影との戦闘
加護を受けたかのような身体能力で駆けてくるゾンビ6体。
それぞれ大きな武器を構えてあっという間にこちらへと迫ってきて……俺はグラディスに突撃の指示を出し、ライフルを猟銃に持ち変える。
そして一発弾ではなく散弾を装填し……さっと構えてすれ違いざまの二連射を決める。
相手は6体、俺が後衛をするという手もあるけども、それではユーラとサープの負担が大きすぎる。
そういう訳で散弾を放ちながら6体の間を駆け抜けていき……追撃などがないことを確認してから踵を返させ、振り返ってゾンビの状況を確かめる。
散弾は2体のゾンビに命中したようだ、黒い影に覆われたような体に、切符に改札パンチで穴を開けたような、そんな分かりやすい形でいくつかの丸い穴が空いている。
普通の人間の体であれば、そんなことにはならないはずで……本格的に魔獣化してしまっているらしい。
そんな2体と、無傷ながらこちらに気を取られたらしい1体がこちらに向かってきていて……残りの3体は、ユーラが2、サープが1という形で受け止めている。
これならばなんとかなるかと散弾の再装填をしていると……グラディスが急に体をひねって跳び退く。
直後、先程まで俺がいた場所にブォンという音と共に黒い影の大鎌が振るわれて……あっという間に距離を縮めてきたようだ。
本当に加護を受けているかのような身体能力、一気に冷や汗が吹き出てあとになって恐怖がやってきて……それでも冷静さを失わないようにしながら装填を終わらせ、折っていた猟銃をもとに戻す。
と、またもグラディスが飛び退き攻撃を回避する、今度は2体のゾンビによる攻撃で、2体とも大きな剣……少し形状は違うけども、大剣と呼ばれそうな武器を手にしていた。
黒い影で覆って変形させた……元石か何かの大剣で、グラディスが避けたことにより地面に叩きつけられたそれは、乾いた地面をこれでもかと粉砕し、周囲に砂埃を巻き上げる。
砂埃はまずいと歯噛みしていると、すかさず後頭部に張り付いていたシェフィが動いてくれて『後払いだよ』と、そう言いながら工房で作ったらしいゴーグルマスクのような仮面を顔に装着させてくれる。
砂が目に入ってしまったら銃で狙うも何もない、接近戦での経験はからきしで、心の目で見るとか超人的な真似はまず出来ないので、こういった装備は今後もしっかり用意しておく必要があるだろうなぁ。
なんてことを考えながら銃を構えていると、砂埃の中から大鎌ゾンビが飛び出してきて、横薙ぎに大鎌を振るってくる。
あまりの勢いに思わず体をのけぞらせてしまうが、そんな程度では間に合うはずもなく、当たりそうになってしまう……が、そこはグラディスが上手く回避してくれるので問題はない。
後退りをし、すぐさまステップを刻み、相手の横側を狙える位置に移動をしてくれる。
すぐさま二連射。
とりあえずこれを続けていれば勝てそうだと、そんなことを思うがゾンビはまさかの行動を見せてくる。
1体はそのまま受けてダメージを拡大させたが、もう1体が大剣を振るって散弾の多くを叩き払ってしまう。
そんなこと可能なの!?
と、驚くと同時にまた大鎌が飛び込んできて、グラディスが回避すると地面を叩いて砂埃を舞わせる。
散弾を受けてボロボロの大剣ゾンビも地面を叩き始め……砂埃が良い目隠しになると気付いたようで、こちらを狙わずに地面攻撃を繰り返し始める。
面倒くさいことをと歯噛みをしていると、グラディスは大きく駆け出し、砂埃の発生地点から距離を取ることを選択し……駆けながらこちらを見上げ、さっさと装填しろと表情で促してくる。
それを受けてすぐさま装填、いつでも撃てるようにして……グラディスはユーラ達の方へと駆けていく。
連中が砂埃やら何やらと面倒なことをしてくるのなら、他から狙えば良いと、そういうことなのだろう。
しかしユーラやサープは近接戦闘をしている訳で、そこに散弾を打ち込むのもなぁ、ライフルに持ち変えるべきか? と、グラディスの背で頭を悩ませていると……グラディスがその答えを見せてくれる。
駆けながら頭を下げて、角を相手に向けて……駆ける速度を増させての突撃。
ユーラが戦っていた2体のうちの1体を角で突き上げ吹き飛ばし……散弾を打ち込んでも全く問題ない状況を作り出してくれる。
それならばと体勢を崩しているそいつに2連射を放つ。
どちらもど真ん中に命中、黒い影に丸い穴がいくつも空いて、黒い影よりも穴の方が大きいというか、穴が大半を占めているような状態となる。
すると……ゾンビというか黒い影がぐつぐつと泡を立て始めて、そうして影が崩れていく。
崩れて地面に落ち、黒い水たまりのようになって……そしてすぐさまシェフィがそれを浄化して、浄化されたことにより塵となって消えていく。
ゾンビになってしまっただけでも哀れだけども、そうやって消え去ってしまうのもなんとも哀れで……言葉もない。
『あのまま生きるよりはマシだよ、こうして浄化されてるしね』
そんな俺の心を読んだのかシェフィがそう言ってきて……そしてまたグラディスが体をひねってから駆け出す。
直後、大剣と大剣と大鎌が先程までいた場所に襲いかかり……どうやら砂埃から出てきたゾンビ達が追撃を仕掛けてきたようだ。
ならばと距離を取りながらの再装填、追いかけてきたゾンビ達にまたも散弾の二連射をする、が……大剣2本が結構な量を切り払ってしまって、連中の体に届いたのは一部だけだった。
一部だけでは大したダメージにならず、連中は更に追いかけてきていて……それでも俺は散弾が一番だろうと再装填を試みる。
一部は当たっているし、切り払いという動作を強要しているし、とりあえずこちらはノーダメージなのだから、この戦法を続けるべき……のはずだ。
『グラディスの体力は無限ではないからね?』
と、シェフィからそんな忠告を受けたことで一瞬揺らぐが、グラディスはまだだいけると、そんな顔を向けてくれていて……ならばと俺は迷うことなく、装填を終えた猟銃を構え直すのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は続きのあれこれです。