精霊弾
カタログの吟味は翌日も行うことになった。
何しろ特殊弾はどれも高ポイント……一発5000ポイントから、砂糖や塩、ショウガなどの調味料1年分よりも多いポイントとなってしまっていて、迂闊に決めることが出来なかったからだ。
日課をこなして悩み、グラディス達の世話をして悩み、鍛錬代わりのランニング中も悩み……と、そうしていると、悩みすぎている俺を気遣ってくれたのか、シェフィ達がオススメの弾丸を教えてくれた。
……と、言うか特殊弾丸はシェフィ達が作ってくれたものだった。
シェフィが作ったのが精霊スマート弾、発射後は精霊が完璧に管理し、逃げる相手を追いかけるのはもちろん、目や甲殻の隙間などの急所を狙ってくれるらしい。
ドラーが作ったのは火炎弾、着弾と精霊の力が炸裂して大発火を起こすらしい。
グレネードランチャーとかの火炎弾のようなものかと思ったけども、着弾した弾から大発火を起こすので……場合によっては相手の体内で発火を起こすというえげつない弾丸だ、しかも精霊の力なので湖に飛び込んだとしても消火が難しいらしい。
それをライフルで撃ち込めるっていうんだからとんでもない。
ウィニアが作ったのは風冷弾、着弾後、風がまとわりついて相手の体から熱を奪うらしい。
熱を奪われれば動きが鈍くなるし、場合によっては命に関わるということで油断出来ない効果だ。
風の精霊ということでカマイタチでも起こせるのかと思ったけども……ウィニアが言うには、風にそんな力はないそうだ。
俗に言うカマイタチの被害はあかぎれのようなものが悪化したものだろうとのことで……ただ斬りつけるよりも体温を奪う方がよっぽど凶悪だし、効果的なんだとか。
更には埃や砂を巻き上げて相手の目や耳、鼻なんかに送り込んでの妨害もしてくれるそうだ。
……個人的にはこちらの方がキツそうに思える、俺がそれをやられたら狙いもつけられずに無力化されてしまうことだろう。
スマート弾が5000pt 火炎弾が1万pt 風冷弾が6000pt
ポイントの差は製作や発動に必要な精霊の力の差によるもの、とのことだった。
こうなると全部欲しくなるけども……しかし高額が過ぎる。
三種を複数もらったらポイントはすっからかんになってしまって……いざという時の補充などが出来なくなってしまう。
しかし厄介な相手が現れた時のために保険としてどれかは欲しいし……どれにすべきだろうか?
扱いやすさで言えば圧倒的にスマート弾、火炎弾は本当に火が出てしまうので、延焼などの危険性があって……他の弾にその心配はない。
だけども火炎弾の威力は絶大で……最低でも一発は欲しい所だ。
スマート弾や風冷弾は複数欲しい……と、大体まとまって来た所で、ランニングの足を止めて、俺がどういう決断するのか気になって、ずっと追いかけてきていた精霊達に声をかける。
「……とりあえず、火炎弾は威力がヤバそうだから切り札として一発だけ。
汎用性の高そうなスマート弾を3発、風冷弾を3発で考えているんだけど、どうかな?
……それ以上はポイントが足りなさ過ぎるから、厳しそうなんだよねぇ」
切り札扱いをされたドラーは大満足、汎用性が高いと言われてシェフィもそのつもりだったと頷いていて、ウィニアは注文が入っただけで嬉しそうだ。
三精霊それぞれ文句はないようで……俺が「じゃぁそれで」とお願いすると、それぞれニッカリと笑って、工房へ入って作業をし始める。
あ、ここでするんだ。
なんてことを思いながら、その場で出来る筋トレやストレッチをして完成を待ち……そうこうしていると、シェフィ達がベルト付きの小さなカバンを持って工房から出てくる。
革製のカバンで……マグネット式の蓋があって、そんなカバンを受け取って蓋を開けてみると、中に革の仕切りがあって、そして中に弾丸が……先端を下に向けた形で入っていた。
「えっと……この赤く塗装されているのが火炎弾、白が……スマート弾? そして緑が風冷弾で良いのかな?
……なるほど、普段はこのベルトを付けて持っておけって訳だねぇ。
シェフィ、ドラー、ウィニア、ありがとう」
と、俺がそう言って軽く頭を下げると、三精霊はからからと笑い、そしてシェフィが代表する形で声を返してくる。
『気にしないでいーよ! ポイントをたくさん支払ってもらうと、ボク達にも報酬みたいなものが入る仕組みだから!
今回の注文でだいぶもらっちゃったからねぇ……しばらくはデザート食べ放題のフルーツ食べ放題生活が待ってるね!』
「……そ、そうだったんだ。
銃を除けば過去一番の値段だったからなぁ……かなりの報酬が楽しめそうだね」
『うん! しばーらくは楽しめちゃうね!
……だからヴィトーも頑張って魔獣を倒してポイント貯めて、ポイントを使っちゃってね!』
……なるほど、つまり俺達が魔獣を倒すと世界が浄化されるだけでなく、そういった利点もある訳だなぁ。
もちろん世界をなんとかしたいという純粋な想いもあるんだろうけど、そこにしっかり報酬も出ているという訳だ。
……誰から出ているんだろう? という疑問の答えは、上層部? だろうか。
……まぁ、シェフィ達以外にも精霊がいて、精霊の社会みたいなものがあるらしいから、そういった存在がいてもおかしくはないのだろう。
精霊は自然の権化だから……最上位の精霊となると太陽の精霊とかになるんだろうか?
と、俺がそんなことを考えていると、シェフィが勝手に心を読んで、その答えを返してくる。
『太陽もまぁ、自然の一部だけどね、あれは宇宙にあるものだから、管轄外かな。
太陽には太陽の精霊がいるけども、わざわざこっちに来たりはしないよ。
……で、こちらの最上位はマグマとか酸素の精霊になるかな、それらがないと地球は困ったことになっちゃうからねぇ。
もちろん他の色々大事なものにも精霊がいるから、言い始めるとキリが無くなるんだけどね』
マグマの精霊と酸素の精霊……は、初めて聞く存在だなぁ。
まぁ、確かに地球にとっては欠かせないし、どちらも凄い力を持っていそうではあるけども……。
しかし酸素……酸素の精霊ってことは、元素それぞれの精霊とかが存在していそうで怖いなぁ。
水の精霊とかは、酸素と水素の精霊の子供とかになる……んだろうか?
『ん~~~、科学っていうのはあくまで人間が規定したものだからさ、それで精霊を定義しようとしてもおかしなことになるだけだよ。
人間だって精霊の定義のために元素という概念を作り出した訳じゃぁないからねぇ。
精霊を定義したければそれ用の学問が必要になってくるから、科学で考えない方が良いよ』
と、更にシェフィ。
……なるほど……なるほど?
分かったような、分からないような……まぁ、シェフィがそう言うのなら、その通りだと思っていればそれで良いか。
と、そう納得した俺は、弾丸を入れた箱……弾薬盒とか呼ばれるそれをしっかりと腰に巻き付けてから、ランニングの続きをすべく森の中を駆けていくのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は実戦投入です