大物
風冷弾の良い所は、一発当ててしまえば、長時間のデバフとして効果することだろう。
体の熱が奪われれば動きが鈍くなる、場合によっては動けなくなる、凍傷になる……そして死ぬことすらあるだろう。
2人の援護をするには最高の弾丸で……誤射だけはする訳にはいかないので、しっかり狙えるように2人から距離を取る。
何しろ獲物はライフルで、構えるだけでも結構なスペースが必要で、近距離過ぎては狙いも何もないので、とにかく走って距離を取り、滑り込むように地面に伏せて狙いをつける。
ユーラとサープは俺がそうすることを風冷弾を装填した時点で察していたようで、狙いやすいようにサイ魔獣と押し合い押し込み、相手を動けなくしている。
急所に当てる必要はない、体のどこかに当てればそれで良い訳で……出来るだけユーラ達から離れた場所、背中や尻に狙いをつけて……引き金を引く。
正直サイ魔獣相手なら使う必要もないのだろうけど、実戦で試しておくのは大事なことで、着弾を確認したなら再装填、もう一体へと狙いをつける。
そして発砲……どちらにも着弾し、スコープを覗いて様子を確認してみるが、まぁー、視覚的に風がどうなっているとかは分からないよなぁ。
何かが起こってはいるはずで、魔獣の体温を奪っているはずなのだけど、それもまたすぐに効果が見えるものでもなく、どう判断したら良いかなんとも言えないな。
まぁ、その辺りはユーラとサープに後で確認したら分かること、
「風冷弾は効いているはずだよ!」
と、声を上げて2人に戦うよう促し……それから立ち上がった俺は、通常弾を装填してから周囲を見回し、他に魔獣がいないかの確認をする。
一対一ならユーラ達が負けるはずはないし、警戒を優先すべきで……スコープも使いながら周囲を見回すが、特に魔獣の姿は見当たらない。
……瘴気で変化し、気が滅入る光景であることを除けば、平和そのもの……だけども、こんな瘴気だらけの世界でたったの2体だけ、なんてことあるのだろうか?
10体とか、それ以上の数で来てもおかしくないはずで……警戒をし続ける。
歪んだ石に木、変色した地面……ぐるりと見回していると、一瞬違和感がある。
何度か見回す中で景色が変化していたような……いないような。
流石に景色そのものを記憶しようとはしていなかったので、その違和感の正体は掴めないが……改めて周囲を見回してみて、違和感を覚えるその一帯だけを注視する。
さっきと一体何が違うのか、何に違和感を覚えたのか……スコープもしっかり使って警戒をしていると、シェフィがやってきて頭に着地、声をかけてくる。
『うん、その辺りに何かいるよ、ボクも何かを感じるから。
……多分だけど、地面じゃないかな』
そう言われて地面を見つめる……少し膨らんでいる、か?
地面の下から持ち上げているような……いないような、元からそういう地形だったかもとも思ってしまう。
しかしシェフィまで何かを感じ取っているなら、気の所為ではないはずで……ならばと盛り上がっている部分に狙いをつけて、そこに弾丸を撃ち込む。
まさか瘴気まみれの地面の中に人が潜っているということはないだろうし、魔獣ではない獣なら……食べて供養するということでの先制攻撃だ。
地面の奥深くなら弾丸では貫通出来ず、ダメージは与えられないはずだけども、地面を今まさに盛り上げようとしているのなら、ダメージを与えられる可能性はあるはずで……結果は大成功。
盛り上がった地面が蠢き、そこに隠れていた何かが地面を割って姿を見せて……上がる土埃を眺めながら通常弾を再装填する。
かなり大きい、地面の中からこちらの様子を伺って奇襲を仕掛けようとしていたらしいそれは、普通にやってきたなら図体のあまりの大きさに、あっという間に発見となって、奇襲など出来なかったはずだ。
土煙が晴れるのを待っても良かったが、それも悠長過ぎると引き金を引いて土煙の中に打ち込んで、再装填。
二発三発と撃ち込んだ所で、周囲の地面を震わす大咆哮があって……その咆哮が吹き飛ばしたのか、土煙が晴れて魔獣が姿を現す。
「まさかのワニ!?」
と、そんな声を思わず上げたくなる程に、それはワニだった。
一般的なワニとそう変わらない姿だけども、とにかく大きく地面から上半身だけを出した状態なのだけども、それだけでもかなりでかい。
大型トラックサイズのようなワニが、地面から顔を出していると、そんな感じの状態で……あれが動き出したらヤバいと感じ取った俺は、すぐさま引き金を引いて通常弾を撃ち込み、それから風冷弾を装填する。
爬虫類なら冷気に弱いはず……弱くあってくれ。
そんなことを願いながら、ポイントのことは気にせず撃ち込む。
すると全くの偶然なのだけども、最初に撃ち込んだ通常弾を目の下辺りで受けて、それに怒ったワニ魔獣が咆哮を上げようと、その大アゴを開いた所に風冷弾が飛び込む形となって、口の中に着弾する。
今までの弾全ては、そのワニ皮に弾かれていたようだけど、口の中となるとそうもいかないようで、着弾点から血が吹き出す。
精霊弾は特殊能力がある弾丸で、当然普通の弾丸としての威力も有している、ダメージを与えた上で、冷却出来るとなれば最高の結果で……もう一発撃ち込んでやろうと、再装填をしていると、明確なダメージを受けて我慢出来なくなったらしい大ワニ魔獣が地面から這い出てきて……そして明確な怒りその目で表現しながら、こちらへと物凄い勢いで突き進んでくる。
短い足でのっそり歩いてくるのかと思ったら、短い足で力強く地面を蹴って、跳ねるようにして上下に体を揺らしながら駆けてくる。
足だけでなく尻尾でも地面を叩いてズドンズドンと予想なんてしてもいなかった姿での猛追に、俺は慌てて立ち上がって、ライフルを抱えながら駆け出す。
そうしながら再装填……このままライフルで戦うか、猟銃で戦うかは悩ましい所だけど、あんな化物に通常弾でどうこうはできそうにないので、ライフルで戦うことを決断する。
ライフルで逃げながらの近距離戦っていうのは、なんとも不利極まる話だけども、こうなってしまってはしょうがない。
覚悟を決めて懸命に駆けて……そうしながらどうにか大ワニ魔獣に弾丸を撃ち込んでやる機会を探っていくのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はVSワニです






