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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第一章 スロー・スノー・サウナ・ライフ

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精霊式製本


「ヴィトーが善い行いでもって溜め込んでくれたものを浪費してしまうようで気が引けますが……それだけの知識が手に入るのはとてもありがたいです。

 ……各家長から反対意見もなく、ヴィトーが許してくれるのならその本を手に入れたいのですが……」


 そう言ってアーリヒが周囲を見回し、それに続く形で周囲の家長達の様子を見てみると、子供のためにとアーリヒを族長に据えた人達だけあって、反発の色を見せている人は誰もいない。


 それどころか今幼い子供やこれから生まれる子供を救えるかもしれないということに希望を見出している様子で……これはこのまま本と漢方薬を手に入れるということで話が決まってくれそうだ。


 俺としても子供達を病気から守れるのであればそうしたいし……子供を失って沈む親とかアーリヒの姿を見なくて済むのなら、2万ポイントくらいなんでもないと言う思いもあるし……うん、十分な価値はあるはずだ。


「……では、漢方薬の本をまず手に入れてその本を読み進めていって、残りのポイントは必要に応じて漢方薬を手に入れるために使う、ということで良いですか?」


 そんなことを考えて心を決めて、それから俺が家長達にそう尋ねると、誰もがうんうんと力強く頷いていて……では早速注文するかと、そういう流れになりかけた所で俺の頭の上でゴロゴロと転がっていたシェフィが声を上げてくる。


『あ、その本についてはヴィトーしか読めないからね、とっても特殊な文字で書かれていて、ヴィトーがその読み方を誰かに教えたとしても誰にも読めないよ』


 ……それを今言うかね……。


 そもそもシャミ・ノーマ族には文字という文化が無い、商人達との取引のためにアーリヒと一部の家長達が簡単な文字と数字を読めるという状況で……この本をきっかけに文字の読み書きを教えるのも良いかもしれないと、そう考えていた俺の心の中を読んでのことなのだろう……。


 アーリヒも家長達もシェフィの言葉を受けて「だからどうだと言うのだろうか?」とそんな顔をしていて……苦い顔をしているのは俺だけのようだ。


 それで俺が死んだりしたらどうするんだとか、色々言いたいことはあるけども、恐らくシェフィはそこら辺のことも考えた上でさっきの発言をしているのだろう。


 俺が生きている間だけの特典だよ、だから俺のことを大事に守ってね、変な欲を出して俺の機嫌を損ねないようにしてね……なんてシェフィの心の声が聞こえてくるかのようで……過保護というかなんというか、そんなことをしなくても村の皆は変な考えを起こさないと思うのだけどなぁ。


 ……まぁ、うん、文字については仕方ない、過保護過ぎることについても、今ここで話すことではない。


 咳払いをし、場を仕切り直した俺は改めてシェフィに向けて声を上げる。


「じゃぁシェフィ、漢方の処方についての本を作ってくれ。

 残りのポイントは温存で……本の内容は子供への処方についてもしっかり書いておいてくれよ」


『はーい、じゃぁ今から作るねー』


 そんな俺に対しそう返してきたシェフィは、以前とは少し違って、作業台を引っ張り出すのではなく、作業台を引っ張り出していていた『どこか』にすっと入り込んでいく。


 どこかに入り込んで姿が消えて……その辺りに白いモヤが浮かんで、その中からはガチャンゴトンと不思議な音が聞こえてきていて、音がする度にモヤが揺れて……そして一瞬、モヤの中に何かが見える。


 それは建物のようだった、看板がありガラス戸があり、品物が並ぶ棚のようなものがガラスの向こうに見えていて……まるで駄菓子屋のようなその建物の看板には恐らく日本語が書かれている。


 『精霊の印刷工房』


 ……異世界に来てまでまさか日本語を見ることになるとはなぁとか、精霊の世界の工房ってそんな駄菓子屋みたいな見た目なのかよとか、色々言いたいことはあったけど、言った所で誰にも通じなさそうなので何も言わず、黙って見守っているとそのガラス戸の向こうからエプロン姿のシェフィが一冊の本を手にしながら姿を見せる。


 その本は最初、シェフィの小さな手に収まる大きさだったのだが、シェフィが工房から出てくると少し大きくなって、モヤから出てくると更に大きくなって……そして俺の手の上に置かれる頃には普通というかなんというか、大体週刊誌くらいの大きさへと変貌していた。


 ……一体何がどうなっているのやら。


 そんなことを思いながら精霊のやることにいちいち突っ込んでも仕方ないかとその本の表紙に視線を落とすと、こんな文字が視界に入り込む。


『わかる! 漢方薬の処方についてQ&A 症状逆引き索引付き!』


 何種類もの生薬を集めて撮影したらしい写真の上に、本屋でよく見るようなキャッチーかつポップな書体が書かれていて……それを見て俺は思わず、


「日本語かよ!? っていうかこの本、向こうの本屋から持ってきただけじゃないだろうな!?」


 なんてシェフィ以外に通じないだろう叫びを、声を裏返らせながら口にしてしまう。


 慌てて裏を見るとバーコードがあって値段までが書かれていて、本屋から持ってきた疑惑が更に高まるが、裏から本を開いてあとづけを見てみると『精霊工房出版 著者シェフィ』の文字があり……一応ちゃんと精霊の工房で作ったものみたいだ。


 一体なんだって日本語で、こんなデザインで作られているんだと突っ込みたくなるが……確かにこの世界の、沼地の連中の文字で書かれていても困るし、読み辛いしで……俺のための本である以上は、日本語にするしか無かったのだろう。


 それから俺はアーリヒを始めとした皆が、突然訳の分からないことを言い始めた俺に困惑する中……なんとも恥ずかしい気分になって顔をうつむかせ、皆の視線から逃げる形で本の内容をささっと読み進めていく。


 すると量を減らせば漢方薬を子供に飲ませても問題ないということが分かってきて、子供に飲ませてはいけないようなものはそもそもシェフィが作ってくれない、みたいなことも書かれていて……それならまぁ、うん、安全性については安心出来そうだと安堵のため息を吐き出す。


 本のページ数はざっと100ページ、この場で全てを読むというのは無理があり……そこら辺の確認を終えた俺はアーリヒ達に、今読んだ内容についてを話していく。


 すると訳も分からず困惑していたアーリヒ達の瞳がさっきまでの輝きを取り戻していって……そして子供にも使えるということが余程に嬉しかったのだろう、アーリヒを含めた皆からコタを震わせる程の大歓声が上がることになるのだった。



お読み頂きありがとうございました。


次回はこの続き、ヴィトーのあれこれとなります


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