばと通常弾を装填して、次々に撃ち込むが……効いているのかいないのか。
なんとも不安に思っていると、声が響く。
『よーくやってくださいましたぁ!!』
それはいつかに会った仮面の精霊の声だった。
その声の主はワニの上空に構えていて……大きな木製の杭のようなものを、精霊の力でなのか持ち上げていた。
杭の大きさはかなりのものだ、3mかそれ以上、太さもあって先端は尖っていて……そしてそれを一気に降下させ、未だに炎に包まれたままのワニへと突き立てる。
瞬間咆哮が響き渡る。
炎に熱せられたからなのか、杭の一撃が余程に強烈だったのか、空気さえも震わせる程の咆哮で……その咆哮の衝撃が炎を消し飛ばし、そして咆哮の終わりがワニの命の終わりだということも示す。
ぐったりと地面に伏せて動かなくなり……そしてワニから、と言うか杭から一気に柔らかな光が広がっていく。
眩しいような光ではなく、柔らかな光で……その光はどうやらワニではなく、杭から広がっているようだ。
『このワニは瘴気と繋がっていたのです。
そして瘴気はヤツが残した呪いと繋がっていました、それが良い具合に弱ってくれたので楔を打った、という訳です。
これでこの辺りではもう、呪いは発動しません、あの邪法も発動しません……もう二度とこの地に瘴気が広がることはないのです!』
と、仮面の精霊。
……理屈はよく分からないが、魔王級の魔獣が絶命する前の段階、瘴気と繋がった状態で杭を打ったことで封印、のようなことが出来た……らしい?
『あ~~、そういう手があったかぁ。
こっちの精霊は賢いねぇ……確かにこの手なら、一気に浄化を進められるね。
魔王討伐も効果は大きいけど、こっちのがより大きいや、考えたなぁ。
……ねぇねぇ、この手、広めても良い? あとさ、うちでも使いたいんだけど良い?』
と、シェフィ。
すると仮面の精霊は、
『もちろんですよ! これが上手くいったのもワニを弱らせてくれたおかげです。
どんどん広めて他でも封印を進めてください。
……邪法に手を染める人間達がいる地でも同じことが可能でしょう。
それをされたら連中は困ってしまうのでしょうが……しかしもう世界も我慢も限界というもの。
便利過ぎる邪法からは離れてもらって、自分達の足でもって歩いてもらうことにしましょう』
と、そう返してくる。
……それはつまり、沼地でも同じようなことをしろと、そう言うことなのだろう。
それをされたら沼地では魔法が使えなくなり、何もかもが不便になるのだろうが……世界としてはそれが正しい状態なんだし、こちらでも科学という未来は築けるはずで、そちらの方向に進んでもらうしかない。
ビスカさんがそういった情報をまとめ始めているし……科学的な生活方法も彼女なりに生み出そうともしている。
後は沼地にそれが広がれば……未来はある、はずだ。
「……そうするとシェフィ、遠征は一旦終了で次は沼地かな?
沼地にいって、そこにいるらしい魔王級の討伐と封印になるんだよね?」
俺がそう問いかけるとシェフィは満足げな顔でコクリと頷く。
『そうなるね!
まぁ、ボクもボクの杭を使ったりで忙しくなるけど、これは嬉しい忙しさで、全然苦じゃないかな!
楽しく頑張って……沼地を封印。
それが世界に広がれば……うん、本当に世界の浄化ができちゃうかもしれないね』
それからシェフィは弾む声でそう言って……嬉しそうに微笑む。
これは凄い話になってきたなと、そう考えながら立ち上がった
俺は、汗に張り付いた土埃を拭ってから……俺も頑張らないとなと、そう決意しながら恐らく勝っただろうユーラ達の下へと足を進めるのだった。
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