カタログ
村の皆のリクエストをまとめると、日々の生活に必要な日用品が主のようだ。
今まで作ったもの、頑張ればそこらで手に入るけども量が少ないもの、精霊の工房じゃないと手に入らないもの……などなど。
そんな中で特に目立ったのがショウガをリクエストする声の多さで……他の品に比べて3・4倍どころじゃない数の声が上がっている。
「……いや、全然良いんだけどなんでショウガ?
サウナに使って気持ち良いのは分かるし、料理に使って美味しいのも分かるんだけど、そこまで……?」
皆の声をメモしながらそんな声を上げると、大人達が口々に理由を言い始める。
「いや、ショウガ食べると肩が気持ちよくてなぁ……固くなってるのが楽になるんだよ」
「体の調子が良いし、ダルさが消えるんでな、毎食でも食べたいくらいだ」
「体がぽかぽかして、色々楽になるんですよ」
「食べれば食べる程、元気になっている感じがします!」
などなど。
「……そこまで??
……いや、ショウガの効能としてはどれも正しいんだけども……えっと、シェフィ、工房産だから特別、とか?」
『いや、傷みにくいとか、品質が良いとかはあるけど、普通のショウガの範疇だよ。
不慣れだった分、効果が出やすい……のかな? まぁ、元々体に良い食べ物だからねぇ。
……あと、ヴィトーは気付いていないみたいだけど、皆たくさん食べるから、それはもう本当にたくさん』
シェフィに尋ねるとそんな答えが返ってきて……料理係の人に視線を送ると「大体一食でこれくらいですね」と、ショウガを手にとってみせる。
ほとんどショウガの大きなコブ1個と言ったら良いのか、かなりの量を一食で……しかも一人で食べてしまっているらしい。
ショウガに不慣れな人達が、そんな感じで食べまくっているから効果が出ている……というか、慣れている人でもそれだけ食べたら、ハッキリとした効果が出るのは当然か。
……確か食べすぎるとお腹壊したりすると思ったのだけど、まだそこまでは行っていないのか、皆の耐性が高いのか……。
「えぇっと……食べ過ぎには気を付けてくださいね?
食べ過ぎるより、毎日少しずつを食べ続ける方が体に良いはずですから……。
……それと流石に飽きも来るはずですから、ショウガの色々な製品を作りますよ。
……シェフィ、良いよね?」
『ルールを守るなら全然良いよ。
……で、何作るの?』
と、そう言われて俺はとりあえず容れ物となる、ツボやらを用意してもらってから、今回もらったポイントを使って普通のショウガだけでなく、ショウガ関連製品を色々作っていく。
乾燥ショウガ、ショウガの酢漬け、ショウガの蜂蜜漬け。
……他にもCMとかでよく見た、桃色に漬けたショウガ漬けまで気を利かせてくれたシェフィが作ってくれて、結構な品が揃っていく。
「……そう言えばショウガって加熱した方が効果が高まる……んじゃなかったかな、確か。
だからそのまま食べるよりも料理とかで楽しんだ方が良いんだろうねぇ。
……あとはお茶かな、ショウガ系のお茶にしたら加熱しながら楽しめて良いと思うよ」
と、工房の作業中に俺がそう言うと、シェフィが気を利かせてショウガ茶用の粉末ショウガまで作ってくれる。
今回はポイントがかなりもらえたので、ショウガをたくさん……山程作ることが出来て、皆が満足するだけ作ったなら、今度は塩や砂糖などなどの普段使いする品々を作っていく。
今は春なので乾燥ハーブなどは必要ないけども、そこら辺は必須で……こちらも十分な量を作っていく。
『ついでだから武器とかもメンテしたし、弾丸も補充してあげるよ。
……他はどうする? 何か新しい武器とか考える?』
食堂でどういうついでなのかと思ってしまうけども、お世話になっている身でそこまでは言えず、真剣に答えを返そうと頭を悩ませる。
猟銃とライフルで狩り自体は出来ている……けども、サイ魔獣は中々苦戦させられた。
改善するとなると……うぅん、銃の性能どうこうよりも、弾丸をどうにかするとかになるのかなぁ。
威力があるとか、貫通力があるとか……ライフル銃にそんな弾があるのかは謎だけども、拳銃には色々な種類があったはずだから、そこら辺を上手くやれたら……。
と、そんな事を考えていると、シェフィが本を作ってこちらによこしてくる。
漢方薬の時と同じようなその本には『精霊工房特性、あなただけの特別な弾丸カタログ!!』の文字
……また今回もとんでもないタイトルつけてきたなぁ、と軽く引きながら開いてみると、確かに中身は弾丸についてのカタログだった。
まずは猟銃の一発弾、散弾……散弾もいくつか種類があるようで、それがズラッと並んでいる。
今までは散弾としか認識していなかったけど、散弾にも弾の大きさとか数とか種類とか色々あるようだ。
……それはまぁ、そうか、当たり前か。
一発弾にも色々とあって……ページをめくっていくとライフル弾の紹介コーナーが始まる。
普段使っている弾が最初で、様々なメーカー? と思われる名前が並んで……大きさが違う弾もちらほら。
大きさが違う弾をカタログに載せられても使えないのでは? と思ってしまうけども、シェフィの表情からすると、精霊の力でなんとかなってしまうようだ。
弾頭が細くなっていたり、弾丸そのものが軽くなっていたり……飛距離などを伸ばす工夫がされた弾丸もあるようだ。
そんなカタログの中間辺りには何故かパントガンと呼ばれる銃の弾丸も並んでいる。
……これを一体どうしろというのか。
確かパントガンは持ち歩くような銃ではなく、パント……つまりは平底船に乗せて使う『砲』だったはず。
船に固定し、狙いをつけながら船を水鳥の群れに近付けて……ここだという所で発射。
散弾を狙撃銃レベルの精度で放つことが出来て、一発で50羽も狩れたとか。
水鳥は警戒心が強いので普通の銃を撃って一羽か二羽を狩ったなら、その発砲音に驚いて散ってしまって二度と戻ってこない、それは勿体ないということで考案されて……あまりにも狩れてしまうからと、水鳥の絶滅が危惧されて使用を禁止された一応は『猟銃』だ。
猟銃だからカタログに載せたのか、何かのジョークなのか……判断に困りながらページをめくっていくと、今度はスマートバレットの文字。
「……スマートバレットって、弾丸にAIだかを組み込んで標的を自動追尾する弾丸だっけ?
……これって実現してたの? 海外ドラマで出てきたのは見たことあるけど……え? これを使って良いの? っていうか俺の持っている銃で使えるの?」
と、思わずそんな声を上げるとシェフィは、
『精霊がコントロールする感じで実現させちゃったんだ。
使いたかったら使って良いよ、ただ命中はするんだけど、軌道を無理矢理変える関係で威力が落ちちゃうんだよねぇ』
と、そんな声をのほほんとした態度で上げる。
それを受けて俺は……カタログを睨んだまま、しばらくの間、頭を悩ませることになるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は注文やら何やらです。