小休止
サイ魔獣の討伐を終えて、グラディスにその死体を引いてもらいながら拠点に戻ると、ユーラとサープもほぼ同じタイミングで拠点へと到着したようで、早速解体を始めようとしている。
そこらの木を伐採し、組み上げて吊り上げ台のようなものを作り……そこに吊るしての解体をしたいようだけども、サイ魔獣がかなりの重さだからか、苦戦しているようだ。
台は問題なく出来上がっていて、重さに耐える頑丈さもあるけども、引っ張り上げるのが難しいようで……合流した俺は、グラディスに吊るし用のロープを引いてもらっての吊り上げを提案し……グラディスのパワーであっさり成功。
……加護があってもやっぱり恵獣には敵わないようだ。
吊り上げが終わったなら解体を開始し……皮や余分な肉など、持ち帰るものはシェフィに預けて……それから一部の肉を焼きながらの休憩タイムとなる。
焚き火を起こし、その周囲に大きめの石を並べて、その上に肉を置いての石焼きで……じっくり焼きながらふと思い出したことがあって声を上げる。
「そう言えば、サイの角は薬になるなんて迷信があっちの世界であったけど、サイ魔獣だとどうなんだろうね?」
「へぇ……薬にするよりは武器にしたくなる鋭さだがなぁ、どうなんだろうな? 試しに焼いて食ってみるか?」
するとユーラがそう返してきて……いやいや、仮に薬になるとしても、それはどうなんだろうと、そんなことを内心で考えていると、焚き火の上辺りでふわふわ浮かんでいたシェフィが言葉を返してくる。
『普通にお腹壊すからやめたほうが良いよ。
薬にもならないし……まぁ、毒でもないんだけども、食用でもないかなぁって感じだね。
下手に食べちゃうと硬すぎてお腹の中を傷つけちゃうだろうし……頑張って粉末にしても、消化に悪影響があるくらいじゃないかな。
……それよりも油断はしないようにね、こいつらはまだまだ雑魚の部類なんだからさ。
サイ魔獣の魔王級だってまだ姿を見せていないし……他の魔獣だっているはずなんだよ』
そう言われて俺達が気を引き締めていると、シェフィは満足げに頷き……それから肉の側へとふよふよ近付いていき……俺に向けて期待を込めた視線を送ってくる。
「塩ハーブ? それとも塩だけが良い?」
恐らく味付けのことだろうと考えてそう声をかけると、シェフィは首を左右に振ってから一言、
『お醤油』
と、返してくる。
「……ポイントで作れと? いやまぁ……醤油ならそんなにポイントも使わないだろうから、良いけども……。
……醤油が合うお肉なの?」
『うん、きっと合うはずだよ。
サイはそこまで美味しくないらしいけど、これは魔獣だからねー……全然違うお味で楽しめるはず。
浄化の際に味の邪魔になる成分も抜いておいたから、後はお醤油さえあればおいしーく焼き上がるはずだよ』
「そ、そうなんだ……。
じゃぁうん、ポイントで醤油を作ってください……料理酒と砂糖まではいらないかな?
……いるようならいっそ、混ぜ込んだ調味液でも良いよ」
『了解! じゃぁそれで!
じゃぁちょっと作ってくるから、待っててね!!』
と、そう言ってシェフィはポイントを取り出し、白いモヤの向こうの工房へと持っていき……割とすぐに醤油差し瓶を持って戻ってきて、それから石焼き肉へと振りかけていく。
瞬間、立ち上がる懐かしい香り……ユーラとサープは初めての香りということで、最初は顔をしかめていたけども、段々と慣れてきたらしく、醤油の香りを楽しむようになり……楽しんでいるうちに、肉が焼き上がっていく。
シェフィが色々調整してくれたようだから、食中毒の心配はなさそうだけども、それでもじっくり焼いて……ユーラとサープも、ジュド爺に他の地域の肉はよく焼いて食うようにと言われていたからか、中までしっかり火が通るまで手を出そうとはしない。
焼き上がったなら、それぞれ持ってきた食器でもって食事開始……戦闘で減った体力を回復させようと一気に肉にがっつく。
……久しぶりの醤油味、香りだけでもたまらなかったけど、口の中にいれると一気によだれが溢れてきてしまう。
体が変わっても、醤油味への思いは変わらないようで……ついでに肉が初めて食べる味なものだから、なんとも楽しい食事になる。
言ってしまうと草の匂いが強い、クセが強いと言うか……独特の臭みがある。
そして硬く……焼いているのに肉の食感が独特で、なんと表現したら良いか、すごい硬い生の魚の身にそのまま食らいついている、というような気分になる。
刺し身状態ではなく、皮を向いただけの、一切カットしていないものをガブリと。
それでいて肉汁が溢れてきて、しっかり肉の味ではあるので頭の中が軽く混乱してしまう。
『んん~~、良いね、醤油味!』
「へぇ、不思議な感じだけど悪くない味付けだな」
「嫌いじゃないッスね……もっと美味しい肉で使ったら絶対人気になるッスよ」
シェイとユーラ、サープはそんな感想を口にしながら肉を食べ進めていて……醤油は良いけど、肉は今ひとつという感想のようだ。
しかしまぁ、普通に食えるし、臭くて食べられないとかではないので、これはこれで……慣れたら楽しいお肉ではある。
ただの塩だけでは苦戦したかもしれないけど、醤油のおかげで全然ご機嫌な食事になってくれた。
そんな感じで肉を食べあげて……ひと心地、鍋を用意し、革袋に入れて持ってきたハーブ入りの水を沸かしてお茶にして飲んで……と、休んでいると、なんとも言えない気配がどこからか漂ってくる。
圧力と言ったら良いのか、悪寒と言ったら良いのか……ヤバい何かが近付いてきている。
すぐさまグラディスが立ち上がり、俺達も武器を手に立ち上がる。
シェフィは冷静に焚き火の火を消して……食器などの道具の片付けもしてくれる。
それを見て俺達は戦闘態勢を整えることだけに集中することにし……それぞれ武器を手にしたなら、散らばって気配を迎え撃つための陣形を取る。
ユーラが中央、サープと俺は左右。
そして俺はライフルを構えて姿が見え次第に狙撃をするつもりで、しっかりとスコープを覗き込む。
すると何かが駆けているのか、立ち上がる土煙が遠くに見えて……俺はその何かへと銃口を向けて、引き金に指をかけるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はVS何かです