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この世界

 

 精霊弾を使っていく方針が決まって、村に戻って広場に向かうと……広場の中央に作られた、祭壇と言って良いのか、とにかく精霊を称えるために作られた場が完成していた。


 どこかで発掘したらしい化石……恐らくマンモスとかの牙を二本、地面に立てて、先端を中央に向けて配置、その牙の先には先日シェフィが作った宙に浮かぶ地球儀が配置されていて……地球と同じように回転しているらしいそれの表面では、雲なんかもしっかりと動き続けていた。


 宇宙から見た地球をリアルタイムで反映しているといったそれは今、皆にとっての娯楽であり信仰先であり……熱心に祈っている人もいれば、興味深く眺めている人もいて、そんな中でも特に熱のこもった視線を向けているのは、ビスカとベアーテだった。


 ビスカは学術探究的な意味で地球儀を眺め続けている。


 実際の地理どうこうよりも、雲の動きなどを手元の紙束にメモし続けていて……気象学に近いことを研究しようとしているようだ。


 一方ベアーテは、自分達で作ったらしい海図を片手に地球儀を睨んでいた。


 地球儀の海の部分を見ると、小さな島までしっかりと再現しているし、大荒れとなっている海は白波になっていたり小さくうねっていたり、海流までしっかり再現しているようで……そういった情報を海図に書き込んだり、海図を修正したりしているようだ。


 その海図にはどの辺りが青いか、赤いかも書き込んでいて……ただ海図として役立てるだけでなく、しっかり浄化のことも考えてくれているようだ。


 そういうことなら特に言うこともないかと、その場を立ち去ろうとすると、海図や地球儀から一切目を離さずに、ベアーテが声をかけてくる。


「なぁ、この真北と真南にある白い塊はなんだ?」


 ん? それは当然北極と南極で、ヴァークの勇者ならば行ったことがありそうだと一瞬思うけども、まさか砕氷船なんてものはないだろうし、行ける範囲にも限りがあるだろうから、その全容を掴めていないのかな。


「それは……前世の世界では北極と南極と言われていた氷の大地だね。

 地球上……この世界でもっとも寒い二つの地域で、夏になると地面が顔を出す地域もあるらしいけども、ほとんどが氷に覆われたまま……なんだったかな。

 俺もそこまで詳しくないけども、極寒の極限世界だから、そこに入り込むのはオススメしないよ。 

 見ての通り真っ白で、赤くも青くもない……こっちの世界においても特別な地域になっているみたいだからさ」


 と、俺がそう返すとベアーテは「なるほどな」と、そう言ってからまた海図に何かを書き始める。


 ある程度書き進んだ所でこちらに向き直り、どこか遠くを……北の方を見やりながら口を開く。


「極限世界ということは、ここよりも寒いということなのだろう?

 しかも一年中氷に覆われることもあるとなると……どんな生物も存在しないのだろうな」


「いや? そんなことはなかったはず。

 海の中にも色々な生物がいるし、氷上で生活している動物もいるはずだよ。

 ……いやまぁ、こっちの世界でどうかは知らないけど、前世ではいたかな。

 ホッキョクグマという直球な名前をつけられたクマとか、ペンギンと言われる風変わりの鳥類とか。

 色々な生物がいたはず……だけど、もちろん全くの無生物地域もあった、はずだよ」


「……いるのか!!

 他に何か、北極か南極の面白い話はないか?」


「え? うーん……

 えーと……あっ、あれは北極と南極、どっちにあったんだっけかな、とにかく氷河って言われる氷の川があるんだよね。

 ただ川が凍ったものではなくて、少しずつだけど動いているんだよ、川のようになった氷の塊が。

 だから氷河と呼ばれていて……探せば北極、南極以外にもあるかもしれないね」


 と、俺がそう言うとベアーテはソワソワとし始める。


 冒険心がうずいているのか、今すぐに探しに行きたいといった印象だが……現状の自分が行くのは難しいと理解しているのだろう、地球儀を改めて眺め始める。


 そうすることで冒険心を慰めようとしているのかな? なんてことを思ったのだけども、背伸びをして顔を近づけて、必死に地球儀の表面を見ていて……ああ、なるほど、地球儀から氷河を見つけようとしているのか。


 だけど確か氷河の動きって、本当に少しずつで目で見て分かるようなものではなかったはずだけども……。


 ああ、でも地球儀サイズでなら大きい氷河全体の動きを見て取れる……かも?


 まぁ、何にしてもワクワクしながら覗き込んでいるのだから、それに水を差すのも悪いだろうと何も言わないことにして、その場を立ち去る。


 そうして自分のコタに向かったなら、改めて精霊弾の確認をし……それからイメージトレーニングを始める。


 それぞれの精霊弾をどんな場面で使うのか、どんな敵に使うべきなのか、切り札である火炎弾を使う基準はどこなのか……などなど、いざという時に焦ってしまわないように、今からあれこれと考えていく。


 火炎弾を使った後に風冷弾を使えば火の勢いを増すことも出来るだろうし、他にも色々な使い方があるはず……。


 今のうちに考えられるだけのことを考えて、練り上げていく。


 すると何処かに行っていたシェフィが戻ってきて……頭の上に降りてきてから声をかけてくる。


『うんうん、色々と考えるのは良いことだよ。

 精霊弾の組み合わせも悪くない発想だね、後はあれだね、盾も再活用してみると良いよ。

 ライフルの登場でどうしても持ちにくくなっちゃったけど、使い道は色々あるからね。

 それと……連中も動き出しているみたいだから、そこを忘れないようにね。

 順調だったはずの汚染が急に頓挫して、どんどん浄化されて……焦っていると言ったら良いのかな、どうにかしようと四苦八苦しているみたいだね。

 ……もしかしたら諸悪の根源である、大魔王も復活しちゃうかもね。

 彼らの望んだ形ではない、不完全な形だけども、ここで何もしないで眺めている訳にはいかないから、何らかの手は打ってくるはずだよ』


「……分かったよ。 

 もっと色々考えて、そうなった時のための備えも進めておくよ。

 ……それにそうなったらシェフィ達も助けてくれるんでしょ?」


『それはもちろん。

 ……アイツのやったことはズルもズル、ボク達よりももっともっと高位の存在が介入してもおかしくない、とんでもないことだったからねぇ、二度目はないよ、もうやらせないよ。

 完全に浄化しきっちゃわないとね』


「……やっぱり高位の存在とかもいるんだねぇ。

 ……なんでその存在は介入してこないの?」


『高位過ぎるんだよ。

 高位過ぎて力も強すぎる……彼らが介入したなら、ほんの数秒で瘴気の全てと魔獣とアイツも完全に抹消出来るんだけど、その反動で世界もぐっちゃぐちゃになっちゃうからね。

 ……そうなるとこの世界は、地球誕生当時と同じような環境になって、また生命と精霊誕生のとこからやり直すことになっちゃうんじゃないかな』


「あ……そういう……。

 うん、分かった、そうならないで済むように頑張るよ」


 と、俺が返すとシェフィは、嬉しそうに弾んだ声で『頑張ってー』と、そう言ってから俺の頭をペシペシと叩いてくるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回は実戦、のはずです。

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