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新しいサウナと

 

 ゲートを通り、税関で浄化を行い……ホコリ落としの風やらをたっぷり浴びる。


 行きの時には何も感じなかったけども、疲れた体でこれを受けるのは、なんとも嫌なもので……向こうに戻った時にはぐったりだった。


 こちらの帰還はドラー達を通じて知っていたとかで、村人皆が集まっていて……すぐさまシェフィが確保してくれていた、魔獣の解体作業が始まり、俺達はサウナへ行ってこいと促される。


 何も言ってないけども顔や態度から疲れ切っていると伝わったのだろう……皆の案内に従って進むと、そこは今までとは違う場所、同じ湖に接してはいるけども、いつものサウナからは少し離れた場所にある、全く新しいサウナだった。


「こっちのサウナは族長を始めとした女衆が中心となってまたも作った新しいサウナだな。

 女性専用のサウナも欲しいってんで、いくつか増やしていって、どれかを専用にしていくつもりらしいぞ。

 で、ここは専用じゃないが内容が女性向けらしい。

 火力が程々だったり、寝転がれたり……もちろん熱いサウナもあって、2部屋ある作りになってるな」


 と、案内してくれた人がそう言ってからドアを開けて、中へと入れてくれる。


 片方が低火力で、片方が普通のサウナ……ならば普通の方だろうと、服を脱いで体をしっかりと……精霊が綺麗にしてくれたとは言え、マナーはマナーだと丁寧に洗ってからそちらへと足を進める。


「うわ、やってるなぁ」


 入った瞬間、そんな声が漏れる。


 女性向けと聞いて薄々そんな気はしていたのだけども、中に一目で分かる、塩サウナになっていた。


 中央に山盛りの塩、床にも塩、座る階段状の席には塩が入った桶……以前の塩サウナ以上に塩まみれ、売ったらこれだけで一財産になる量があるんじゃないかってくらいの塩サウナの光景が広がっていた。


「……これ、ここらの塩じゃないッスね、海塩みたいッス」


 と、中に足を進めながらサープ、海の塩ということは……海の勇者ヴァーク出身の、ベアーテが企画と準備をした感じだろうか。


 実際にそういう効果があるかは分からないけども、塩サウナは美容に良いとされていて……美容のために気合を入れちゃった感じなんだろうなぁ。


 海塩ということは潮の香りとかするかな? と、思って深呼吸をしてみると……潮の香りではなく爽やかな、高山植物の香りが一気に体に入り込んでくる。


 薪の匂い……にしては香りが強くて困惑していると、そこらの塩をつまんだユーラが、


「ああ、この塩、燻製してあんだな、そこらの木と草とで燻製した香りっぽいぞ」


 と、そんなことを言ってくる。


 なるほど、と頷いたなら席に腰を下ろし、桶の中の塩を鷲掴みにして体に乗せていく。


 刷り込むのではなく乗せるだけ、あとは自然に……サウナの蒸気で溶けるのを待てば良い。


 肩や腕、脚に乗せて……溶ける塩の山をじぃっと見つめながら、サウナの熱をたっぷりと楽しむ。


 塩が溶けると熱が体に染み込むように思えて、ただ溶けるのを見ているだけでもなんだか楽しく……そうこうするうちに砂時計の砂が落ちていく。


 普段なら長く感じるそれも、疲れもあってかあっという間……ゲートの向こうは暑い地域だったのだけども、サウナの熱はまた違って体を責めるというより癒やしてくれる熱で、塩と一緒に疲れまで溶けていくようだ。


 そうして砂が落ちきったなら湖にダイブ……しっかり体を冷やしてから瞑想室へ。


 寝転がりを大事にしているのか、畳のような草を編んで作ったらしい広い床が用意されていて……枕まで用意されていたので、素直にそれを使って寝転がる。


 寝転がって……だけども眠らないようにしながらしっかりと心地よさを味わう。


 爽やかな高山植物の香りが床や枕からもしてきていて……あまりに心地よすぎて眠りそうになっていると、ととのいが始まり……そしてはっきりと分かる程の、加護が体を駆け巡る。


『今回は遠出してまで頑張ったからね、その分強めの加護だよ』


 と、シェフィの声……ととのいが心地良いので目を開けもしないし、返事もしないが、一応こくりと頷いての反応だけ示しておく。


 体が強くなっているというよりは、何か薄いヴェールのようなもので包まれている感覚があって……同時に疲れがはっきりと分かる程に、ちょっと気持ち悪いくらいに体からすっと抜けていく。


 ととのいのリセット感覚とは全然違う……高級な栄養ドリンクを飲んだ時のような感覚に近いかもしれない。


 ……アレの高いのってたまにやばいくらい効くのがあるからなぁ、体が疲れているはずなのに疲れがすっと抜けて、キビキビ動ける……動けてしまう。


 その分後で反動が来たりする怖いものなのだけども、こちらは精霊の加護、体に悪いことはないはずで……ただただ爽快感だけが残る。


 ととのいと加護とですっきり爽やか、完全に疲れをリセット出来た俺達は……三人同時に盛大な腹の音を鳴らすことで次にすべきことを理解する。


 ととのいも終わったからと立ち上がり、着替えを済ませて足早に村に戻り……早速食事だと、食堂コタへと足を向ける。


「おう、新しい魔獣料理はまだまだ試作中でな、普通の飯になるが勘弁してくれだってよ。

 そういう訳で今日はバター鍋だ」


 と、そう言われて俺達の腹は更に鳴る。


 バター鍋……春に採れる山菜と川魚をたっぷりと入れた鍋を、これまたたっぷりのバターで煮込む鍋料理で、前世で言うなら石狩鍋とかが近いのだろうか。


 新鮮な山菜というだけでも俺達にとってのごちそうなのだけど、更にそこに美味しいバターがたっぷりで……普段はあまり食べない川魚も一気にごちそうへと進化してくれる。


 そしてパン、シャミノーマではあまりパンを作らないが、この鍋を作る時はしっかりと作る。


 発酵はさせないのでパンというのりはナンが近いのだろうけども、パンと呼び……そしてこれがバター鍋に良く合う。


 汁にひたすだけで美味しく、具材を挟んでも美味しく……俺達はすぐさま席について食器とパンを手に取る。


 そうして鍋をよそってもらったなら、すぐさまパンで具材を挟みながら器から持ち上げ……それを食欲のままに口の中へと押し込むのだった。



お読みいただきありがとうございました。


次回は食事やら何やらです。

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